でりら日記

日々の雑記帳

読んだメモ『ウォーレスの人魚』/岩井 俊二

2007年09月16日 | 趣味の雑記
読んだメモ。
ウォーレスの人魚/岩井 俊二 単行本
 平成9年9月25日 初版発行
 平成9年10月28日 第2刷発行
 株式会社 角川書店

 とりあえず、A. R. Wallaceの「The Mermaid History of Hong Kong」(香港人魚録)という書物が存
在するのかどうか、存在するならば手に入れたい、読みたい、という衝動に駆られる。

 冒頭、ダーウィンに送った『変種がもとの型から出て無限に離れていく傾向について』という論文
が、ダーウィン自身の論文と合作という形で纏められ、ダーウィンの名で『種の起源』という進化論
について述べた世界でもっとも有名な論文の一つとして世に出されたことから始まる。

 ウォーレスは、世紀の発見がダーウィンの陰に隠れてしまった事実を甘んじて受け入れ、尚且つ
「ダーウィニズム」という名称まで贈ることになる。優れた研究者であった彼は人格的には社会性
に欠け、突飛な言動で知られていたとwikiにもある。

 ウォーレス自身は実在の人物であるが、『ウォーレスの人魚』作中で彼が著したとされる『香港人
魚録』に関しては、実在する書物であるかどうかは明言されていない。ただ、自筆のサインと思し
きメモ、何枚かの写真、ウォーレスの肖像写真が巻頭カラーで収められている。
 だからまぁそれ以上野暮は言いっこなしってことで。

 彼は香港の見世物小屋で人魚に出会い、「彼女」を大枚と引き換えに手に入れる。彼女は妊娠
していた。彼女を世話していた彼の助手・海 洲化(ホイ・ジャウファー)は、生まれた雌の人魚の成
長を見守るにつれ彼女を愛するようになり、遂には彼女と結婚する。『香港人魚録』に収められた
記念写真には、足元に鱗を覗かせた花嫁の姿が映っている。

 水族館に関する仕事で魚に関する事を、プライベートで進化論についてのダーウィンの時代に
関する事を追いかけていた時だったので、いろいろと興味深かった。人魚モノといえばトム・ハンク
スとダリル・ハンナの『スプラッシュ』、高橋留美子の『人魚シリーズ』などが頭をよぎるが、いろん
な意味で私にとっては非常に真新しい「人魚観」だった。

 冒頭に登場する「人間の言語そのものがコミュニケーションを遮断するために進化したのかもし
れない」という考え(国や地域で異なる言語は、敵にはわからない仲間だけの暗号として進化した
画期的な手段であり、言語を操ること=外敵を遮断することであり、コミュニケーションツールとし
ては不便なものである、したがって言語を操ることが出来る=特別な知能を供えた生物、ではな
い)も面白い。確かに、言葉が無くとも動物たちは不便を感じてはいなさそうだ。

 オーストラリアからプロペラ機で約二時間ほどのところにあるセント・マリア島で「人魚」が捕獲さ
れる。「雄」のそれは、人間とほぼ変わらない外見的特徴を備え、特殊な高周波を使い人間の脳
にさまざまな影響を及ぼす「能力」を持っていた。

 様々な利害から交錯する組織と組織、追われる人魚、海難事故に遭い、約二ヶ月間も海の底に
沈んでなお生きながらえた少年、研究室で切り裂かれる人魚。いろいろお約束な部分もあるけれ
ど、気になっていた部分も最後にちゃんと回収されていて、ややグロだけに終わることなくファンタ
ジーな部分も大事にされている。

 割合さらっと読め、尚且つ楽しめる長編小説。そもそも別の本を読んでいて調べ物をしていたと
きに紹介記事で見つけた本だったのだが、思わぬ拾い物をした気分。

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