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御伽噺ロジック

コードギアス中心に色々やらかします。

ぬくもりの証13

2007-04-29 19:57:40 | ぬくもりの証 第1部

母が殺され、私の目と足を失い、父に捨てられた場所で、必死に私を守ろうとしてくれたのはお姉様。
たった一人、私の世界を構成する人。

優しくて、強くて、でも、本当はとても傷だらけで、弱く悲しい人。
そんな姉を癒やしたのは、父に捨てられた場所、日本という土地で出会った年相応の少年。

どんどん近くなる距離に、笑顔が増えた姉に子ども心に小さな嫉妬と大きな喜びを抱いた。

ただ、穏かな時間も長くは続かず、姉と私は父に殺され、大切なものになった、私達の世界に入ることが許された少年もいなくなってしまった。

悲しくて、寂しかった。

その思いを抱えたまま、用意された偽りの箱庭での日々は、どこか空虚だった。
けれど、その箱庭に、あの少年がやってきた。

うれしかった。そして、同時に世界が動き出した。

再び、私達の世界に加わることが許された少年が齎したのは、変革。


****************************************

「ナナリー。お茶にしないか。」
「まあ、お姉様がお茶に誘って下さるなんて久しぶりですわね。」

なんの変哲のない、いや、あの少年が、正式に義理の姉の騎士に任命された日。
そんな小さく世界が動き出した日の午後に、久々に姉からお茶のお誘いがあった。

学園のどこかしこで、彼が騎士になったことを騒ぐ声が響く中、このクラブハウスには、奇妙なまでの静寂があった。


用意された紅茶を一口口にしてから、ナナリーが口を開いた。

「お姉様。私に何かお話があるんですね?」

ピクリとナナリーの言葉に反応して、カップを持つ手が一瞬止まる。それを押し隠すように、ルルーシュは穏かに微笑む。

「どうして?」
「最近忙しいお姉様からお茶のお誘いがくるんですもの。それに最近のお姉様は様子がおかしいです。ねえ、お姉様。約束、しましたよね。私にはウソをつかないって。」
「・・・・・ああ。」

「教えてください。何があったのか。」

ナナリーは手を伸ばし、姉の手を探し当てる。そっと触れた手を互いに握りしめる。

「・・・・ナナリー。私は、もうここにいられない。」
「え?」
「近いうちに、ここを出る。」

真直ぐな瞳で、告げるナナリーも見えない瞳をルルーシュに合わせて、一瞬沈黙してから、問いかける。

「・・・。理由は『ゼロ』ですか?」
「っ、なぜ。」

知られているとは思っていなかったルルーシュが目を見開いて驚くのを、感じなが
ら、ナナリーはころころといたずらっこのように笑う。

「あら、私を甘く見ちゃだめです。お姉様。ずっと前から、気付いてました。お姉様が話して下さるのをずっと待ってたんですよ。」

その様子を見て、ルルーシュは肩を落とし、苦笑する。

「ごめん。遅くなった。確かに、ゼロとして動く予定で、いずれここを離れることにはなっていた。」
「その言い方ですと、予定が早まったのですか?」
「・・・・それだけじゃない。」

少しだけ硬くなった声音に、ナナリーは、自分の勘にしたがって、一人の名を紡ぐ。
「・・・・・・・・スザクさんですか?」
「っ、ナナリーには皆お見通しなんだな。」

当てられたことに、一瞬息を詰まらせながら、妹に感嘆を示す。そんな姉の様子と反対に、ナナリーは硬い声で、姉を問いただす。

「スザクさんがユフィ姉様の騎士になる前後から、お姉様の様子がおかしかったですから。スザクさんと何があったんですか?」

しばらく、躊躇った後、ルルーシュは覚悟を決めた、ナナリーに真実を告げる。




「・・・・・妊娠した。スザクとの子だ。」



「!!」
さすがに、その告白にナナリーは言葉を失い、驚く。その様子にルルーシュは苦笑する。

「それは、さすがにお前にもわかってなかったか。」
「え、子ども。お姉様のお腹に??」

軽いパニックになっているナナリーの手をそっととって、自分の下腹部にあてる。

「ああ、ここにいる。」

優しく慈しむような姉の声に、ナナリーは呆然と呟く。

「・・・産むおつもりなんですね?」
「ああ。この子を産んで、育てると決めた。」

声から、姉の決意は分かる。では、もう一人の当事者は?

「スザクさんには?」
「言ってない。言う気はない。」

きっぱりと言う、姉に疑問を感じる。

「スザクさんがユフィ姉様の騎士になったからですか?」
「・・・・あいつはユフィを選んだ。」

「騎士と恋人は違うのでは?」
「いや。それは関係ないよ。アイツがユフィを選んだ。それだけで十分だ。」


ルルーシュの顔が、微かに歪む。それを察したナナリーがぎゅっと、ルルーシュの手を握る。


「お姉様・・・・。」
「私はこの子を産みたい。誰に何を言われても。産みたい。奪われたくない。誰にも。この子に会いたいんだ。」


困惑していた、ナナリーの雰囲気はその姉の決意を聞いて、落ち着く。肩の力を抜いた。彼女も決めた。

「わかりましたわ。お姉様がそう決めたのなら。」
「ナナリー。」
「そうだ。私としたことが御挨拶がまだでしたね。」
「??」

ナナリーはルルーシュの下腹部に手を当てて、ゆっくり撫でながら、囁く。

「初めまして、ナナリーと申します。貴方の叔母さんです。元気に生まれてらしてね?私の可愛い甥っ子さん?姪っ子さん?どちらかしら。お会いできるのが楽しみです。」

クスクス笑いながら、お腹に向けて語りかける。

「ナナリー。」
「お姉様。生まれたら、ぜひ抱かせてくださいね!
お姉様のお子様ですもの、きっと可愛らしいんでしょうね。
ふふっ、若い叔母さんになれるのは、なかなかいいですわね。
なんてよんでもらいましょう。・・・だから、だから、私も一緒にいきますわ。」

「ナナリー・・・・。だが、」

それは、ナナリーまで、この安全な箱庭から出て行くことになる。黒の騎士団は自分のテリトリーだが、テロリストの集まりだ。内部はともかく、外部からはナナリーまで危険にさらすことになる。彼女には真実は告げる。その上で姿を消す。そのつもりだったルルーシュは、焦ったように、妹の名を呼ぶ。

「お姉様とこの子と一緒にいさせてください。それが私の望む『幸せ』です。
だめでしょうか?」

はっきりと見えないはずの目をルルーシュに合わせて、まっすぐに想いを告げる。
それ以外の幸せなどないのだ、と訴える。

ルルーシュは驚きに瞬きながらも、その顔に徐々に笑みを浮かべていく。

「ありがとう。ナナリー。私もお前とこの子がいれば、『幸せ』だよ。」
優しい大切な妹に本当に嬉しそうに微笑み、姉は誓う。


今の自分に残された自分の大切なもの。護って見せる。そして、いつか、必ず。
『優しい世界を君達にあげるから』


微笑む姉の手をしっかりと握りしめながら、妹は願う。


姉と自分、二人だけだった世界。
加わることを許された3人目の住人は、新しい命と、残酷な優しさを残して、
この世界から去っていった。


彼から与えられた新たな住人、貴方は姉を傷つけないで。
優しい悲しいこの人を傷つけないで。どうか、守ってあげて・・・・。






さようなら、偽りの箱庭。

さよなら、3人目の住人さん。

そして、初めまして、新しい住人さん。





1週間後、日本解放戦線の残党が起したテロによる死亡リストに二人の姉妹と彼女ら付きのメイドの名が刻まれることになる。