アジア映画巡礼

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第18回東京フィルメックス:私の3日目(上)

2017-11-25 | アジア映画全般

本日、コンペの各賞が発表された第18回東京フィルメックス。今年は何と、最優秀作品賞が2作品という結果になり、その代わり審査員特別賞はナシになりました。最優秀作品賞の2作品は、いずれもインドネシア映画で、両方とも女性監督の作品です。

【最優秀作品賞】 
『殺人者マルリナ』
 2017年/インドネシア、フランス、マレーシア、タイ/95分/原題:Marlina Si Pembunuh Dalam Empat Babak/英語題:Marlina the Murderer in Four Acts
 監督:モーリー・スリヤ


『見えるもの、見えざるもの』
 2017年/インドネシア、オランダ、オーストラリア、カタール/86分/原題:Sekala Niskala/英語題:The Seen and Unseen
 監督:カミラ・アンディニ


私は残念ながら、両作品とも見られずじまい。日本で公開されることを願っています。

さて、後追いレポートになってしまいましたが、11月22日(水)に見た作品をちょっとご紹介しておきます。 

『ファンさん』
 2017/香港、フランス、ドイツ/87 分/原題:方绣英/英語題:Mrs. Fang
 監督:ワン・ビン (王兵/WANG Bing)


中国でドキュメンタリーを撮らせたらこの人の右に出る人はいない、と言ってもいいワン・ビン監督。今回は、中国南部の浙江省湖州市に近いある町が舞台となります。主人公は方綉英という60過ぎの女性で、これが「ファン(方)さん」。冒頭シーンではまだ散歩ができるほどだったのですが、やがて認知症が出てき来て行動が緩慢になり、あとは寝たきりになります。そしていよいよファンさんが危ないとなった2016年6月28日からの数日間、娘や息子、嫁を初めとする親族が集まって、ファンさんの最後を見守る姿がカメラに収められていきます。ファンさんの表情の変化を追っていたカメラは、20分ほど経つと耐えきれないように家の外に出てきて、親族の男性が魚獲りをするシーンに切り替わります。電気ショックを流す手持ち網を使って、ライギョやハクレンを獲る男性。そして、その後はこの漁のシーンと、ファンさんのベッド脇のシーンが交互に記録されていきます。ファンさんやその亡き夫の兄弟姉妹らがおじさん、おばさん格で、息子や娘、さらには孫たちまで三世代が集まって、「その時」を待つのですが、枕辺で葬儀の宴のことやらお墓のことやら、遠慮も何もあったればこそ、で話すのが何とも「ファンさん、聞こえてませんか? 大丈夫ですか?」という感じ。でも、どの人もこの見送りを面倒だと思っていないどころか、息子や娘世代は「孝行」という言葉をつい思い出してしまうような様子であることに救われます。さすがに臨終シーンは撮られておらず、ホッとしながら見終えました。


『ジョニーは行方不明』
 2017/台湾/ 105 分/原題:強尼・凱克/英語題:Missing Johnny
 監督:ホァン・シー (黄熙/HUANG Xi)


主人公は、台北に住む3人の男女。張以風=イーフォン(柯宇綸/クー・ユールン)はリフォーム屋を最近始めたばかり。学校時代の恩師(張國柱)の家によく訪ねて行きますが、息子と恩師の仲があまりよくないのが心配の種。台北に移ってきたばかりの若い女性で、外国人向け民宿のフロントで働く徐子淇=ツーチー(リマ・ジダン)はインコ好き。ただ、遠くに住んでいて時たまやってくるボーイフレンドは、鳥を放し飼いにすることに嫌悪感を抱いていて、何かと口うるさく言います。ツーチーの住むアパートの家主の息子李立(黄遠/ホァン・ユエン)は軽い学習障害を持っており、繊細な心を時にはいらだたせます。李立の母親がイーフォンにある家のリフォームを頼んだことで3人は出会い、やがてツーチーの過去がいろいろと明らかになってきます。また、ツーチーの携帯には、「ジョニーと代わって」という”ジョニー”なる人物の縁者からの電話がよくかかるようになりました...。

ツーチーは香港からやってきた設定のようで、国語(標準中国語)のほか、広東語、英語を話します。ボーイフレンドも香港人のようで、どうやら過去にツーチーとの間でワケありだった様子。そういったことが少しずつわかってくるのですが、このツーチーを演じるリマ・ジダン(お母さんは台湾人なのですが、お父さんがフランス人なのだとか)がちょっと不思議なムードを持つ女優で、彼女の他とは異質な魅力が光る作品でした。あとの出演者では、ホァン・ユエンがどこかで見た顔だと思ったら、以前王大陸(ダレン・ワン)の魅力に惹かれて見た『一万公里的約定』(2016)の弟役というか主演の男優でした。顔がだいぶ変わっていて、いい顔になっています。これからの成長が楽しみな男優です。あと、歌手の黄韻玲の名前もクレジットにあったのですが、あの女性家主役が彼女だったのでしょうか。ホァン・シー監督は、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督のアシスタントを務めていたとか。監督とのQ&Aがありましたので、簡単に記録しておきます。司会はフィルメックスのプログラム・ディレクター市山尚三さんです。


市山:主人公3人の繋がりがとても自然でよかったですね。脚本を書く時、どんな風に考えて作ったのかうかがいたいんですが。

監督:今日はこの作品を見に来て下さって、ありがとうございました。3人の人物を書き分ける時には、身近にいた様々な人を思い浮かべながら書きました。友人であったり、出会った人だったり、あるいは観察していて印象に残った人などをコラージュして作り上げてあります。たくさんの女性の友人たちや、イーフォンのモデルの人など、様々な人を参考にしました。

市山:それぞれ別々の脚本とかでしょうか。どんな脚本だったのですか?

監督:本作の脚本を書いている時、ほかの2本の脚本も同時進行していたのですが、その2本はハリウッド式のごく普通の映画でした。本作はエッセーのようなもので、書いている時はまだ具体的には俳優は考えていませんでした、ただ、クー・ユールンだけは頭に浮かんでいて、彼にあて書きする形で書きました。その他の人は、思い浮かんでいませんでしたね。


Q:道ばたで車が故障するシーンが出て来ますが、よく安全に撮影できましたね。台湾の人の運転マナーって、どうなんですか?

監督:確かに、道路での撮影は難しいです。ただ、本作は道路が混んでいる時間帯を撮りたかったんです。それが、台北の生活風景を表現することになりますからね。ちゃんと許可申請して撮ったんですが、ラストのシーンだけ、申請なしでこっそり撮りました。とは言っても、交通を邪魔しないようにカメラは高い場所に据え、その高い所から2台のカメラで撮ったんです。また、主人公たちの車の前後はスタッフの車で固めて、なるべく他の人に迷惑が掛からないようにしました。

市山:あのラストシーンは夕暮れですし、微妙な時間帯ですよね。本番一発撮りだったんでしょうか?

監督:1回しか撮れないから、と俳優たちには言いましたが、結局6テイクぐらい撮っています。幸い、警察とは遭遇しなくてよかったです。

Q:タイトルにもある”ジョニー”は、脚本を書く段階から正体がわからないように考えて撮られたのですか?

監督:同じような話を香港の友人から聞いたことがあるんです。その人は携帯の番号を変えたあと、見知らぬ人から頻繁に電話がかかってきて、最初はムカッとしたものの、だんだん親しみを覚えるようになった、という話です。この話を使ってみようと思い、ヒロインのツーチーに設定してみました。英語題名にある「Missing」ですが、”行方不明、消えてしまった”という意味と、”懐かしく思う”という意味との両方があります。それを”ジョニー”という名前で象徴してみたのです。


Q:ホウ・シャオシェン監督がプロデューサーになっていますが、本作ではどんな関わり方をなさったんですか? 監督が彼から学んだことは?

監督:ホウ監督の役割は、一つは、何本か書いた脚本の中で「これがいい」と言って下さったこと、そして完成させた脚本を見て「OK」だと言って下さったことです。取り終えた後、ファーストカット版を見ていただいたのですが、2時間ちょっとのヴァージョンだったので、「疲れるね」と言われてしまいました(笑)。それで、カットして97分にしたら「OKだ」と言われたのですが、今度は我々の方が切りすぎたと感じてしまい、今の105分のものになりました。ホウ監督から学んだことは、具体的な映画製作についてではなく、人に対してはどう対応すべきか、というようなことをそばにて知らず知らずの間に学んだと思います。


Q:役者さんはどのように選んだのですか?

監督:人と人との関係、というのが本作の大きなテーマです。役者さんたちには、それぞれ異なる脚本を渡しました。自分の出演シーンだけの脚本ですね。よけいな情報は与えられず本番に臨んで、映画の中に入り込んでほしいと思ったのです。

Q:自動車以外にも、MRTやバイクなど台北の一般的な交通手段がいろいろ使われていましたが、それと”Missing”との関係を脚本段階から意識されていたのでしょうか。それとも撮っていくうちにこうなったのでしょうか?

監督:私も台北に住んでいて、家からカフェに行って脚本を書いていました。台北の移動手段というもの、距離と時間軸との交わり、というものに興味を抱いていて、日常を描いた本作にも、そこに哲学的な意味とイメージを持たせたかったんです。それらは、それぞれの人物の中に反映されています。例えば、イーフォンの過去と現在、また未来に向かっていくすがたとかに現れているわけです。


市山:本作は、11月25日(土)に行われる台湾の金馬奨に、新人監督賞、新人女優賞、音楽賞でノミネートされています。実は監督はここから空港へ向かい、台湾に帰国されることになっているんです。

監督:日本も東京も大好きなので、ザンネンデス!(ここは日本語で) 次はもっとゆっくり、来たいと思っています。


『ジョニーは行方不明』は、金馬奨で見事新人女優賞をリマ・ジダンが獲得しました。おめでとうございます!

(続く)



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2 コメント

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『ジョニーは行方不明』 (エドモント)
2017-11-27 18:23:03
cinetamaさん こんにちは
『ジョニーは行方不明』は、どこで大きな展開があるのか?と、見ていたら、大きな展開はなく通り過ぎて行きました。
けれど、徐々に、それぞれが各自が心の傷や問題を抱えているのが明らかになりますが、高架道路上のエンスト、再び走り出す光景のエンディングで、希望を感じることの出来る作品でした。
そうです、自転車に乗るシーンが印象に残る李立(飾:黄遠)の媽媽役が黄韻玲ですね。
ちなみに、先日行われた2017年金馬奨 最佳原創電影歌曲部門ノミネート:〈陌上花開〉(『相愛相親』)は、黄韻玲が作曲しています。
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エドモント様 (cinetama)
2017-11-27 21:29:14
コメントでのご教示、ありがとうございました。

やっぱり、黄韻玲はあのお母さんでしたか。
最初が台所にいるシーンだし、歌手としての姿しか見てなかったので、「??この人かなあ??」という感じでした。
そう言われれば、『相愛相親』のエンドクレジットでも彼女の名前を見たのでしたが、『ジョニーは行方不明』の方は音楽に林強の名前があり、こちらも金馬奨の作曲賞の方にノミネートされていましたね。

『天使は白をまとう』も金馬奨の監督賞を獲りましたし、まずはめでたい!
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