検査科の管理職になってから、自分の専門外の、色々な患者さんの検査数値を眺めることが多くなった。
急激な数値の変化や、かなり正常値から逸脱した数値が見られた場合を「パニック値」といって、検査技師から口頭で必ず主治医に報告がいくことになっている。
以前はそれだけで終わっていたが、私が検査科管理職に就いてからは、パニック値が検出された時点で直ちに私にも報告してもらうように変更した。
パニック値報告があると、私は患者さんの電子カルテを開き、なぜそのような数値になったのかを、病態から考察する。
場合によっては、原因を明らかにするために、追加の検査が必要と思われれば、臨床側に情報提供することもあるし、すぐに対応しないと命にかかわるような電解質異常などは、念のため担当看護師たちにも情報提供して、医師に速やかに対応するよう促すことを助言しておく。
毎日こういう作業をするようになって、私は患者さんを実際に診ているわけではないが、色々な患者さんの様子を数字から思い描くようになった。
電解質のパニック値報告は命に直接かかわる変化であることが多いので、緊張してカルテを見る。
悪性リンパ腫の患者さんでカリウムが急激に上昇した人がいた。
直接の原因は腎機能の悪化。
肝機能も急激に悪くなっている。
お腹のCTでは、肝臓の入り口にリンパ腫による巨大な腫瘍ができていて、それが胆道を閉塞して、肝機能が悪くなっているのが想像された。
腎機能の悪化はなぜ?
と思って、カルテ記録を確認してみると、患者さんが先週、「抗がん剤治療をもうやりたくない」と拒否したとある。
残念ながら抗がん剤の効果が得られず、どんどんリンパ腫が進行しているため、主治医も家族も、患者さんの意思を尊重し、抗がん剤治療を中止していた。
患者さんは食事がほとんどとれていない。
患者さんが痛みを訴えるので、時々鎮痛剤が点滴されているが、そのほかの輸液などは全く投与されていない。
なので、からだは脱水となっており、腎機能の悪化はそれが原因と思われた。
数字から言えるのはここまで。
輸液をしたほうがいいのかどうかとか、痛み止めをモルヒネに変更したほうがいいか、などといったことについては、実際に患者さんを診ないことには、正しく判断できない。
だから、検査室で一人悶々とすることも、よくある。
なので、患者さんの状況を検査技師さんたちに説明し、検査データから病態を理解する力を育てる手助けをし、私の悶々とした気持ちも一緒に共有してもらっている。
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