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DREAM-BALLOON

夢風船って
地球なのかな?って思ったりする...

ブログ開設から4000日!

65:ツルの里~3班!~

2009-09-21 23:41:16 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 のほほ。この第1回九黒ナベヅルミーティングという行事は、九黒町にとってよほど重要な行事であるらしい。なんと・・・この行事の開会を記念して、交流センターの花壇の一角に石碑が建てられたではないか!!一斉に、どよめきと拍手が起こる。開会式は次の工程へと移る。
「『九黒ナベヅルの会』、会長、南竹治(みなみたけおさむ)さんにこれからの日程についてお話をいただきます。」
南竹・・・かわった苗字だ。南竹会長と思われる人はスタスタと、前に歩いて出て来た。普通のおじさんといった感じで、強いて特徴を言えば単調な眼鏡をかけている。
「えぇ・・・みなさん。本日はこれほどまで多くの方々に、九黒ナベヅルミーティングにご参加いただき、誠に嬉しく思っております。さて、これからの日程ですが・・・パンフレットを配って説明いたしますので。」
すぐに、参加者全員にパンフレットが配られた。あっ・・・何て言うんだっけ?
「ゴリラ!このオレンジ色ってさぁ・・・」
小声で答える真悟。
「アランチョ。」
「あっ。それそれ。」
「2人とも、今日は俺にわからん話が多過ぎっちゃ!」
パンフレットが全員に行き渡ったのを確認してから、南竹会長は話を続ける。
「えぇ・・・これからはですね。班ごとにわかれてですね、行動してもらうことになります。そして肝心の班分けですが・・・」
そうか!この班分けがもし3人別々なら、大人に紛れて独り子どもということも・・・。ちょ~重要だ!真悟もオッキーも、それがわかっている。

「パンフレットの最後のページに載っております。」

3人とも、パンフレットを開くのは同じくらい早かった。上から順に名前を探す。・・・!!
「あった!」
「俺も!」
「みっけ!」
そして3人とも・・・

「3班!!!」

よっしゃぁ!ひとまず、3人別々の危機は乗り越えた。3班のメンバーは僕たちを含めて5人。つまり後2人。砂井(すない)あゆみさんと・・・南竹治!?僕たちは、慌てて前で話す会長を見る。
「よろしいですか?それでは班ごとに分かれてください!あっ、そうそう。1番上に名前の載っている者が九黒ナベヅル会の者で、班長的な役割ですので。」
もちろん3班の名前のトップは『南竹治』だ。それにしても・・・このド素人の班に会長がつくのか。なんだか申し訳なく、ある意味ですごいプレッシャー。

 会長が班長を務めることもあり、僕たち3班は中央の前の方に円を作った。まず、会長が挨拶をする。
「初めまして!私が南竹治です。・・・って、さっき前で喋ったからわかるよな。ははは!・・・うむ!さて、じゃぁこっちから自己紹介して貰おうか。」
どうやら、会長は気さくで気の利く人のようだ。僕たちが緊張することのないよう、明るく振舞ってくれているのがわかる。
「えっと・・・中学1年の植村真悟です。東岐波から来ました。あだ名はゴリラです。」
なんと!ついに、自分で言ったか!真悟に続き、僕、オッキーと自己紹介を済ませる。っと言っても、真悟のを自分の名前に変えて、あだ名を変えればいいから楽なもんだ。最後は・・・砂井あゆみさん。知っている人のイメージでいくと・・・そうだ!レンジャーの二町さんに近い!
「え~、砂井あゆみです。鳥に特に詳しい訳じゃないです!仕事は・・・理由があって内緒。あっ!キャバクラとかじゃないからねっ!」
そう言って、独りで焦る砂井さん。あぁ・・・こんな感じも二町さんに近いかも。というか、いたんだ!僕たち以外にも鳥に詳しくない参加者!確かに、砂井さんからは専門家オーラが出ていない。というより、鳥を観察する装備じゃない。本当にバードウォッチングなんてしたことないのだろう。僕たちだって、双眼鏡くらいもっている。じゃぁ・・・なんで参加したんだ?謎は深まった。
 一通り自己紹介が済んだ所で、じっと黙っていた会長であり班長の、南竹さんが話し始める。
「ありがとうございます。この班は、全員が特別な専門家ではない珍しい班ですな。あっ、いえ。いいんですよ!・・・明日の発表がどれほど素晴らしいものになるか。私も楽しみです。」
「・・・発表?」
「おっと。そういえば、この行事についての詳しい説明がまだだったかな?まず、この九黒町だけど、実は、ナベヅルや住民にとっていろいろな問題が起こってるんだよ。」
やっぱりそうなんだ!どうやら、想像していたのと方向性は間違っていなかったらしい。続ける会長兼班長。
「それでね。この2日間で、それを実際に目で見て、体験して、一緒に考えてほしいんだ。その為に、ツルの観察を行ったり、講演会なんかもある。そして、最終段階!それが明日の最後に予定されている、班ごとの発表だ!君たちのように子どもだったり、鳥に詳しくない砂井さんのような人だからこそ気付けることもたくさんあると思う。とにかく・・・せっかく同じ班になったんだ。楽しくやろうじゃないか!」
南竹班長の顔には、ガッツがみなぎっている。やっと僕にも、状況が飲み込めてきた。

「うほぉ!」

真悟が気合を入れる。
「おっしゃ!俺たちでその問題とやらを解決する勢いでいこうぜ!」
っとオッキー。
「私もなんだか楽しくなってきたわよ!」
っと砂井さん。
「で、班長。今からどうするんですか?」

「藤村君、いい質問。我等3班は、まずナベヅル資料館へ!!レッツ?」
声を合わせる残りの4人。

「ゴー!!」

 こうして、3班はまだどの班より早く、そしてテンション高く、目的地へ出発した。このテンションだ。専門家オーラ組は相変わらずチラチラ見てくるが、さっきまでほど気にはならない。はて・・・ナベヅル資料館ってなんだろう?そして、この静かな田舎町とツルが抱える問題って一体・・・?

64:ツルの里~開会~

2009-09-21 00:43:19 | ★DAILYLIFE★(acco小説)
 九黒駅。その壁にはナベヅルが舞い踊る絵が描かれている。
「ふぅ・・・!やっと着いたぁ!」
2時間座りっぱなしで相当疲れたが、重たい荷物をなんとか電車から引きづり降ろした。ついに九黒に到着!!真悟は、腕時計で時間を確認する。この腕時計がこれまた優れ物で、気温・気圧・標高までわかる。最新のアウトドア用だそうだ。電車のなかでは、この機能のお陰で大いに暇つぶしが出来た。さて、肝心の時刻は12時半前。弁当は、電車の中で食べた。なんとか、受付終了の1時までには間に合うだろう。
「まずは・・・駅から出ようか。」
無人駅だ。
「それ賛成。」

 駅から出た僕たちは、愕然とした。何もない!!極限の田舎の風景。道路の看板だけはあった。
『←ツルの飛来地』
矢印の先は、山道。そういえば・・・この間来たときも、山を登ったらそこに平野があってツルがいたっけ?ここで、ダイレクトに役立つものを発見したのはオッキーだ。
「ちょい!あっくん、ゴリラ。タクシー会社の電話番号が書いてある!」
「おぉ!」
駅の前には、小さな台が設置されており、そこにタクシー会社名と電話番号が書いてあるのだ。何々・・・
「(株)タクシー会社ナベ。・・・ナベってもしやナベヅルのナベかねぇ。」
「うわぁ、ダサい。」
「てか一応、上場企業!?」
なんとも不安は消えないが、他に手はない。真悟が例によって、母さんの携帯で電話をかける。
 予想外にタクシーの到着は早かった。電話からものの2分。車体にナベの文字をプリントしたタクシーがやって来た。今から乗せてもらうのに悪いが、やぱっりダサい。運転手は、年配のおじいさんだ。
「ようこそ!ツルの里、九黒へ!兄ちゃんたち、交流センターでいいの?」
歳の割りに声はハキハキしている。交流センターとは、今日の集合場所。僕とオッキーは後ろの席、真悟は助手席に座る。
「なんで、僕たちの行き先がわかったんですか?」
「何年間、ここで運転手やっとると思っとる!・・・ホントの所は、こんな田舎じゃろうが?観光客が行く場所といやぁ、あそこぐらいしかないんじゃ。はっはは。」
成る程。

 「ひゃっほうっ!」
思ったより、時間がギリギリであることを運転手さんに伝えると、かなりのスピードで飛ばしてくれた。警察なんかいるはずもない。窓を開けて走ると、大自然の風を受けてとても気持ちよく、すがすがしい気分になる。真悟もテンションが上がってきたようだ。
「うわぁ!ナベヅル見るのとか、2年ぶりくらいやなぁ!!楽しみ~!!」
「あれ~?ゴリラ、九黒初めてって言ってなかった?」
「うん。初めて。実は・・・家で見たんよね。自宅の上空を3羽のナベヅルが飛んでいったそ!」
マジか!?真悟が言うんだ。マジなんだろう。おじいちゃん運転手さんが、関心して会話に口を挟む。
「ほぅ。よう見ちょったのぉ。そりゃぁ多分、大陸への渡りを偶然観察したんじゃな。」
運転手さんこそ関心だ。バードウォッチャーでもないのに、知識がある。九黒の人はみんなそんなもんなのだろうか。それにしても・・・バードウォッチングも極めれば自宅にいながらしてナベヅル観察か。・・・ゴージャス。
「さぁ!もうちょっと兄ちゃんたちと会話したいが残念じゃ。」
「・・・え?」
「着いたぞ。」
タクシーを降りた3人の前にあるのがそれだった。『九黒ツル交流センター』。僕たちは、運転手さんに料金を手渡す。
「どうも、ありがとうございました。」
「いえいえ。こっちも仕事じゃぁ。なんもないところじゃが、九黒の魅力を存分に楽しんで帰っての。」
「はい。それじゃぁ。」
頑張れ!(株)タクシー会社ナベ!  

 1時、5分前。今日はやけに、前に来たときより、専門家的な格好の人が多い。受付は交流センターのすぐ前に開設されていた。受付を済ませると、それぞれの名前が書かれたカードが手渡される。緑色の紐がついており、首に掛ける仕組みだ。
「それを首に掛けておいて下さいね。九黒ナベヅルミーティングの参加者だと、一目でわかるので。開会式は1時・・・15分ごろから、この建物の裏で行われます。」
「わかりました。」
僕は言われた通りカードを首に掛けて、顔を上げてあることに気がついた。緑色の紐がよく目立つ。専門家らしき格好の人たち全員、このカードを首にかけている!!
「ねぇ、ゴリラ・・・これってさぁ・・・」
「うん。みんな・・・参加者ってことやね。」
オッキーの顔にも、明らかに焦りが見える。
「ちょい・・・俺らヤバくね!?」
オッキーの“ヤバい”は、この専門家らしき人たちが全員参加者だからじゃない。

専門家オーラを出していない僕たちのようなド素人、それどころか、中学生のような子どもがいないからだ!!

 大きな不安を抱えたまま、裏庭での開会式が始まった。周りの大人たちが、ちらりちらりとこちらを見てくる。もう開会式どころの心情ではない。九黒町の町長であるという人が、前に立ち拍手がおこる。

「え~。ただ今より、第1回九黒ナベヅルミーティングの開会を宣言いたします!!」

冷静に考えたら、この行事がいったい何なのかもろくにしらない僕たち。あぁ・・・これから2日間無事過ごして、自分の探している答えは見つけられるのだろか・・・。