モリッシーは数本の花を持って歌っていた。シャツの胸元を大きくはだけ、ビーズを幾重にも垂らしていた。前髪を逆立てるように挙げ、顔立ちは彫り深く、痩せた身体は冬に葉が落ちた樹を思わせた。
茎の長い花を右手にもち、それをぶんぶん振り回しながら歌ってる──そんな歌手なんて見たことがなかった。
振り回されてる可哀想な花、 それはThis Charming Man に 棄てられた少年の姿に重なった。いや、少年がモリッシーなのか? 乱暴に扱われている花こそが棄てられた少年でモリッシーなのか? いろんなイメージが重なった。
彼らが演奏しているのは、がらんとした室内で、バンドのメンバーは服装も普段着っぽく、淡々と演奏している。その真ん中でモリッシーだけが花を振り回しているのは奇妙な光景だった。窓から入ってくる自然な光が動き回る彼の横顔を照らしている。足元は床一面に夥しい数の花が落ちている。敷き詰められた花、というとロマンチックなようだが、何故かそれは爆撃にあった後の死体が累々と重なってる景色を連想させた。
丘の上にパンクした自転車、そこへ通りかかった車に乗った紳士。
きみみたいなハンサムな子がどうして今夜出かけないんだい?
助手席の革張りのシートはこんなに滑らかなのに
思い上がった食料品貯蔵庫の少年に紳士は言う「指輪を返すんだ」
───The Smiths "This Charming Manより
少年と紳士はどんな関係だったのか、指輪は何故少年が持ち、そして何故少年は返せと言われたのか? やっぱり謎が多い歌詞だ。
カッコいい、ロマンチックだ、そんなことばかりじゃない、それとも少し違う。謎が多い歌詞、時に力強く、時にゆらゆらと揺れる歌声、身体をくねらせる踊り。すっかり魅了されて画面に釘付けになっていた。
モリッシー、ここにいたんだね、と思った瞬間だった。

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