水月光庵[sui gakko an]

『高学歴ワーキングプア』著者 水月昭道 による運営
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名古屋大学学祭にて河添誠さんとご一緒しました

2009年06月07日 | 庵主のつぶやき
昨日、名古屋大学の学祭にて講演を行ってきました。
労働組合「首都圏青年ユニオン」の書記長をされている、河添誠さんとご一緒させていただきました。

当日、教室は満杯で、学園祭の熱気が教室のなかにしっかりと入り込んでおりました。
その熱気を受け、私も高学歴ワーキングプアについて熱く語りましたが、個人的には河添さんのお話が本当によかった。

「弱い立場に追い込まれていくにつれ、もはや何一つ声をあげることもできなくなっていく。とにかく生きようと必死になればなるほど、足下をすくわれる形で罠にはまり、そして生きるか死ぬかというところに追い込まれる」

ハケンという労働の位置から、なぜ離れようと思っても離れることができないのか。
手持ちに現金がほとんどない、貯蓄がないという状況のなかでは、定住のための家を借りて住むこともできない。
早く屋根の下で安心して暮らしたいなら、寮などがセットとなったハケンという職種に就くのが手っ取り早い。
だが、やっと手にした給与は、寮費や布団などの設備費、食費、他もろもろで引かれ、貯蓄ができるような金額は月末に全く残らない。
そして、ある日、企業の生産調整などの影響を受け、ハケン切りにあうことになる。
ハケン会社からは、おなぐさみに次のハケン先の提示を受けるが、待遇は明らかにこれまでよりも悪い。
だが、断れば、寮から追い出されるので、屋根の下に住み続けたいのならその提案にのるより他はない。
こうして、不満の声などを何もあげることもできず、とにかく生きるためにハケンというシステムの上に乗り続けなければならない状況に追い込まれる。
だが、働けど、働けど、手元にお金は残らない。
そして迎えた経済危機。
もうハケン会社も次を紹介する体力を失っていた。
これまで、生産を縮小する企業があれば、拡大するところもあったが、全ての企業が縮小に入ったからだ。
こうして、仕事を失うと同時に家を失う人がこれでもかというほどでてしまった。
年越し派遣村にはこうした人たちが集まった。
ハケン切りは、実は今に始まったことではない。
もうずっと前から、実は存在していた。だが、いざなぎ超えといわれる景気拡大の局面のなかであまり目に映らなかっただけ。
それが、経済危機で、あぶりだされた。

河添さんが説明する、貧困への転落の構図とその無限ループが、先の言葉に集約されていました。

我が国では、新しい生活をはじめるにあたって、特に住居を確保しようとする際に信じられないほどのお金がかかります。
そうした最初の資金繰りができなければ、いつまでも次のステージにあがることはできないという現実を、河添さんはたんたんと語ってくれました。
貧困というものは、社会にできあがっているある種の仕組みのなかで、助長されあるいは繰り返しを余儀なくされているものであって、それは決して個人の努力が足りないなどというような粗雑な論に結びつけられるべきものではない。この河添さんの言葉に、私は「博士問題も全く同じ構図だ」との思いを改めて強くしました。

仕事のない博士たちは、お金を払ってでも大学に残り研究を続け、かすかな就職の望みを手にがまんの日々を送るしかない。
学会や研究室の雑用が申しつけられれば、〝よろこんで〟引き受けるしかない。
だが、学会の年度の変わり目に請求される巨額の年会費などの支払いをすると、手元に残るお金はない。
それどころか、博士号を持っていても、大学に籍をおくためには学費を払い学生として残るしかないため、さらにお金は消えていく。
加えて、奨学金の返済を迫られ、払えないとなったらブラックリスト入りとまで言われ不安におののく毎日を過ごすことになる。
実家に住み続けられるならまだいいが、アパート代や生活費には次第に困窮するようになる。もし、大家さんの都合などで引っ越しを迫られたら、とたんにいくところに困ることになる。
そうこうするうちに、ある日、非常勤講師や臨時職員などとして一生懸命働き、日々を慎ましやかに生きていたはずの博士たちに雇い止めが言い渡される。
どこにいったらよいのか。

河添さんは、結びの言葉にかえて、実は大学というところに期待していますと仰った。
世間の不公平や矛盾を指摘し、改革を具体的に進めていくためには、良心の砦であるはずの大学というとこにこそ頑張ってもらわなければならない、と。

横に並んでいた私に、強烈な頭痛が押し寄せてきたことは言うまでもない。


*最後に、本企画をたてられた名古屋大学の大石鉄太郎さん(名古屋大学大学院工学研究科 助教)の企画力、そして和田先生の名司会に大変助けられました。いろいろとありがとうございました。

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企画名:  シンポジウム「使い捨てられる労働力~人間らしく働きたい~」
主催:   名古屋大学平和憲章委員会
協力:   名大学生9条の会、名古屋大学教職員組合
日時:   6月6日(土)  10:30~12:30
場所:   名古屋大学(名古屋市千種区不老町) 「全学教育棟」3階C35教室
講演者:  水月昭道氏(高学歴ワーキングプア 著者)、河添誠氏(首都圏青年ユニオン 書記長)
司会:   和田肇(名古屋大学大学院法学研究科 教授)
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