〈こまる〉とは、〈困る〉ではない。
薄墨の方言で、お辞儀をする、頭を下げることを言う。
たとえば、知人などに道で出会うと、
親は子供に、
「ほれ、こまりなさい」と言い、
子供は「こんにちは」と最敬礼する。
これが、〈こまる〉の典型。
もしかしたら〈かしこまる〉の〈こまる〉から
派生した方言かなと思っていたが、
カメキチは、
「うーむ、〈こまる〉は、〈込まる〉でないかなあ」と
独自の説を唱えていた。
何かせまい中に入り込んでしまうのが「込まる」。
たとえば箱などに入り込んでしまえば、
体を小さく折り曲げなくてはならない。
これが、薄墨弁「こまる」のもとではないかという。
ただし、カメキチ説も裏付けがあるわけではなく、
あの爺さまの単なる思いつきでしかないのだが。
さて、本日は、この〈こまる〉に関連した話。
薄墨のさる大家で。
中庭に面した廊下を行くと、
どこからともなく
「こまれ」
「こまれ」
奇妙な声が聞こえてきたという。
誰の声かと見回しても、庭には誰もいない。
廊下の脇は、障子の閉められた部屋ばかり。
障子の奥の部屋に、誰かいるのかもしれない。
細く障子を開けて見ても、
座敷には人影はない。
首をひねりつつ進んでいくと、
「こまれ」の声は次第に大きくなる。
最後は割れんばかりの大声で、
「こまれぇ」と叫ぶ。
不気味になって突き当たりの部屋を、
再度のぞくと。
障子越しの、薄明るい座敷の奥、
畳に頭をすりつけて、「こまっている」一人の人物。
その姿に、見覚えがあるような気がして、
そろりと障子をさらに開き、目をこらすと、
こまっていた人がゆっくりと体を起こし、
顔を上げた。
それが、自分自身だと気づいて、
ぎょっとすると、
部屋の中でこまっていた自分が、
にたりと笑って消えたとか。
★★★★
できれば、ご協力をお願いしぁんす。

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久しぶりで酒っこを飲んだが、うまくありぁせん。
まだ本調子ではないよった。
皆さまも、お気をつけなさんして。
薄墨の方言で、お辞儀をする、頭を下げることを言う。
たとえば、知人などに道で出会うと、
親は子供に、
「ほれ、こまりなさい」と言い、
子供は「こんにちは」と最敬礼する。
これが、〈こまる〉の典型。
もしかしたら〈かしこまる〉の〈こまる〉から
派生した方言かなと思っていたが、
カメキチは、
「うーむ、〈こまる〉は、〈込まる〉でないかなあ」と
独自の説を唱えていた。
何かせまい中に入り込んでしまうのが「込まる」。
たとえば箱などに入り込んでしまえば、
体を小さく折り曲げなくてはならない。
これが、薄墨弁「こまる」のもとではないかという。
ただし、カメキチ説も裏付けがあるわけではなく、
あの爺さまの単なる思いつきでしかないのだが。
さて、本日は、この〈こまる〉に関連した話。
薄墨のさる大家で。
中庭に面した廊下を行くと、
どこからともなく
「こまれ」
「こまれ」
奇妙な声が聞こえてきたという。
誰の声かと見回しても、庭には誰もいない。
廊下の脇は、障子の閉められた部屋ばかり。
障子の奥の部屋に、誰かいるのかもしれない。
細く障子を開けて見ても、
座敷には人影はない。
首をひねりつつ進んでいくと、
「こまれ」の声は次第に大きくなる。
最後は割れんばかりの大声で、
「こまれぇ」と叫ぶ。
不気味になって突き当たりの部屋を、
再度のぞくと。
障子越しの、薄明るい座敷の奥、
畳に頭をすりつけて、「こまっている」一人の人物。
その姿に、見覚えがあるような気がして、
そろりと障子をさらに開き、目をこらすと、
こまっていた人がゆっくりと体を起こし、
顔を上げた。
それが、自分自身だと気づいて、
ぎょっとすると、
部屋の中でこまっていた自分が、
にたりと笑って消えたとか。
★★★★
できれば、ご協力をお願いしぁんす。

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久しぶりで酒っこを飲んだが、うまくありぁせん。
まだ本調子ではないよった。
皆さまも、お気をつけなさんして。