不二家でも働きました。ちょうど不二家がファミリーレストランをにつくる計画があり、そのための調査をする仕事でした。この仕事は単発でした。
のどこに店を構えたら客が来るかを調査するのです。その方法とは、競争相手である例えばデニーズ、ロイヤルホスト、スカイラークのすでに営業している店を回り、その店をどれくらい客が利用しているかを調べるというものでした。
仕事を始める時間は任されていました。私は8月のある日、私鉄のある駅に降り立ちました。駅を降りて交通量の多い道路に出るとそこに何軒かファミリーレストランがあり、順番に入っていきました。
どうやってその店の利用客数を知るかというと、その店のレシートをもらってくるのです。その中にその日の何番目に発行したレシートかが記入されているというのです。
ひとつのお店で使える金額は500円と決められていました。例えば、1つ目の店でガムを買い100円使ったとしたら、次の店では900円使っていいということです。店に入るたびに飲み物や食べるものを注文していたら、お腹も苦しくなるし時間もかかるので、私は1つ目の店に9時くらいに入り、お菓子や人形を買ってレシートをもらい、昼ころに食事をして、また移動して小物を買って店を出てきて、真夏でもあったのでのどが渇いたらレモンスカッシュを飲んだり、宇治金時を食べたりしました。
1日で8軒か9軒回ったと思います。1軒500円使っていいので9軒で4500円分の飲食または購入が許されました。購入したものは自分の物となります。でも、ファミレスに入って入り口近くの人形やガムを買ってそのまま帰っていく客はあまりいないと思うので、最初は少し抵抗がありましたが、やっていくうちに面白くなってきました。
だいたいどういうコースを進むかは考えていきましたが、いまのようにネットがあるわけでもないので、ある店を出てから次に行こうとする方向にどうやって行けばいいのかは前もっては調べ切れなかったので、道行く人に「~という駅にいきたいのですが、ここからどうやって行ったらいいですか?」などと尋ねながらの行程でした。人に会えなかったり、かなりの距離を歩いていてもバス停がみつけられなかった場合、とにかく前に進むしかなかったのです。そういう意味では、このバイトは仕事とはいえ、ふだん来たことがないところでのことですので旅行に来ているような面白みを味わうことができました。
バイト料は1店につき500円の飲食代と購入物、それから1店目でもらったレシートの時間から最後の店でもらったレシートの時間までを時給500円で計算されるというものでした。なので、朝9時にレシートをもらい夕方5時半に最後のレシートをもらったとしたら、1日の現金でのバイト料は4250円です。交通費はもちろん別途もらえます。
朝7時半頃に家を出て夕方7時に戻ってくる仕事としては効率が悪いとはいえ、旅行気分を味わいながらでしたので、非常に楽しかったです。しかも1日目に行った道筋を次の日も同じ時間、誤差30分以内でたどらなければなりませんでした。最初から2日でワンセットという依頼でした。どういうコースをたどったかははっきりとは思い出せませんが、歩いていたとき歩道橋の横面には「原宿」と書いてあったのを見て「ここにも原宿があるのか」と思った記憶があります。
真夏の暑い日ざしの中でのバイトであったので、しかも楽しみながらであったので非常に鮮明にこの2日間の記憶は残っています。いまもあるのでしょうか、わたしは「マリナ・デル・レイ」という会社のタオル地のTシャツを着ていました。それから、ちょうど「チューブ」の「ストップ・ザ・シーズン・イン・ザ・サン」がはやっていたので、この曲を聴くといまでもこの2日間に見た風景が鮮明によみがえってきます。