アジア映画巡礼

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今日から春がやってくる! 中国映画の傑作『春江水暖~しゅんこうすいだん』公開!!

2021-02-11 | 中国映画

2019年の東京フィルメックスで上映された中国映画『春江水暖~しゅんこうすいだん』が、本日、2月11日(木・休)より日本で公開となりました。150分という長い作品なのですが、今回のご紹介にあたって2度目に見てみるとお話がとてもよくわかり、フィルメックスの時に比べてぐっと映画の中に入り込めました。フィルメックスで見た時は、主人公である兄弟4人の顔と背景がよくわからず、それでも景色のきれいな作品だなあ、と思ってこんな紹介や、こちらのような監督Q&Aをアップしたのですが、見直してみてこんなすごい映画だったのか! と認識を新たにしました。こんな風に二度目で大満足する作品なんて、私としては珍しいです。まずは、作品のデータからどうぞ。

©2019 Factory Gate Films All Rights Reserved

『春江水暖~しゅんこうすいだん』 公式サイト
 2019/中国/中国語/150分/原題:春江水暖/英語題:Dwelling in the Fuchun Mountains
 監督・脚本:グー・シャオガン(顧暁剛)
 主演:チェン・ヨウファー(銭有法)、ワン・フォンジュエン(汪風娟)、スン・ジャンジエン(孫章建)、スン・ジャンウェイ(孫章偉)、ジャン・レンリアン(章仁良)
 配給:ムヴィオラ
2月11日(木・祝)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開

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浙江省の北部にある杭州市。上海からも近いのですが、本作の舞台となる富陽区は昔の名前を「富春」と言い、その名を冠した富春江という大きな川が流れている風光明媚な所です。劇中では、「♫私の故郷は富春江、皇帝孫権と郁達夫の故郷♫」という歌も流れるので、郷土愛の強い所のようです。でも、今は経済発展優先で、富陽区にはもうすぐ地下鉄が通って駅が出来、杭州市の中心部まですぐ行けるようになる、と説明されるシーンが出てきたり、地区発展のため古い集合住宅などがどんどん取り壊されている現状も映し出されたりします。この富陽区にある中華料理のレストランを舞台に、4人の兄弟の1年間を追ったのが本作で、四季折々の風景が登場します。物語は4人兄弟の母親の誕生日祝宴から始まりますが、この4の兄弟がどんな人物かわかってしまえば物語が楽しめますので、それぞれの家族構成もまじえながら、4人を紹介してみましょう。

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長男:ヨウフー~レストランのオーナー兼コック。趣味はサンドバッグ叩き。
 妻:フォンジュエン~夫と共にレストランを切り盛りする「女強人」。
 娘:グーシー~一人娘で幼稚園の先生。
 母:ユーフォン~現在は長男ヨウフー宅に同居。
<心配の種>
 ①娘グーシーには恋人である教師のジャンがいるが、妻フォンジュエンはジャンが裕福でないのが気に入らず、別の男と結婚させようとしている。
 ②妻フォンジュエンの弟は、投資話をエサに義兄ヨウフーから金を借りているが、返済しようとしない。
 ③少々認知症が出てきた義母の世話が、フォンジュエンには負担。義母は自分をわかってくれないので、よけいにイヤになる。他の兄弟は世話することに消極的。

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次男:ヨウルー~妻と共に富春江で漁をして、兄のレストランなどに納めて生計を立てている。
 妻:アイン~働き者。息子ヤンヤンには甘い。
 息子:ヤンヤン~一人っ子で工場勤務。彼女がいるが、その要求に応えるのが大変。
<心配の種>
 ①母を長男ヨウフーに預けっぱなしなのが心苦しい。
 ②ヤンヤンの結婚とその新居購入。
 ③自宅が取り壊し対象となり、現在は漁船に住んでいる。

三男:ヨウジン~離婚後、息子カンカンを男手一つで育てている。
 息子:カンカン~知的障害があり、体も弱い。
<心配の種>
 ①ヤクザから多額の借金をしていて、追われている。
 ②自宅を賭場にしているうえ、イカサマをやっている疑いが。
 ③カンカンの健康と障害者ゆえの周囲のイジメ。
 ④母と一時同居するが、母はすぐ勝手に出ていってしまう。

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四男:ヨウホン~独身で建物取り壊し業に従事。各戸に残された手紙を読むのが好き。
<心配の種>
 ①37歳でまだ独身。見合いはするのだが...。
 ②母親はヨウホンを一番可愛がっているが、それに応える意思がない。

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こういう人たちが織りなす喜怒哀楽がゆったりと描かれ、まるで富春に伝わる絵巻物「富春山居圖」のように、観客の目の前に展開していきます。前回見た時は、巧みな長回しに驚きながらも少々疲れたりしたのですが、今回は長回しの呼吸も心地よく、さらにどの登場人物も見事な生き方をしていることに惹かれました。ヤクザさえも悪人としては描かれておらず、街の風景に点描されていて存在感があります。母親がいなくなって、心配した三男が行方を尋ねる易者や、ある事件の時に逃げ込む隣家の老女など、一瞬しか出てこない人も絵になっています。不思議な才能の持ち主ですね、グー・シャオガン監督。

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配給会社からいただいたプレスには、監督へのロングインタビューが掲載されているのですが、これがとっても面白いので、劇場用パンフに載っていたらぜひお求め下さい。監督のちょっとユニークな経歴はここで書いてしまうよりも、それを読んでいただいた方が「へえ~」度が高いと思うのでぜひ。なお、インド好きの方に一つだけ漏らしておくと、監督は大学時代に一時ヒンドゥー教を勉強したことがあったんだとか。ハリウッド映画『アバター』(2009)がきっかけだそうで、「アバター=avatar=アヴァタール/化身」ということもちゃんとご存じでした。ヒンドゥー教の礼拝(プレスでは「ミサ」となっていましたが、「ミサ」はキリスト教用語です。パンフで直っているといいのですが)にも参加したことがあって、「僕にとってはヒンドゥー教は親しみがあります」とのこと。それで、最初の作品はヒンドゥー教徒の人たちを撮ったドキュメンタリーだそうで、それが杭州の映画祭で上映された時初めて「監督」と呼ばれ、「ようやく映画という大きな扉の前に立ったんだ、と自覚した」そうです。下は近影で、2019年のフィルメックスの時よりちょっと大人っぽい雰囲気になっていますね、グー・シャオガン監督。

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こんな童顔の監督が作った作品ですが、成熟した、人間愛溢れる作品で、見終わった後幸せな気持ちにしてくれます。ただ、最後に観客が「えーっ!!」と言わされる箇所があるので、そこで穏やかな気持ちが吹っ飛んでしまいますが、残念と言うよりは期待感の方が高まりますから大丈夫。いやいや、すごい監督が出てきたものです。最初にちょっと書いたように、二度見をなさることをオススメしますが、まずは一度、大画面で楽しんでみて下さい。最後に、予告編を付けておきます

映画『春江水暖~しゅんこうすいだん』予告編

 


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