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アジア映画巡礼

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香港国際映画祭レポート<3>生々しかった中国映画『浄土』

2019-03-28 | 中国語圏映画

香港国際映画祭は、中国のインディペンデント映画とって、外に開かれた窓的存在でした。中国国内では上映許可が出ないと上映ができないのですが、そんなものは無視して作品を完成させ、何とか観客に見せたいと思っている監督の作品を、これまで数多く上映してきたのです。その心意気は今も続いているようで、今回見た『浄土』も、こんなシーンを描いても大丈夫なのか、とハラハラするような描写がありました。


映画は、「オミトボ」というつぶやきから始まります。日本語で言えば「(南無)阿弥陀仏」で、英語字幕は「Amitabh」と出てきます。舞台は大同に近い農村。そこに、フロントに毛沢東の小さな胸像と数珠を飾った大型車が到着。役人らしき服装の男女5人が降りてきて、農家に入っていきます。彼らをもてなそうとするこの家の主婦に対し、役人たちは詰問口調で問いかけます。「夫は?」「出稼ぎに行っています」と答える主婦に、「女の子が2人いるんだろ。その子は堕ろせ」「今は女の子だって男の子と平等だよ」「堕ろさないなら罰金を払って産むんだな」とたたみかける役人たち。「そんなお金はありません」とうつむく主婦に、「よく考えろ」と言いざま、罰金の一部にでもするのか、テレビを抱えて出て行くと、「この家はいくらぐらいになるかな?」「3千元ぐらいかなあ」などという会話を交わしながら去って行きます。3人目の子供を産む罰金は何と、4千元なのです。小学校高学年の姉は寄宿舎生活なのか家にはいませんが、まだ学校に行っていない下の女の子は「テレビ、いつ返ってくるの?」と寂しそう。


主婦は、大同の町にいる叔母?を訪ねます。仏具店を営み、仏教への信心にすべてを捧げている叔母は彼女の苦境に同情しますが、少しの援助はできても、大金は出せそうにありません。「村のお医者さんは、超音波で見て”女の子だ”と言うの。だから、もう堕ろそうかと思って」主婦と叔母は町の大きな病院に行き、堕胎を申し出ます。ですが、もう5カ月目に入っているので再度検査をさせられ、その時に診た女医は、「男の子よ。村の診療所は機械が古いから、見間違えたんでしょ」と宣言します。主婦はやっぱり産むことにし、叔母と共に罰金を必死でかき集めます。ですが、やっとあと少し、という時、叔母の店を手伝っていた主婦は、叔母がお寺参りに行ったすきに役人たちに拉致され、強制的に堕胎させられます。店の前に放り出されるように降ろされた主婦は、まるで魂が奪われたようになっていました。心配した夫は、出稼ぎ先から戻ってきますが...。


役人たちとのやり取りが、強制堕胎のシーンも含めてそれはそれは生々しく描かれ、見ていてドキドキしました。叔母が熱心な仏教徒で、仲間と共にお参りをするシーンなど、宗教に帰依するシーンもよく登場します。そして、お寺にあるような地獄絵図も出てきて、罪を犯した者への罰のすさまじさが見る者に迫ってきます。こういった描写も検閲に引っかかるのではないか、と心配になりますが、それも含めて作品に引き込まれました。張振宇監督はこれが第1作とのことですが、しっかりした映画作りで中国の現実を見せてくれ、今回見た中国映画の中では一番魅力的な作品でした。



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