著名な宇宙物理学者・ホーキング博士逝去の報が世界を駆け巡るなか、本当に大勢の人が博士に弔意を示しておられます。
私たちがどこから来て、どこへ行こうとしているのかを、明らかにしようと生涯を捧げてくださった博士。心より哀悼の誠を捧げます。
思えば、博士のベストセラー『ホーキング、宇宙を語る』を手にした頃、たしか私はバイク便ライダーでありました。大学を中退し傷心を抱えながら手にしたこの書は、悩みで固くなりがちな心を解きほぐしてくれる優しさと刺激に満ちたものであったとうっすらながら記憶が残っています。
一方、著者については何年経っても鮮明に思い出せるほど、その経歴や生き方に衝撃を受けたものです。
ALSという病を知ったのもそれがもちろんはじめてのことでした。
それから約二十年後、自分自身がその病にかかわるテーマで研究をしていようとは、当時夢想だにできませんでした。
ホーキング、宇宙を語る―ビッグバンからブラックホールまで (ハヤカワ文庫NF) | |
クリエーター情報なし | |
早川書房 |
博士がその本質に迫ろうと試みたこととは次元を異にしているとはいえ、まさに人生とはどこでどうなるのか、本当に一体どこから来てどこへ向かっているのか、ひとりの悩める人間としての疑問はつきません。まったくわからないことばかり、と振り返ってしみじみ感じ入っておることです。
少し悲しい知らせのなかでではありますが、僅かながら心が軽くなるニュースも個人的に届いたりして、こうしたご縁の妙にまた不思議さも感じています。
ホーキング博士と同じ病を抱えた、さる患者さんと数年をかけ共同研究をした論文をとりまとめ博士学位論文として提出した研究者から、一冊の本が届いたのです。
『コミュニケーション支援のフィールドワーク』、日高友郎、ナカニシヤ出版
実は私もそこに多少関係していましたので、このタイミングで、というところで驚いています。
ホーキング博士は、わたしたちがこの宇宙に存在する理由を探ろうとされましたが、私たちは「困難や苦しみを抱えながらそれでもなお笑うことを可能とする人生のおくり方」をここで模索しておりました。
その成果をホーキング博士に捧げたいと思います。優れた先人の導きに感謝するとともに、たゆまぬ努力で数多くの知見を一冊の本としてまとめあげられた研究者・日高友郎博士に敬意を表します。
ALSの患者さんや後進の研究者の励みとしていただけるものへ仕上がることを願って、日高博士は日々筆をとられたようです。
なお、日高先生が仕上げられた学術書のほかに、一般書として下記本も刊行しております。本書についても、患者さんから実に多くのレクチャーを賜った次第です。
心の荷物を降ろすには自力だけでは難しい。であれば、他の力の働きに目を向けてみるのはどうだろか。この世で救われる縁を頂いている我が身に気づけるかも。 | |
朝日新聞出版 |
「他力本願」という言葉は、ニュアンスとしてはちょっと悪い感じをもたれがちですが、自分の掌の上にない困難に直面したら一旦そこから離れ、次にはまたその流れのなかに身を投じながらも、苦しいなかにも再び笑えるかもしれない一瞬を掴むきっかけにしよう、という意図がここにはこめられています。
商業的にはこれまでのところ本書は苦労が絶えませんが、読後に心が軽くなることを願って、関係者とともに形作られた一冊です。よろしければ、ぜひお手に取っていただけましたら幸いです。
合掌