アジア映画巡礼

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<IMW>ミニレポート②『僕の名はパリエルム・ペルマール』&『ジャパン・ロボット』

2020-09-16 | インド映画

昨日も2本、<インディアンムービーウィーク(IMW)2020>で見てきました。公式の紹介や予告編は<IMW>の公式サイトで見ていただくとして、簡単なストーリーと感想などをメモしておきます。

『僕の名はパリエルム・ペルマール』(原題:Pariyerum Perumal/ 2018 年/ タミル語/153分)
 監督:マーリ・セルヴァラージ
 出演:カディル、アーナンディ、ヨーギ・バーブ

カースト差別を告発する、激烈な作品です。冒頭、村の若者たち数人が、犬を連れて狩りをしている場面が映し出されます。野原の池というか水たまりのような所で、歌を歌い、犬を洗ってやる青年たち。ところが帰ろうとした時、その中の1人、パリヤンことパリエルム・ペルマール(カディル)の飼い犬「カルッピ(黒)」の姿が消えてしまいます。そう言えば先ほど、近くの村の男たちが姿を現したのだった、と探し回ったパリヤンらは、遠くの線路に繋がれたカルッピの姿を発見します。しかし、必死で走ったパリヤンも間に合わず、カルッピはやってきた列車に轢かれる羽目に。カルッピの葬式を出し、人間と同じく火葬に付したパリヤンでしたが、カルッピを殺したのは、あの日後からやってきた別の村の男たちに違いない、と確信していました。彼らは田畑持ちであり、自分たちの村の人間はその小作人として生きていくしかない、とわかっているだけに抗議もできず、くやしさが募るのでした。

そんなパリヤンでしたが、留保制度により大学に進むことができ、法科大学に入学することになります。留保制度とは、被差別カーストや部族民の人々のために、大学や役所、議会などに一定程度の人数枠をキープしておくことで、それにより、パリヤンの村からも何人かが法科大学で学んでいたのでした。母と共に学長の入学面接に臨んだパリヤンは、自分は勉強してドクター・アンベードカル(被差別カースト出身で、ボンベイの大学で学んだ後米、英に留学、弁護士の資格を得て帰国したあとは大学教授や国会議員などを歴任、独立後のインド国憲法起草委員にもなった)のようになる、と宣言します。

Pariyerum Perumal.jpg

しかし授業が始まってみると、授業は全部英語で行われ、パリヤンにはちんぷんかんぷん。隣席の政治家の息子だというアーナンド(ヨーギ・バーブ)も同様で、2人は落ちこぼれ同士親友になります。そんなパリヤンに救いの手を差し伸べたのは、同じクラスの女子学生ジョーティ、愛称ジョー(アーナンディ)でした。ジョーはパリヤンに英語を教え、時にはカンニングの手助けもして、2人はどんどん仲良くなっていきます。ところが、同じクラスにジョーの従兄がいて、高位カーストである自分の従妹と付き合うパリヤンに怒りをつのらせます。ジョーが姉の結婚式にパリヤンを招待し、家族に紹介しようとしていたその日、ジョーの父がパリヤンを小部屋に招き、話していたところへ従兄ら親族の若者が踏み込み、パリヤンを痛めつけ、ひどい侮辱行為を働きます。パリヤンはその日からジョーと距離を置くようになりますが、高位カーストからの攻撃はそれだけでは済みませんでした...。

近年のタミル語映画に見る、カースト差別問題への積極的なアプローチには、目を見張るものがあります。昨年の<IMW>で上映されたラジニカーント主演作『カーラ 黒い砦の闘い』(2018)といい、<東京国際映画祭2018>で上映された『世界はリズムで満ちている』(2019)といい、はっきりと主人公たちが被差別カーストであることを示し、彼らに対する差別描写も具体的に描かれるという、少し前までは考えられなかった場面が登場します。『カーラ』に関しては、ドキュメンタリー映画『あまねき旋律(しらべ)』の監督たちが、「『カーラ』の中の、カースト問題に関する描写はすごいよ」と言っていた(インタビューはこちら)ので、これらの作品はインドの人々にとっても衝撃的だったのでは、と思います。

実は『カーラ』の監督パー・ランジットは、本作『僕の名はパリエルム・ペルマール』のプロデューサーなのです。それで多くのポスターには、映画のタイトルの上にパー・ランジット監督の名前が載せられ、本作で監督デビューを果たしたマーリ・セルヴァラージ監督の名前は、タイトルの下に記載される形になっています。マーリ・セルヴァラージ監督はパー・ランジット監督の助監督をしていた、という記述もあるのですが、マーリ・セルヴァラージ監督自身のWikiではラーム監督の助監督とあり、この辺はちょっと不明です。いずれにせよ、パー・ランジット監督が自身のプロダクションで製作を引き受けたことから実現した作品で、その衝撃的な内容とリアルな描写が高く評価され、『フィルムフェア』誌のタミル語映画最優秀作品賞など、数々の賞を受賞しました。カースト差別だけでなくLGBT問題にもメスが入っており、脚本も担当したマーリ・セルヴァラージ監督の思いがほとばしるような作品です。<IMW2020>では、「見るべき作品」No.1 かも知れません。

 

『ジャパン・ロボット』(原題:Android Kunjappan Version 5.25/ 2019 年/ マラヤーラム語/138分)
 監督:ラティーシュ・バーラクリシュナン・ポドゥヴァール
 出演:サウビン・シャーヒル、スラージ・ヴェニャーラムード

日本人観客としては大いに気になる、「ジャパン」の付いた作品です。ケーララ州の片田舎の町が舞台で、そこに暮らすエンジニアのスブラマニャン(サウビン・シャーヒル)とその頑固な父バースカラ(スラージ・ヴェニャーラムード)が主人公。口うるさい年老いた父は息子との同居を望み、ゆえにスブラマニャンはエンジニアの資格を生かしてちゃんとした職につくことができません。そんな時スブラマニャンは、日本企業のロシア工場で働く仕事に採用され、ロシアに赴くことに。父のことは、親戚の食堂店主が紹介してくれたヘルパーのおばさんに任せて、スブラマニャンはロシアへと旅立ちます。しばらく経って帰省したスブラマニャンは、巨大な箱を2つ持って帰ってきました。そこには日本製ロボットの試作品「5.25」が入っており、組み立てられてスブラマニャンにプログラミングされた5.25は、学習して家事全般をこなすようになります。それを確認してスブラマニャンは、またロシアへととんぼ返り。実はロシアでは、同じ職場で働くヒトミという恋人ができており、父はケーララ州出身のインド人で母が日本人というヒトミとは、マラヤーラム語で会話もできるためどんどん親しくなっている最中でした。一方、ロボットの「5.25」はいつしか村人から「クンニャッパン」と呼ばれ、父バースカラともいい関係を築いていて、スカイプで送られてくる2人の様子にスブラマニャンはすっかり安心していました。ですがだんだんと父は、クンニャッパンを実の子供のように思い始めており、そこから新たな問題が生じ始めます...。

Android Kunjappan Version 5.25.jpg

人々の関係が濃密な田舎町を舞台に、偏屈者で息子への愛情もストレートに表現できない老人と、父のことが心配なものの、自分のキャリアも築きたい&金も稼ぎたい息子との親子関係が、日本製ロボットという介在物を通して様々に見えてくる物語です。この日本製ロボット、正式名称「5.25」、通称「クンニャッパン」が何ともかわいくて、頑固老人ならずとも心をくすぐられます。後半、「クンニャッパン」が外見もケーララ人化していくところは笑えますし、彼の持つテクノロジーが人々を変えていく様には、笑いながらも納得してしまいます。ちょうど胸に付けられたスクリーンは、ハヌマーンが「私の胸にはラーマ様が!」と胸を開いて見せる場所そのものなんですねえ。ヒトミのキャラが日本人にとっては少々謎だったり、結末があまり納得できなかったりはしますが、「クンニャッパン」のかわいさに免じて許してしまいましょう。

 


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