『無名草子』は語ります。
「源氏の大臣のことは、良し悪しなど言うべきではないのだけれど、こんなことしなくても…!思われることもたくさんあるのですよ」
「頭中将は、若い頃からの親友で、須磨まで来てくれた義侠心のある人で、そのことは、忘れてはいけないのです。それなのに、わざわざ斎宮を養女にして、その娘の女御と争わせるなど、情けのないお心だし、絵合わせの時には、須磨の絵を出してきて勝ったことなど、本当に残念なお心です」
須磨を出せば、光源氏のご苦労・復権のおかげで、現在勝ち組になっているのだと、みんな恐れ入ってしまう、これはほとんど禁じ手です。
頭中将は、なかなか評判がいいのです。やはり、逆境の光源氏を支えた「男らしさ」が、「返す返すめでたし」なのです。光源氏は恩知らずだと言いたいのですね。 夕霧に雲居雁を許さなかったことだって、道理だと言っています。幼なじみの自然な結びつきなど、上流階級では問題外だったのでしょうか。
「須磨に紫の上を連れて行かずに、行い澄ましているのかと思えば、そんなことはなく、明石の入道の婿になり、一日中、入道と琴・琵琶の合奏をしているなんて、いい所全くなし」
とどめは、「みんな穏やかに終わったはずの晩年に、女三の宮を迎えて若ぶっているのさえ源氏の大臣にはふさわしくない態度なのに、密通が知られて恐れおののいている柏木をわざわざ呼び出し、嫌味を言って、果てには睨み殺したなんて、とんでもないお心です。重々しく寛大なお心が劣っておいでだと思いますわ」
もっとも、その柏木の死も、「かわいそうだけれど、身の程を卑下して、みっともない感じ。そんなに思い悩むほどのことはないのに」
柏木は「初めの登場の頃からとてもいい感じの人で、いろいろの場面でとてもよかったのに、女三の宮なんかに命をかけたなんてはがゆいわ」
と、感覚的な評価で、光源氏への非難共々、当時の源氏物語ファンの肉声を聞く感じがします。