アジア映画巡礼

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S.S.ラージャマウリ監督作『RRR』快進撃中!

2022-03-28 | インド映画

3月25日(金)に封切られた、『バーフバリ』のS.S.ラージャマウリ監督による新作『RRR』が、驚異の興行成績を挙げつつあります。この3日間での興行収入(興収)は何と500カロール、つまり50億ルピーを突破しました。円安になったため1Rs.=1.62円なので、80億円超えというわけですね。もちろん、インドだけでなく世界全体の興収ですが、このスピードは驚異的です。

公開日である先週金曜日から、YouTubeには映画館で撮られた動画が次々とアップされています。画面を前に観客が興奮し、手を突き上げたり叫んだり、指笛吹いたりしている様子がスマホで撮られ、「すごいぞ、『RRR』!」という証拠を提示するがごとく、高揚した気分のまま次々と観客がアップしているのです。しつこくカメラチェックして、カメラを見つけたら「バッテリーを抜いて下さい。預かります」と言っていたシネコンチェーンINOX(3年前まではそうでした)、どうするよ、これ。

現在のインド人映画ファンの関心は、「『バーフバリ 王の凱旋』(2017)の成績を『RRR』が上回るかどうか」というところですが、実は『RRR』は莫大な製作費が掛かっており、55億ルピーと言われているその製作費を回収するためには、今の倍ぐらい稼がないといけません。これから北インドでもヒットしていくかどうか、海外市場、特に中国での興収がどうなるか、というのが鍵となりますが、『バーフバリ 王の凱旋』の最終的な興収は181億ルピー。『バーフバリ』とは異なり、独立前のインドが舞台で、反英独立闘争の勇士たちを描いている『RRR』。神話的英雄が主人公で、国籍を越えて支持された『バーフバリ』とは少々異なるため、両者の比較に関心が集まっています。ヒンディー語版の予告編を付けておきます。

RRR Official Trailer (Hindi) India’s Biggest Action Drama | NTR,RamCharan,AjayD,AliaB | SS Rajamouli

 

というわけで、インドの映画興行もやっと元に戻ったようで、年初は昨年12月17日に公開されたアッル・アルジュン主演のテルグ語映画『Pushpa: The RiseーPart 1(プシュパ:立身編・第一部)』のヒットで大いに沸き、プシュパ・ラージという男を主人公にしたこの作品、最終的には36億5千万ルピーという興収を挙げました。続いて2月17日(木)には、サンジャイ・リーラー・バンサーリー監督作で、アーリアー・バット主演の『Gangubai Kathiawadi(ガングバーイー・カーティヤーワーリー)』が公開され、19億ルピーという興収を挙げてボリウッド映画の意地を見せました。

Gangubai Kathiawadi film poster.jpg Radhe Shyam.jpg

そして、3月11日(金)には、プラバースの主演作『Radhe Shyam(ラーダーとクリシュナ)』が満を持して公開されました。この映画の動画はこちらにたくさん付けておきましたので、見てみて下さいね。ヒンディー語話者の観客も取り込めるよう、ヒンディー語版製作にも力を入れ、ヒロインは『モヘンジョダロ』(2016)のプージャー・ヘーグデーを起用、ヨーロッパロケを多用するなど洗練された南インド映画を目指したようです。ただその分、ストーリーに深みが欠けたようで、残念ながら映画評の評価はいまひとつでした。興収は現在21億4千万ルピーとなっており、プラバース主演作への期待が非常に高かったことをうかがわせますが、興収の伸びは鈍化しつつあります。

ところが、ここに思わぬ伏兵が。『Radhe Shyam』と同日に公開されたヒンディー語映画『The Kashmir Files(カシミール・ファイル)』の観客動員数が日を追う毎に増えていき、興収もどんどん増加していったのです。主演は、アヌパム・ケール、ミトゥン・チャクラヴァルティー、パッラヴィ・ジョーシーと、トップスターは1人もいません。また、映画評を見てみると、高く評価している評論家はおらず、作品に対して批判的な態度の人も見受けられます。それがなぜヒットしているのか。現在の興収はほぼ30億ルピーと、『Radhe Shyam』を抜いてヒンディー語映画のトップに立っている『The Kashmir Files』、予告編は下の通りです。

The Kashmir Files | Official Trailer I Anupam I Mithun I Darshan I Pallavi I Vivek I 11 March 2022

 

興収が増えた=観客動員がアップした理由は、一つには現在のBJP政権がこの映画を支持し、宣伝したことです。この映画は、1989-90年に起きたカシミールでのイスラーム教徒過激派によるバラモン(ヒンドゥー教徒の最高位カースト、僧侶階級)排斥運動を描いていきますが、上の予告編でもわかるように、過激派を始めとするイスラーム教徒を血も涙もない存在として描きます。本作には現在のパートも出てくるようですが、国民を分断しかねないこのような映画を賞賛する政権党とは一体何なのだ、と思ってしまいます。しかし、この政府の態度に同調した多くの州が、本作をタックス・フリー、つまり「優秀作品であるからして、映画税を免除する」としたので、映画料金が半額ぐらいになったため、政治的な興味と安価なチケット代とで、人々がどっと映画館に詰めかけたのでした。私もこれから『The Kashmir Files』を見るため(自主上映会のご案内はこちら)、作品の最終的な評価はその後にしますが、批判的な映画評を書いた評論家たちを攻撃する政治家までいると聞くと、今のインドの右傾化がいよいよ深刻になってきた、と思わざるを得ません。

 

最後は口直しに、『RRR』のプロモ・ソングを付けておきます。こちらも見たいですねー。日本では、どこかが買って下さるでしょうか...。

Koelae Video Song - RRR – NTR, Ram Charan, Alia, Ajay Devgn | Maragadhamani | SS Rajamouli

 


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