
・「ずっとお城で暮らしてる」/シャーリィ・ジャクスン
あたしは週に2回、村に買い物に行く。大きな買い物袋と、母さんの茶色い靴を履いたあたしを、みんなが見ている。ブラックウッドの屋敷の、ブラックウッドの娘さん。村人たちの誰もがあたしのことをからかうけど、お姉ちゃんはそんなことは気にしちゃダメって言う。じろじろとあたしを見ている、悪意に満ちた村人たちなんて、みんな死んじゃえばいいんだ。そんなときあたしはいつも、月の上の楽園のことを考える。
そもそもの事件の始まりは6年前、おさとうに砒素が入っていて、その料理を食べたあたしの一家全員が死んでしまったこと。屋敷の中で残っているのはあたしと、姉のコンスタンスと、車椅子のジュリアンおじさんだけ。それ以来手の入ってない屋敷の庭園は鬱蒼と草が生い茂り、客人を寄せ付けなかった。
そんな時、従兄のチャールズが屋敷を訪ねてきた。あたしの家にもたらされた、好まざる変化。チャールズはどうにかして、姉とあたしを事件の悲劇から更生させようとしていた。君たちはまだ若いんだ、街へ出て、ボーイフレンドでも見つければ、きっとやり直せるさ…。あたしは、チャールズがお姉ちゃんと話しているのが嫌い。お姉ちゃんを外に連れ出そうとしているのが嫌い。父さんの家具を使っているのが嫌い。この従兄のチャールズの来訪が、やがて破滅的な第2の事件へとつながっていくことに、今はまだ誰も気づいていなかったのだった…。
猫と魔法と空想の世界を愛する女の子が、他所からの外的要因によって外へと開いていく、ちょっとトゲトゲしい感じの「秘密の花園」みたいな作品かな…と思っていたら、それどころじゃなかったという。まず主人公のメリキャットこと、メアリ・キャサリン・ブラックウッド。ちょっとひねくれてるけど本当はいい子なんだろうな、と最初は思うけど、度を過ぎたいたずらでしつこくチャールズを排除しようとするその考え方に、読者は次第に「ああ、この子は本当に狂っているんだ」と確信するようになる。
メリキャットばかりでなく、他のブラックウッドの家族も同様に狂気に侵されている。チャールズと話を合わせたり一見まともなんだけど、どうしても妹を叱れないコンスタンス姉さん。事件のことばかりを思い出していて、それをずっと原稿に書いているジュリアンおじさん。この狂気に満ちた一族は一見いびつだけども、外部からの手を借りずにうまく生存できているのだと。
ラスト近くで、ブラックウッドのお屋敷はチャールズのパイプの火によって半焼してしまう。そこへ村人たちがやってきて、日ごろの鬱憤に屋敷を破壊し尽くす。このシーンがすごい残酷で、ひさしぶりに脳をやられてしまったシーン。そうして廃墟になってしまってもまだ、ブラックウッドの一族は人目を忍んで屋敷に住んでいる。
そんな中メリキャットがふともらした告白、実は自分がおさとうの壺に砒素を入れたのだと。それをわかっていたコンスタンス姉さん、それを知っていた上で、姉さんは家族に料理をふるまったこと…。ちなみに火事の原因を作ったのもメリキャットで、彼女がそれを負い目に感じていることもなければ、他の者がその原因を知る由もなくて…。
この計り知れない狂気の闇にぞっとした作品だったな。
あたしは週に2回、村に買い物に行く。大きな買い物袋と、母さんの茶色い靴を履いたあたしを、みんなが見ている。ブラックウッドの屋敷の、ブラックウッドの娘さん。村人たちの誰もがあたしのことをからかうけど、お姉ちゃんはそんなことは気にしちゃダメって言う。じろじろとあたしを見ている、悪意に満ちた村人たちなんて、みんな死んじゃえばいいんだ。そんなときあたしはいつも、月の上の楽園のことを考える。
そもそもの事件の始まりは6年前、おさとうに砒素が入っていて、その料理を食べたあたしの一家全員が死んでしまったこと。屋敷の中で残っているのはあたしと、姉のコンスタンスと、車椅子のジュリアンおじさんだけ。それ以来手の入ってない屋敷の庭園は鬱蒼と草が生い茂り、客人を寄せ付けなかった。
そんな時、従兄のチャールズが屋敷を訪ねてきた。あたしの家にもたらされた、好まざる変化。チャールズはどうにかして、姉とあたしを事件の悲劇から更生させようとしていた。君たちはまだ若いんだ、街へ出て、ボーイフレンドでも見つければ、きっとやり直せるさ…。あたしは、チャールズがお姉ちゃんと話しているのが嫌い。お姉ちゃんを外に連れ出そうとしているのが嫌い。父さんの家具を使っているのが嫌い。この従兄のチャールズの来訪が、やがて破滅的な第2の事件へとつながっていくことに、今はまだ誰も気づいていなかったのだった…。
猫と魔法と空想の世界を愛する女の子が、他所からの外的要因によって外へと開いていく、ちょっとトゲトゲしい感じの「秘密の花園」みたいな作品かな…と思っていたら、それどころじゃなかったという。まず主人公のメリキャットこと、メアリ・キャサリン・ブラックウッド。ちょっとひねくれてるけど本当はいい子なんだろうな、と最初は思うけど、度を過ぎたいたずらでしつこくチャールズを排除しようとするその考え方に、読者は次第に「ああ、この子は本当に狂っているんだ」と確信するようになる。
メリキャットばかりでなく、他のブラックウッドの家族も同様に狂気に侵されている。チャールズと話を合わせたり一見まともなんだけど、どうしても妹を叱れないコンスタンス姉さん。事件のことばかりを思い出していて、それをずっと原稿に書いているジュリアンおじさん。この狂気に満ちた一族は一見いびつだけども、外部からの手を借りずにうまく生存できているのだと。
ラスト近くで、ブラックウッドのお屋敷はチャールズのパイプの火によって半焼してしまう。そこへ村人たちがやってきて、日ごろの鬱憤に屋敷を破壊し尽くす。このシーンがすごい残酷で、ひさしぶりに脳をやられてしまったシーン。そうして廃墟になってしまってもまだ、ブラックウッドの一族は人目を忍んで屋敷に住んでいる。
そんな中メリキャットがふともらした告白、実は自分がおさとうの壺に砒素を入れたのだと。それをわかっていたコンスタンス姉さん、それを知っていた上で、姉さんは家族に料理をふるまったこと…。ちなみに火事の原因を作ったのもメリキャットで、彼女がそれを負い目に感じていることもなければ、他の者がその原因を知る由もなくて…。
この計り知れない狂気の闇にぞっとした作品だったな。