ゴールデンウィークの初日。
薄墨はよく晴れ、汗ばむほどになった。
今年も桜が咲いている。
背後から薄墨高校ブラスバンド部のにぎやかな行進曲が聞こえてくる。
今年のミス薄墨たちも、着物の裾を気にしながら、フロートに乗り込んだ。
「がんばってねー」
昨年ミス、準ミスだった3人娘は、
振り袖姿の今年のミスたちに、声援を送る。
3人娘は、黄色い小袖に赤いチャンチャンコ。
臙脂色のたっつけ袴、足袋にわらじ。
きゅっと小さく引きつめた髪に赤い頭巾をかぶっている。
派手な色合いで、なかなか愛らしい。
(タドコロ氏がこっそり教えてくれたが、赤い頭巾とチャンチャンコは、
還暦祝いセットだそうだ)
「あんたら、振り袖よりも今年のその格好のほうが似合うな」
ロッパが彼女たちに声をかけた。
「何言ってんだか、小林さんこそ、その衣装ぴったりですよ」
3人娘の一人、ケイちゃんから切り替えされ、ロッパは頭をかく。
ロッパは、昨年と同じ淡黄色の狩衣姿で、脛巾とわらじ。
たっぷりした大黒頭巾といういでたちだ。
パレードの先頭は、「薄墨春まつり」のボードを掲げた商工会議所青年部のメンバー。
それから。
いきなりロッパの大黒舞いとなる。
パレードの後ろのほうから、市役所商工観光課の、例の男勝り女史が駆けてきて、
「ああ、いたいた。小林さんメイク、メイク」
言うなり、ロッパのほっぺたに今年もぐりぐりと口紅で赤丸を描いた。
薄墨よさこいで踊る女史の、今年のコスチュームは、何かペラペラ光った、竹の子族のような長着だ。
ロッパは、その格好にひとこと言いたい気がしたが、反撃がこわいので無言だ。
あの…、とカメキチが遠慮がちに声をかける。
「ついでに、俺にもひとつ、その赤丸っこをつけてくれんかな」
「あら、亀掛川先生も赤丸が好きでしたか」
笑いながら、商工観光課女史は、白丁姿のカメキチの頬に、
赤丸を入れ、おまけにに鼻の頭にもちょんと紅をさした。
「じゃあ、ついでに僕にも赤丸つけてもらおうかな」
タドコロ氏が何を思ったか、顔を突き出す。
それを見ていたミス3人娘も、顔を合わせて相談していたが、
「すみません、私たちにも赤丸入れてもらえますか」
思いがけなくそんなことを申し入れた。
ひええっとカメキチが驚く。
「あんたらみたいな、年頃の美人のメラシっこが、そこまで道化の真似せんでもいかべ」
ええ、でも…と3人は
「どうせ、ワラシ芸やるんなら、受けたいですよ。道化っていいじゃないですか」
「そうそう、笑ってもらわなきゃ」
「もう、ミス薄墨じゃないしね」
ねえ、と顔を合わせてうなずき合った。
「はあ、あんたら大したもんだ」
ロッパが大まじめで感心したが、残念、赤丸のおかげでちっとも感心しているふうには見えない。
苦笑しながら、商工観光課女史が
「いいですよ」と3人娘の頬にも控えめな赤丸を描く。
色白で美人の3人が、紅を入れた途端、幼いワラシの顔に変わった。
どん、どん、どんとのろしが上がる。
頬を赤く染めた6人が、身構える。
いよいよ今年もパレードの始まりだ。
薄墨はよく晴れ、汗ばむほどになった。
今年も桜が咲いている。
背後から薄墨高校ブラスバンド部のにぎやかな行進曲が聞こえてくる。
今年のミス薄墨たちも、着物の裾を気にしながら、フロートに乗り込んだ。
「がんばってねー」
昨年ミス、準ミスだった3人娘は、
振り袖姿の今年のミスたちに、声援を送る。
3人娘は、黄色い小袖に赤いチャンチャンコ。
臙脂色のたっつけ袴、足袋にわらじ。
きゅっと小さく引きつめた髪に赤い頭巾をかぶっている。
派手な色合いで、なかなか愛らしい。
(タドコロ氏がこっそり教えてくれたが、赤い頭巾とチャンチャンコは、
還暦祝いセットだそうだ)
「あんたら、振り袖よりも今年のその格好のほうが似合うな」
ロッパが彼女たちに声をかけた。
「何言ってんだか、小林さんこそ、その衣装ぴったりですよ」
3人娘の一人、ケイちゃんから切り替えされ、ロッパは頭をかく。
ロッパは、昨年と同じ淡黄色の狩衣姿で、脛巾とわらじ。
たっぷりした大黒頭巾といういでたちだ。
パレードの先頭は、「薄墨春まつり」のボードを掲げた商工会議所青年部のメンバー。
それから。
いきなりロッパの大黒舞いとなる。
パレードの後ろのほうから、市役所商工観光課の、例の男勝り女史が駆けてきて、
「ああ、いたいた。小林さんメイク、メイク」
言うなり、ロッパのほっぺたに今年もぐりぐりと口紅で赤丸を描いた。
薄墨よさこいで踊る女史の、今年のコスチュームは、何かペラペラ光った、竹の子族のような長着だ。
ロッパは、その格好にひとこと言いたい気がしたが、反撃がこわいので無言だ。
あの…、とカメキチが遠慮がちに声をかける。
「ついでに、俺にもひとつ、その赤丸っこをつけてくれんかな」
「あら、亀掛川先生も赤丸が好きでしたか」
笑いながら、商工観光課女史は、白丁姿のカメキチの頬に、
赤丸を入れ、おまけにに鼻の頭にもちょんと紅をさした。
「じゃあ、ついでに僕にも赤丸つけてもらおうかな」
タドコロ氏が何を思ったか、顔を突き出す。
それを見ていたミス3人娘も、顔を合わせて相談していたが、
「すみません、私たちにも赤丸入れてもらえますか」
思いがけなくそんなことを申し入れた。
ひええっとカメキチが驚く。
「あんたらみたいな、年頃の美人のメラシっこが、そこまで道化の真似せんでもいかべ」
ええ、でも…と3人は
「どうせ、ワラシ芸やるんなら、受けたいですよ。道化っていいじゃないですか」
「そうそう、笑ってもらわなきゃ」
「もう、ミス薄墨じゃないしね」
ねえ、と顔を合わせてうなずき合った。
「はあ、あんたら大したもんだ」
ロッパが大まじめで感心したが、残念、赤丸のおかげでちっとも感心しているふうには見えない。
苦笑しながら、商工観光課女史が
「いいですよ」と3人娘の頬にも控えめな赤丸を描く。
色白で美人の3人が、紅を入れた途端、幼いワラシの顔に変わった。
どん、どん、どんとのろしが上がる。
頬を赤く染めた6人が、身構える。
いよいよ今年もパレードの始まりだ。