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重量級の見応え! 韓国映画『KING MAKER 大統領を作った男』

2022-08-10 | 韓国映画

韓国映画はやっぱり名優揃い。その名優たちを惜しげもなく投入した大作の日本公開が続いていますが、つい1ヶ月程前に『モガディシュ 脱出までの14日間 』(2021)でキム・ユンソク、チョ・インソン、ホ・ジュノ、そしてク・ギョファン(この人が現在大注目を浴びてます! 次世代の名優入りか?)らの演技にうなったばかりなのに、またもすごい作品が公開されます。それが、『KING MAKERキングメーカー 大統領を作った男』(2021)です。名優対決しているのは、皆様お馴染みのソル・ギョングと、『パラサイト 半地下の家族』(2019)で金持ち一家の家長を演じたイ・ソンギュン。ソル・ギョングは最近も『茲山魚譜 チャサンオボ』(2021)など、いくつもの作品で名優ぶりを示していますが、イ・ソンギュンを「名優」と言ってしまえるのか、という疑問が出そうですね。いやいや、言ってしまえるのですよ、それが。今回の『KING MAKERキングメーカー 大統領を作った男』で化けたというか、本性を現したというか、しっかりソル・ギョングを喰っています。では、映画のデータとあらすじをどうぞ。

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『KING MAKERキングメーカー 大統領を作った男』 公式サイト
 2021年/韓国/123分/原題:킹메이커/英語題:KING MAKER
   監督:ビョン・ヒョンソン
 出演:ソル・ギョング、イ・ソンギュン、ユ・ジェミョン、チョ・ウジン
 提供:ツイン、Hulu
 配給:ツイン
8月12日(金)より全国順次ロードショー

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1961年。韓国東北部の江原道(カンウォンド)で、「薬剤師さん」と呼ばれているソ・チャンデ(イ・ソンギュン)は、一時的に預かっている薬局の営業をしつつ、様々な知識を取り込んでいました。中でもチャンデは、独裁政権を倒して世の中を変えるべきだという考えから、野党新民党所属のキム・ウンボム(ソル・ギョング)に着目していました。しかしながらウンボムは、これまで国会議員選挙に立候補しながら3度も落選の憂き目を見ている男。それを、ウンボムと周囲の人間の選挙戦略下手のせい、と見破ったチャンデは、ウンボムの選挙事務所に行って自分を売り込みます。

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「1票を獲得するより、相手の10票を減らせばいいんです」と独自の理論を展開するチャンデに、常に理想を追求するウンボムは危ういものを感じますが、面白そうな男だと思いチームの一員に加えます。チャンデは次々と選挙対策のアイディアを出して運動員たちを動かし、ウンボムは国会議員補欠選挙に見事当選しました。そして、続く1963年の選挙では、地元である木浦(モッポ)で対立候補を破って当選、ウンボムは新進気鋭の国会議員として皆の注目を集めることになります。一時はチャンデの行きすぎたやり方に反発し、彼を遠ざけたウンボムでしたが、1968年の選挙で警戒した大統領パク・キス(キム・ジョンス)陣営からのウンボム潰しが露骨になるとチャンデを呼び戻し、選挙運動のリーダー役を担わせます。チャンデは見事、その期待に応えたのでしたが...。

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この映画にはモデルがあり、キム・ウンボムは後に1998年~2003年韓国大統領に就任する金大中(キム・デジュン)、ソ・チャンデは彼の選挙参謀だった厳昌録(オム・チャンノク)がベースとなっています。大統領パク・キスはもちろん、1961年のクーデターで実権を握り、1963~1979年の間、長期の独裁政権を築いた朴正煕(パク・チョンヒ)がモデルです。その他、パク・チョンヒのクーデターに支持を表明し、パク大統領に重用されたのちの大統領全斗煥(チョン・ドゥファン)らしき人物も一瞬出てくる(そっくりさんなのですぐわかります)など、韓国現代史の1ページが生々しく描かれます。ビョン・ヒョンソン監督は結構そっくりさんぶりにも気を配ったようで、キム・デジュンに似せてソル・ギョングは体重を増やしています。その他の人物も、韓国の観客が見れば「あの人は誰々だ」とわかるように配役がなされているのでは、と思いますが、プレスの情報によると、「まさか!」と思うような荒唐無稽な展開も、ほとんどが現実にあったことなのだとか。リアルさが追求された、現代史映画なのです。

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ソ・チャンデのモデルとなったオム・チャンノクらしき写真をネットで見つけたのですが、細身の頬骨の出た顔の人で、イ・ソンギュンとはあまり似ていません。メガネを掛けて似せてはありますが、ビョン・ヒョンソン監督は、なぜイ・ソンギュンをこの役に起用したのでしょうか。一つには、本作で描きたかった「光と影」、政治を担うスポットライトの当たる人物と、その後ろの闇にいて彼を支える、あるいは操る人物とを描こうとする時、「影」役にピッタリの俳優だったからでしょう。これまでのキャリアから見ると、ソル・ギョングと比べてイ・ソンギュンには大物感がありません。元々線の細い俳優ですし、黒縁の眼鏡を掛けてイメージ・チェンジすると、ちょっとダサさも持つインテリ、という感じにピッタリです。物語中では、イ・ソンギュンのソ・チャンデはリーダーシップを取ってやりたいようにやっているように見えながら、ソル・ギョングのキム・ウンボムとの間柄は飼い犬と主人のように見えてしまいます。

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もう一つは、そんな飼い犬が主人を支え、時には主人以上に大きな存在感を発揮する、そういう役ができるのはイ・ソンギュンしかいない、と思ったためでしょう。これは監督が意図したのかどうかわからないのですが、実はイ・ソンギュンの声がものすごくいいのです。この声の良さは、ひょっとして本作のためにボイス・トレーニングをしたのでは、と疑ってしまうほどで、イ・ソンギュンの声が聞こえるともう、この作品は彼の世界となってしまい、ソル・ギョングも霞んでしまうほどです。本作は、上下関係のある2人の人間の間で、時にはそれが逆転していることも見せないといけない作品ですが、イ・ソンギュンは声だけでその場を支配してしまう、恐るべき力を垣間見せてくれます。これまでどこにこんな力を隠していたのだろう、と、『パラサイト 半地下の家族』(2019)の時も気がつかなかった不明を悔やんでしまいました。

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他にも、本作には上手な脇役がたくさん登場します。私が笑ってしまったのは、パク大統領の行動部長で、中央情報部(KCIA)のキム部長を演じるユン・ギョンホ(上写真)です。この人、『モガディシュ 脱出までの14日間 』でも安全企画部(安企部)の要員として最後のナイロビ空港シーンで登場したのですが、今回も安企部の前身KCIAの部長として登場するとは、よほどCIA顔だと思われているようですね。この中央情報部⇒安全企画部と続いた恐怖の組織も、キム・デジュン大統領時代に廃止されて、権限などを大幅に縮小した「国家情報院」となったのでした。本作の宣伝担当の方からは、「今から約50年前、1973年8月8日に、ウンボムのモデルである金大中が日本滞在中に東京・千代田区のホテルで拉致され、5日後にソウルの自宅付近で解放されるという衝撃的な事件が起こったタイミングでもある、この機会にぜひ本作にご注目ください!」というご連絡が来ていましたが、日本でもこの事件は日本の主権侵害だとして大きな問題になりました。詳しくお知りになりたい方は、阪本順治監督作『KT』(2002)を見てみて下さいね。

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最後はちょっと脱線してしまいましたが、こんな政治裏面史を骨太の作品に仕上げることの出来る韓国映画界、すごいと思います。予告編を付けておきますので、ぜひ、映画館に足をお運び下さい。

『キングメーカー 大統領を作った男』本予告

 


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