10月4日公開のテルグ語映画『ハヌ・マン』のことは、こちらでストーリー等ご紹介済みです。そこにも書いたように実に盛りだくさんの映画で、最初に登場し、中盤に再び登場するダークヒーローのマイケル(ヴィナイ・ラーイ)はマーベル映画の要素をたっぷりと身にまとっていますし、その相棒の研究者シリ(ヴェンニラ・キショール)はマッド・サイエンティストと、これまたハリウッド映画ではお馴染みのキャラです。かと思うと、どうも何かの神様の仮の姿らしき行者の風情は、1980年代まで作られていた「神様映画」の雰囲気を漂わせています。近年ぐっと数が減った「神様映画」ですが、NTR Jr.が主演した『ヤマドンガ』(2007)みたいな作品、と言えば、皆さんもおわかり下さるでしょう。昔は神様世界を描いたり、神様が地上に降りてきて人間とからんだりする映画が、結構な数作られていたのです。CGの存在しない頃ですから、人間と同じ造形の神様は扮装さえすればいいのですが、ガネーシャ神とかはつけ鼻や耳を付けたりと、役者さんも大変だったのでした。下の画像は1972年の映画『Hari Darshan(尊き礼拝)』という映画のPRパンフですが、ライオン顔のナラシンハがいたりするので、扮装は大変だったことだろうと思います。
ハヌマーンも体型は人間と同じでいいのですが、顔が猿顔にならないといけないので、顎のない、鼻から口が割れた感じの顔を仕立てねばならず、メーキャップもいろいろ苦労があったようです。その1970年代にハヌマーン役者として一番人気があったのが、元プロレスラーのダーラー・シンで、1990年代から2000年代になると、パンジャーブの老人としての役にすっかりなじんだ脇役キャラになってしまいますが、20世紀中はハヌマーンと言えばダーラー・シンだったのでした。下はネットから取った写真ですが、「Dara Singh Hnuman」で検索すると、こういう写真がいっぱい出てきます。
今回の『ハヌ・マン』では、村はずれを流れる河の岸辺に、崖から掘り出されたらしきハヌマーン像が立っている、という設定で、下のような姿が何度か登場します。
また、映画のイメージ画像としては、下のような画像もネットに出てきたりしています。前に立っているのは主人公のハヌマントゥ(テージャ・サッジャー)ですが、後背のようなハヌマーン像は上写真のものとは細部が違っています。
下の画像は、人気スターの1人ラヴィ・テージャが声をあてたお猿さんなのですが、こんな感じで『ハヌ・マン』にはハヌマーンを中心にうずまくイメージがいろいろ登場します。
ところで、インドの人々が信仰するハヌマーンは、画像として登場する時にはいくつかのパターンに分けられます。中でもよくあるのが、①ガダーという武器を持った立ち姿、②薬草が生えているヒマラヤの山を引っこ抜き、空を飛んで運んで来る姿、③ラーマ神への忠誠を証明するため、胸を開いて見せている姿、の3パターンで、下にその3つを付けておきます。左端は寺院の門前町などで売っている市販のシール、右端はWikiハヌマーンのサイトからです。
こんな姿や、あるいは座って瞑想している姿が多いハヌマーンですが、実はインドだけでなく、タイでもハヌマーンは人気なんですね。タイの寺院に描かれたハヌマーンはこんな感じです。
バンコクに行った人なら、一度は必ず行く寺院ワット・プラケオ(エメラルド寺院)の壁画にあるハヌマーンだそうで、本当はもっと白っぽい色のようです。古典舞踊にも登場するのですが、もともとはインドのヒンドゥー教文化が5世紀頃から東南アジアにも伝播し始め、タイやマレー半島、インドネシアなどに定着したもので、各地に「ラーマーヤナ」や「マハーバーラタ」に関連する美術や芸能が現在も存続しています。というわけで、ハヌマーンも東南アジアでも親しまれているわけです。そこから、タイのこんな映画もできてしまいました。ウルトラマンに囲まれた、タイのハヌマーンです。
ウルトラマンの制作会社円谷プロとタイの映画会社の合作で作られた1974年の作品で、邦題は『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』と言います。一時期権利問題でもめていたのですが、日本版ソフトも出ていて、プレミアムがついて高価ですが、手に入るようです。日本に紹介された、初めてのハヌマーンかも知れません。そんなこんなのハヌマーンねたですが、最後に『ハヌ・マン』のデータと予告編を付けておきます。
『ハヌ・マン』 公式サイト
2023年/インド/テルグ語/158分/原題:Hanu-Man/字幕:福永詩乃/テルグ語監修:山田桂子
監督:プラシャーント・ヴァルマ
出演:テージャ・サッジャー、アムリタ・アイヤル、ヴァララクシュミ・サラトクマール、ヴィナイ・ラーイ、ラヴィ・テージャ(声の出演)
配給:ツイン
※10月4日(金)より新宿ピカデリーほかでロードショー
『ハヌ・マン』予告篇