竹心の魚族に乾杯

Have you ever seen mythos?
登場する団体名、河川名は実在のものとは一切関係ございません。

グルタミン”酸”にご注意

2009年10月29日 20時37分24秒 | 竹田家博物誌
カワハギ釣りのDVDでインストラクターの人が、餌を化学調味料で締める方法を紹介していて、「化学調味料にはグルタミンが含まれているので…」と解説していました。プロのインストラクターでも間違えるんですね~。グルタミンとグルタミン酸、全くの別物です。

グルタミンとグルタミン酸、なんだか紛らわしいですけど、理科の世界じゃ構造が近ければ名前も近いものになるというのが決まり。もちろん例外もあります。シリコンとシリコーンとか。シリコンは半導体に使われる奴。シリコーンは美容整形に使われるアレですね。

まあ手っ取り早く言えば、グルタミンとグルタミン酸は、“兄弟”です。紛らわしいから名前を変えろといっても、理科の命名規則があるんで…。

有名な政治家の方で兄弟なのに性格は似ても似つかないという人がいますが、グルタミンとグルタミン酸もそんな似てない兄弟なんでしょう。


さて本題。


生体内で、グルタミンシンテターゼという酵素があるとグルタミンとグルタミン酸は相互に変換します。これを「可逆」だといいます。
グルタミンからアミノ基がとれてグルタミン酸になるときはATPを必要としませんが、その反対、グルタミン酸からグルタミンを作るときはATPを確実に消費します。ATPが全然なければ、グルタミン酸からグルタミンへの反応は、万に一つも、進行しないということなんです。細胞の中にATPが全然ないということはあり得ませんが、これは良く考えてみるととても面白い現象ですね。

ですから、可逆だといっても、手っ取り早くいうと、グルタミン酸はできやすく、グルタミンはできにくいということになります。

グルタミンがどんどんグルタミン酸に変わってしまうのはとても困ったことなのですが、グルタミンシンテターゼその他の酵素が全く存在しない状況では、グルタミンは自力でグルタミン酸とはまた別の、「ピログルタミン酸」というものに変わってしまいます。
ひとたびピログルタミン酸になってしまうと、もはやグルタミンシンテターゼやその仲間(グルタミナーゼ)では元に戻せません。


そんなことが、グルタミンという特定のアミノ酸が、微生物から高等動物に至る生き物の体内で代謝(メタボリズム)や輸送に密接に関わっていることと関係があるのかも知れません(一部の教科書で、グルタミン酸が窒素代謝の上で最も主要なアミノ酸であるとしていますが、それはどうでしょうか…)。



今では、スーパーでとても安く手に入るグルタミン酸。製造方法ですが、原料がサトウキビだし、微生物を利用した醸造方法で造っていて、近頃は化学合成で造っていないということを強調しています。製造している企業は日本に何社かあり、中国など外国にも何社かあるようで、醸造方法はすでにその筋の専門家の間には知れ渡っているようです。けれどもその詳細については、ホームページなどを見ても一般消費者には公開していないようです。安全性を強調する一方で、作り方を公開しないというのはちょっと時代にマッチしない気がします。

「細菌の手帳」という本によると、次のように書かれています。
「グルタミン酸発酵に用いられる細菌はコリネバクテリウム・グルタミカムやブレビバクテリウム・フラウムという名前でよばれています。これらの細菌は増殖する際に、ビオチンという栄養素を必要とします。ところが、ビオチンの濃度が不足していると、これらの細菌はグルタミン酸を菌体外に分泌します。したがって、これらの細菌にグルコース、硫酸アンモニウム、尿素、低濃度のビオチンなどを加えて培養すると、大量のグルタミン酸を得ることができます。」(田爪正氣・築地真美共著「細菌の手帳」研成社)

硫酸アンモニウムというのは、農協で売っている「硫安」で、アンモニアと硫酸を反応させたものです。このアンモニアは空気中の窒素を原料にして、工業的に高温・高圧を掛けて水素と反応させて作ります。どこかの国の地中から掘り出しているわけではありません。
この空気中の窒素を利用する技術はハーバー・ボッシュ法(1913年、ドイツ)といって、空気と電気さえあれば大量に爆薬が製造できるというものです。チリ硝石を輸入しなくても大量の爆薬・肥料を作ることができるということで世界中に広まりました。

ビオチンというのは、簡単に言えばビタミンの一種(ビタミンB7)で、一部の酵素とくっついて機能します。それらの酵素は、ビオチンがないと不活性なので体内で必要な合成や分解が進まないというわけです。先ほどのコリネバクテリウムでいえば、菌体内にグルタミン酸がたくさんあっても、ビオチンがないため利用もできないし、かといって分解もできないということで、菌体外に出てくるのだと思われます(処分に困っているのは別なアミノ酸の可能性もある)。



今ではコンビニの弁当のほとんど全てにグルタミン酸が使われていますけど、何もそこまでして味誤魔化さなくてもって気がしないでもないです。正直言って入れ過ぎで気持ち悪くなるよ。米だって腹が減ってれば塩だけで十分うまいし、それでたまに釣った魚食べてれば満足でしょ。



ところで最近、パッケージの裏に「調味料(アミノ酸)」と書いてない食品を見つけると、ついつい買い物カゴに入れてしまいます。めっさボンビーなのになあ。

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