水月光庵[sui gakko an]

『高学歴ワーキングプア』著者 水月昭道 による運営
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政権に届け! 高学歴ワーキングプア問題 その1

2010年06月15日 | 庵主のつぶやき
管首相が所信表明演説で高等教育現場の環境整備についてこう触れた。

「我が国の未来を担う若者が夢を抱いて科学の道を選べるような教育環境を整備するとともに、世界中から優れた研究者を惹きつける研究環境の整備を進めます」

本気で進めて頂けるのであればむろん、これほど嬉しいことはない。
しかし、民主党は昨年末の事業仕分けで、研究職ポストをめぐって深刻化する雇用問題に対し、「市場原理にまかせればよい」などの無定見ぶりを発揮したばかりである。

文部科学省の「若手研究育成」事業に対し、縮減を求めた仕分け人たちのつけた理由に、あきれ果てた若手博士たちは少なくない。

集約すると、概ねこうなる。
「就職困難な若手研究者への生活支援的意味合いが強いので、税金を投入する必要性や意味をそれほど強く感じない」

現場をあまりにも知らないと批判せざるを得ない。

二〇〇九年一月十八日付の『朝日新聞』(朝刊)では、理系ポスドク(博士号を有する任期付研究員)は一万五千人(文部科学省調べ)、文系専業非常勤講師は二万六千人(首都圏大学非常勤講師組合調べ)とある。二つとも非正規雇用ポストであり、あわせると、四万一〇〇〇人にものぼる。

実は、我が国の教育や研究は彼ら非正規雇用の博士たちによって支えられているとことが大きい。大学の講義が非常勤講師の手に置き換わる率は増加し続けており、私学に至っては半数近くの講義がすでに彼らに〝外注〟されているとも言われる。理系の研究現場でも同じように、ポスドクという名の任期付ポストで半永久ループに甘んじている博士たちは少なくない。

万一、その多くが急にいなくなったりすれば、高等教育と研究、科学技術開発の全てがストップするほどの打撃を受けることは間違いない。

だが、事業仕分けでの仕分け人たちの発言を聞く限り、こうしたことの一切がわかっていないのだと思わざるを得ないのだ。

すでに、我が国の将来を担うであろう若者たちは、研究の道に進むリスクを忌避し、大学院博士課程の定員割れすら進みつつある。この国で「夢を持って研究者の道を進もう」などと責任を持って言える人は果たしているのだろうか。アカデミアに少しでも関係する人間なら良心がとがめて決して口にできない台詞であろう。

なぜ、こうした問題が起きたのか、その構造については拙書『高学歴ワーキングプア』(光文社新書)にて多くを述べた。

以降では、どうすればこの泥沼の博士問題を解決に導けるのか。そんな視点から、数回に分けて本問題を論じてみたい。
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