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太陽光・風力発電の報道の疑問点

2017-01-28 15:59:46 | 読書

  福島原発の事故以来、救世主のように報道された「再生エネ発電」、特に太陽光発電や風力発電は実体が分かるにつれて最近だいぶ影が薄くなった。しかし未だに感情的ともとれる不公平で不正確な報道がある。            
                                                            * たとえば太陽光発電や風力発電の接続を北電が恣意的に意地悪して制限しているかの   よ うな報道だ。
* また既存の電力会社の「総括原価方式」は悪で、似たような保護政策である太陽光・風力発電の「固定価格買取制」は良いという印象を与える一方的な図式の報道である。

  この際、原点に返り庶民的な視点で太陽光発電・風力発電の報道の疑問点と問題点を考えてみたい

太陽光・風力発電の欠点  
 この発電方式は地球温暖化の原因とされているCO2を出さないのが最大の利点であることはよく知られているが、「電気の質」が悪いという重大な欠点がある。           
                                                          「電気の質」とは電圧・周波数の安定性のことを言っているのであるが、太陽光発電は夜になれば発電できないし空が曇れば出力が減る。風力発電の出力は天候次第の風任せで一定しない。                    
 ある専門家は太陽光・風力発電の最大の欠点である「不安定性」を制御できない「じゃじゃ馬」だと表現している。このほか少々専門的になるが「発電密度」が低いことなどの欠点もあって発電単価が高い。                                                                     一口で言えば太陽光・風力発電は環境に優しいが「電気の質」が悪くて、しかも高いのである。                                       
                       
太陽光・風力発電の欠点のバックアップ
   太陽光発電と風力発電が止まっているときも電気の使用を止めるわけにはいかない。出力が不安定な太陽光・風力発電の為に電力系統全体か不安定になるのは絶対防がなければならない。                                                                             現在は既存電力会社の主として火力発電所が穴埋め(バックアップ)しているのだが、この辺の事情はほとんど報道されない。
                    
 電力会社の電力系統は、電圧や周波数が基準からずれると自動的に修正するシステムになっている。   
   私が電力会社にいた高度成長期の頃の古典的な言葉で言えば電力系統制御の基本は「試行錯誤(フィードバック制御)」システムであった。                                       火力発電所側から見るだけでも自動電圧調整装置(AVR)や自動周波数調整装置(AFC)そして火力発電所の自動プラント制御システム(APC)、自動ボイラー制御システム(ABC)などから構成されている複雑なシステムである。 
 話が込み入ってくるので詳しいことは省略するが、問題なのは主役の火力発電所のバックアップ機能には「負荷応答性能」などの限界があること、状況によっては危険も伴うことである。   
                                          
  一番懸念されたのは北海道は津軽海峡に隔てられた電力網の孤島であったため、発電所が故障して北海道全停電が起きることだった。                                          たとえばある火力発電所が系統の負荷(消費電力)変化に対応できなくなってトリップ(緊急停止)したとき、ドミノ式に影響が波及して系統の電圧や周波数を維持できなくなると、北海道全体の大停電を引き起こす可能性がある。
  当時われわれ関係者はアメリカのニューヨーク大停電、カリフォルニア大停電、イタリア大停電のニュースを聞くたびに人ごとでないと緊張した。

 もちろん自動制御機能や遠隔操作だけでなく、ほかにも電力系統を守り安全安定した電力を供給するための必要対策がとられてきた。
   たとえば北電と本州簡の電力連携である。 1970年に津軽海峡に本州連携線が敷設され、万が一の場合にも最低必要な安全電源は確保された。北海道は電力の孤島ではなくなったのだ。        

 しかしその後も北海道の電力網は基本的に規模が小さいので使用量(負荷)変動や電源事故などの変動に弱い。しかも原発事故のあと、太陽光発電や風力発電が急増し、昔はなかった電源側の不安定要因が加わった。                                          

再生エネ発電を規制するわけ
 結局、前述したような技術的な理由から 電力系統の安定を維持するためには、太陽光発電と風力発電のような系統の外乱となる不安定な電源の接続をある程度制限せざるを得ないのである。
         

▼「総括原価方式」と 「固定買い取り制度」報道の問題点
  *「総括原価方式」
   北海道は広い土地、少ない人口、小規模産業など経済的には未だに後進地域とされている。このような悪い条件下で山間僻地にも電力が供給され電灯が灯っているのは「総括原価方式」などの保護政策が大きく寄与している。                                                 一方「総括原価方式」で保護された既存の電力企業には競争原理が働きにくいという欠点がある。

 *「固定買い取り制度」                                                       太陽光・風力発電は放射能やCO2を出さないクリーンエネルギーである。だが前述のように不安定でコストが高く「完全自由化」すると商品としての競争力が低く企業として成り立たない。このため「固定買い取り制度」で保護し、普及の推進をはかっているのである。

 ▼感情的で不正確な報道の背景と原因                    
  *太陽光発電・風力発電はなぜ利点だけ強調され、欠点はほとんど報道されないのか。技術的に必要な接続規制(制限)をなぜ恣意的と非難するのか。

 *「総括原価方式」と「固定買い取り制度」はそれぞれい利点と欠点はあるがいずれも時代の要請による電力保護政策なのに、なぜ「総括原価方式」だけを一方的に悪者扱いするのか。

  *素人判断だが原因と背景について次のようなことが考えられる。
                                                            ①バッシング感情                                                  環境問題で火力発電所建設反対運動が起こり、更に原発事故が起きて以来の電力バッシング感情が抜けないのではないか。
  ②「技術オンチ」的偏見                                            メディア関係者はほとんど文系であり、鋭い感性や知性を持っているが「技術オンチ」が多い。
  ③専門家の不用意あるいは無責任な発言
    マスメディアに登場する専門家は視野が狭く、自分の専門外の発電技術関連についてピン  ト外れの意見を言ったり発表したりする。                                      ④「発表報道」                                                  評判の悪い「記者クラブ」を例に引くまでもなく、調査報道機能が不足しているためレトリックに頼る不正確報道の可能性は高い。
  ⑤既存電力側のPR不足                                          「大企業病型」のPR不足に加えて、一部の人からは原発事故時のバッシング以来電力企業は萎縮して貝になったといわれている。

 ▼感慨 
 エネルギー問題は日本の行方を左右するといわれている。電力はこのあと「発送電分離」など電力再編問題を抱えているが、マスメディアによる公平で正確な報道が望まれる。しかし今までの経緯とマスメディア特性を考えると悲観的になる。    
                                                                    希望が持てるとすればマスメディアの偏見や行き過ぎのカウンターカルチャーとしてのソーシャルメディアである。  特に若い人たちにはトランプ大統領や安倍首相のツィッター利用とは違ったかたちで世論・与論に影響を与えられる可能性がある。
  少し飛躍しすぎかもしれないが SEALDsのようなお祭りタイプではなく、地道だが論理的なマスメディア批判の活動があってもいいのではないかと思っている。                                                   (2017/01/28)

                          
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