アジア映画巡礼

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<IMW>ミニレポート①『ビギル』&『ウィルス』

2020-09-14 | インド映画

仕事が一段落して、やっと<インディアンムービーウィーク(IMW)>に出かけることができました。場所はキネカ大森ですが、これからご覧になる方のために、短い紹介を書いておこうと思います。本日は、『ビギル 勝利のホイッスル』『ウィルス』の2本。正式なストーリー紹介や予告編等は公式サイトをご覧いただければと思いますが、何も予備知識なしで見たい、という方は、本日の記事をスキップして下さいね。

『ビギル 勝利のホイッスル』(原題:Bigil/ 2019 年/ タミル語/177分)
 監督:アトリ
 出演:ヴィジャイ、ナヤンターラ、ヨーギ・バーブ、ジャッキー・シュロフ

チェンナイで起きた、大学移転に反対する学生運動から幕を開けるこの作品は、ヤクザが扮した警官隊に追われて学生たちがスラム街に逃げ込んだ所から、俄然面白くなります。スラム街を仕切っている若きボス、マイケル(ヴィジャイ)と、その配下のドナルド(ヨーギ・バーブ)やスラムの人々の協力で悪徳警官は蹴散らされ、大学移転も取りやめになって一件落着。そんな無敵のマイケルでしたが、美人のエンジェル(ナヤンターラ)が親の勧める相手と教会で結婚式を挙げようとすると、必ず出張っていって邪魔をする、という一面も。そんな時、友人のカティル(カティル)が、女子サッカーチームを率いて首都デリーに行く、というのでマイケルの所にやってきます。マイケルは人知れずこのチームを応援しており、金銭的な援助もずっと続けていたのでした。ところが、マイケルとカティルの乗った車が昔からの因縁の相手ダニエル(ダニエル・バーラージ)に襲われ、カティルが瀕死の重傷を負ってしまいます。カティルは自分に代わってマイケルが監督となり、女子チームを率いてデリーに行ってほしい、と頼むのですが、そこには7年前に起こったある事件が関係していたのでした。デリーに行くことを承知したマイケルは、デリーでサッカー協会の会長シャルマー(ジャッキー・シュロフ)と再会しますが、シャルマーもまた、過去の因縁の相手だったのです...。

Bigil poster.jpg

7年前のことを書いてしまうと意外性と面白みが薄れるので、ストーリーはこの辺で。しかしまあ、ストーリーもてんこ盛りなら、見せ場もてんこ盛り盛りの作品で、タミルの定食ミールスを食べたあとにマサラドーサーを食べさせられたような、超満腹感を味わうことができました。7年前の因縁話も相当ヘビーで、それだけで映画が1本できそうな内容です。さらに、女子サッカー全国大会で強豪チームであるマニプール州チームと闘うという見せ場もあるのですから、こちらも1本映画が作れてしまうボリュームです。加えて、”女子”サッカーという女性のエンパワーメントに関連するエピソードもしっかり盛り込まれているので、3本分の映画を一気見した感じでした。しかしそこは、ヴィジャイ主演の大ヒット作『テリ~スパーク~』(2016)や『マジック』(2017)を作ったアトリ監督、ぎゅう詰め状態の内容でも、しっかり泣かせて笑わせて、怒濤のゴールまで運んでくれます。3時間マイナス3分という長さでも足りなかったのか、エンドロールには後日談も盛り込むぎゅう詰めぶりですが、見逃せない、MUST SEE! の1本です。最後に、意外なアノ人もカメオ出演している、ソングシーンを付けておきます。

Bigil - Singappenney Video | Thalapathy Vijay, Nayanthara | A.R Rahman

 

『ウイルス』(原題: Virus/ 2019 年/ マラヤーラム語/150分)
 監督:アーシク・アブ
 出演:レーヴァティ、パールヴァティ、クンチャーコー・ボーバン

今回、一番見たかったのがこの作品でした。理由は2つあって、その第1は、新型コロナウィルスの感染が大きな問題となっている今、インドのケーララ州北部で2018年に起こった、ニパ・ウィルス封じ込め成功の事例の映画化という本作をぜひ見てみたかったこと。それから第2は、以前こちらで紹介したお気に入りの映画『Kumbalangi Nights(クンバランギの夜)』(2019)の出演者、スリーナート・バーシーとサウビン・シャーヒル(『ジャパン・ロボット』にも出ています)が出ているからでした。とはいえ、もっと有名なスターがいろいろ出ているので、上記の出演者名には彼らの名前は入っていませんが。第2の方の満足度から言うと、スリーナート・バーシーが医師役で冒頭から出演し、最後まで顔を見せていてくれたので大満足。サウビン・シャーヒルの方は、最後の方で感染がわかった患者役で、クセのある男をいつもながらの名演技で見せてくれて、こちらも満足しました。

この作品はカリカットが主な舞台で、高熱を発して咳をし、吐き気に襲われてのたうつ患者が医科大附属病院に運ばれてくるところからストーリーが本格的に始まります。感染が広がり、他病院も含めて次々と同じような患者が出始めたことから、州の保健大臣(レーヴァティ)と地方長官(トヴィーノ・トーマス)を中心に対策本部が立ち上げられ、医科大附属病院の主任医師(クンチャーコー・ボーバン)など専門家が集まって刻々と変化する状況に対応していきます。少し後から加わった女性医師(パールヴァティ)は丹念にウィルスの伝染経路をトレースしていき、やがて最初の患者からすべての人が何らかの形で次々とウィルスに感染していったことを突き止めます。実は、当初脈絡のない感染ぶりから、生物化学兵器によるテロ説まで出ていたのです。そういった緊迫した現場が、名優たにちよって再現され、説得力のある作品となっていました。

Virus Malayalam Movie.jpg

ただ、このニパ・ウィルスは、新型コロナウィルスの感染とは違って、致死率は高かったものの比較的少人数で食い止めることができ(2018年のケーララ州の事例では、患者19名、死者17名)、それゆえにこういう方法が取れたのであろう、ということもわかりました。ほんのささいな接触感染でも発症すること、その接触も多くは人々の善意がもとになった行為からのものであること(思わず介抱しようとして手を出した、等)が描かれていて、見ていて愕然とする思いでした。本作も、できれば見ていただきたい作品です。出演者が多すぎて誰が誰やら、という難点はありますが、いろんな参考にもなると思います。

ということで、またご報告しますね。さて、何本見られるでしょうか...。

<追記>いろんな患者の家族を訪ねて、感染経路をさぐっていく医師役のパールヴァティ、どこかで見たことのある女優さんだと思っていたら、昨年のアジアフォーカス・福岡国際映画祭で観客賞を受賞した『シヴァランジャニとふたりの女』(2018)で第二話の主人公、少年があこがれる叔母さんを演じた人でした。で、もっと調べてみたら、日本でも公開された『チャーリー』(2015)でヒロインのテッサを演じた人でもありました。まだなかなか、南インド映画のスターの顔が憶えられません...。パールヴァティはケーララ州北部の港町カリカット生まれの32歳。『ウィルス』は彼女の地元の話だったのですね。


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