ツキさんとはしばらく会えませんでした。
居そうな場所で、毎日名前を呼んでいたのに、出て来なかったので、
ショバを変えたのかな。
行方不明になったのかな。
もう会えないのかな―と。
ツキさんが自分で選んだのなら仕方ないと思いました。
猫は気持ちのいい事、幸せになる事を選ぶのが、
私よりもずっと上手なのだと、
いろいろ観察していて思ったから。
人間一般にとって不幸に見えても、
猫にとってもそうなのかが疑問に思えてきていたから。
昨日、昼休みが終わって会社に戻ろうとした時、
自分から50メートルくらい離れた所にある、大きな水溜りのほとりに、
ツキさんらしき縞猫がいました。
無事なのか確かめて見たかったのです。
「ツキさーん!」と呼んでみました。
そしたら縞猫は、大きな声で鳴きながら走って来ようとしたのです。
とりあえず、まだ無事でよかった。
でも…、
「ごめんねー。夕方まで待っててねー!」
と私は叫びました。
会社からの帰り、同じ場所でツキさんを呼ぶと、
ツキさんが出て来て、甘えて来ました。
しばらくなでたり、写真を撮ったりして、最後に
「気が済んだら帰って来ていいからね。
明日とあさって会社に行ったら、また休みになるから、どう?」
と言って分かれました。
ツキさんは、里芋畑の畝の中に隠れながら、
行ってしまいました。
…今度はいつ会えるのでしょう。
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昨日の晩にラブカンが来たので、
「明日の朝は、あんたの好きなあじの開きを焼いてあげるからおいで。」
と言っておきました。
ラブカンは言った通りに今日の朝、家に来ました。
私が近所の主婦と家の入り口で話し込んでいるのを見て、
抗議のオシッコ噴射を壁にしていました。
ラブカンは、気の合わないツキさんやキイタンとの生活に見切りを付けて、
妻のアイちゃんとの野外生活を選び、出て行ってしまいましたが、
現在でも夫婦で寄り添って、ごはんは食べに来ます。
でも、ラブカンがたった3ヶ月くらいの間に、
こんなに野生味を帯びて、くたびれた姿になってしまうなんて― 。
しかも猫だから、アイちゃんが最愛の御台だとしても、
実は側室もあちこちにいるらしい…。
いっそ、手術したらいいのかとも思うのですが、
ラブカンの真の幸せはどっちにあるのでしょう?
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子育てに疲れて、
食べる事だけが楽しみ?
アイちゃんの子供達、ちょこちょこ動き回るようで、
最近まとまって見る事がなくなりました。
もしかしたら、もう何匹かはそこらをうろついている内に、
自然とどこかの里子になってしまったのかもしれません。
危険な賭けでもあるのですが、手間とお金のかからない、
可愛いい盛りの子猫さん達が、企画も実行も自ら行うキャンペーンでもあるようです。
そして、よっぽど運が悪くなければ、
「売り込み」は大成功を収め、
私のようなお人好しで、潜在的に猫が好きな人の家へと
まんまと潜り込み、その家のミヤ様から将来のミカドへとなって行くのでした。
アイちゃんもラブカンやツキさんと同じ家の出で、
子供の頃は、金網の向こうにある元飼い主さんの家の庭で、
クマゼミを苛めていました。
私が「やめれー!!」と何度も大声で叫んでも、
まるで子供がゼンマイ仕掛けのおもちゃで遊ぶみたいにしていました。
セミさん、アイちゃんが飽きた所で、よろよろと這い出して命からがら
逃げおおせたようなのですが…。
家宅侵入罪になる訳にもいかず、子猫相手に叫ぶしかなかった私が
今でも悔しい―。
アイちゃん、「愛くるしい顔して、何て残酷な子。」と思ったものでした。
多くの人間のように、わが子を持って、「生けとし生ける物全ての命が大事な物」
―と、自覚するようになったのかどうかは…謎なのですが。
子供がいて体力使って大変でしょ―なんて甘やかしていたら、
頻繁に擦り寄って来るようになってしまいました。
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昼休みに家に帰った時、ツキさんがいそうな場所で名前を呼んでみました。
今までも同じ場所で名前を呼んでみてはいましたが、反応がなく、
もしかしたら具合が悪くて隠れているのか、
もうすっかり何もかもが嫌になってどこかへと姿を消したのか、
最悪死んでいるのかも…とも思い、不安になりました。
ツキさんが畑に生い茂る作物の葉っぱの陰から、鳴いて出て来ました。
今までと変わらない様子なので、
「よかった。」と思いました。
ツキさんに「ごめんね。」と謝りました。
猫さん達の事を今でも知らな過ぎて、
失敗ばかりしてしまっています。
夜に会社から帰った時にも、呼んでみたら、ツキさんは出て来ました。
カリカリを持っていたのであげると、
ツキさんはすごい勢いでムシャムシャと食べました。
ツキさんは無理に連れ帰っても、またこの間のような事になってしまうので、
「帰って来たくなったら、いつでも帰って来ていいからね。」
と言って別れました。
ツキさん、少しやせてはいましたが、
もともとヤンキー家出娘だったのだし、
今現在も案外逞しく、それなりに日々楽しく生きているのでしょう。
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