gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

掌奇譚 Homecoming 千葉甫

2024-04-14 15:13:26 | 小説
 ?
 呼ばれたように覚えて彼は立ち止まり、あたりを見回した。
 見覚えのない住宅街の通りだった。
 人影は無い。
 なぜ、ここを歩いているのだろう?
 それに、ここへ来た記憶もなかった。

 再び、声を聞いて振り返った。
 塀の上に座った猫が彼を見つめていた。
 見覚えのある猫だった。
 少年時代に居た飼い猫のトムを思わせた。


 「トム?」
 呼んでみた。
 「あぁ」
 猫が答えた。

 そのときドアが開いて出てきた人に眼をやった彼は、衝撃に身が凍りついた。
 その人は逝ってほぼ三年になる彼の父親と瓜二つだった。
 その人も、顔に驚きの色を浮かべて、
 「一夫か! もう、こちら彼岸へ来たのか。えらく早いじゃないか!」