The Smiths と Morrissey

スミスとモリッシーについて。

祝!モリッシー東京公演(豊洲PIT)2023年11月28日

2023-12-04 21:20:19 | 音楽
アジア各都市でキャンセル続きだったモリッシーを本当にこの目で拝めるのか? という不安と緊張の中、私は羽田空港に降り立った。前々日くらいからモリッシーバンドの方々がちらほらと日本で撮ったらしい写真をSNSに載せていたのでそれが心強かった。
ゆりかもめに乗り豊洲PITに着くとすごい人…16時から先行物販なのにすでに15時55分には目視で500人以上は並んでる。焦って最後尾に並んだ。
並んでる間にドラムやギターの音が聴こえてきて、リハーサルが始まったようで、私の耳にもWe Hate や Stop Me の音が耳に入ってきた。モリッシーの声も…!! こんな何気なく聴こえていいものなのか? モリッシーの声が。周囲の人もざわめいていて、期待感が満ちていくのが肌感覚でわかった。1時間半くらい並んでツアーTシャツなど購入。その間に日は落ち、すっかり暗くなっていた。
途中ツイッターのフォロワーさんたちと初めて会ってご挨拶をし感激しながら、モリッシーをこの目で観る時が近づいてると思うとどんどんボルテージが上がっていった。
スタンディングで早く場所ゲットしないととは聞いていたけど、コンサート慣れしてない私は整理番号71番という早い番号だったのにフラフラ〜っと入って左側前から3列目の場所に陣取った。ワンドリンク制でとりあえず受け取った缶ビールを急いで飲み干し、潰してバッグに入れた。邪魔すぎる。
いつもYouTubeで見かける通りバックドロップに次々と映像が映る。これもモリッシーからのメッセージ、ちゃんと記憶に残したい…けど本人出てこないかな…と思いながら…開演時刻の7時から37分過ぎた…もう会場は人で埋め尽くされ、私がいる前方は後ろから押されて身動きが取れない状態だった。一つ動画が終わる度にもうモリッシーが出てくるかとどよめきが起こる。そしてまた違う動画。これもモリッシーのくれた試練か…
するとバンドメンバーが出てきてモリッシーもさりげなく登場。

コンニチハ!
You're the one for me, TOKYO-!!
が第一声だった。

1曲目は " We Hate It When Our Friends Become Successful " 私たちは友だちが成功するのを憎む…!なんど聴いても笑ってしまう(でもモリッシー以外誰も歌にはしないような感情)。
WHAT WOULD YOU DO IF YOU WEREN'T AFRAID?の文字が画面いっぱいに書かれていた。怖いものがなかったとすれば何をするか? 私は当分の間このメッセージに頭を抱えることになるだろうな。
次は "Suedehead" Why do you come here ? ってもちろんあなたに会いに来たんだよ〜って手を伸ばし、胸がいっぱいになりながらシンガロング。
途中ツイッターのFFさんであるトリさんからいただいた咲きかけの白いグラジオラスをステージに投げた。The Smiths の頃のモリッシーのようにおしりのポケットに刺して写真を撮っとけばよかった、忘れてた。でもモリッシーにグラジオラスを捧げるというファンの約束事が出来て嬉しい。


Alma Matters で涙しながら手をひたすら伸ばし、Our Frank でファンに投げ入れられたタバコをモリッシーが拾って耳にかけるところにグッときてさすがだなと思う。スミスの頃のステージ(YouTube) からずっと観てて思うのは、何気ない演出が天才的に上手いということ。ダンディズムというか、そしてその上チャーミングで。スミスの頃の動画を観ていて細い体をくねらせ絞るように歌っていた姿は胸が苦しくなるほど美しかったが、64歳の今厚みのあるどっしりとした胸板をはだけてマイクコードをピシリと叩きながら歌うところはまた魅力的だ。胸元にはゴツゴツした大きなネックレスがあり、肌の表面に汗がキラキラと輝いていて、美しかった。


[江戸主水ルウ(@Schokolade1919)さん撮影]

Stop Me, Sure Enough The Telephone Ring, I Wish You lonely, How Soon Is Now, Girlfriend In a Coma, 幾度となく聴いてきた曲や、新曲が続く。多幸感でいっぱいだった。
Sure Enough は Bonfire of Teenagers の1曲でのりが良く大好き。問題が解決して早くCDかレコードが販売されたら良いのに…
Let Me Kiss You の後、モリッシーが腕にたくさんのプレゼントを抱えて何か話していた。私も手に持っていた薄いグレーの紙袋を今だ! と思って投げた。その時だけ静かだったので意外と大きな「カサリ」という音がしてステージに落ちた。モリッシーが気づいてくれて、手を伸ばし、拾ったスタッフからそれを受け取った。すると両手で持ち、手を伸ばしてしげしげと眺めクルマのハンドルを回すようなユーモラスな動きをしながら片付けてくれた。予想以上の展開に胸がいっぱいになった。中身はGUCCIのネクタイ…と言いたいところだが予算の都合上、某デパートのハンカチ売り場で一番お高い、モリッシー色の(イメージはグリーンとピンク)ハンカチ2枚と、夜なべして書いた熱烈ファンレターだった。私のあの拙い文章を読んでくれただろうか? 読んで「フフフ」と笑ってると想像するだけでうれしい。



[モリッシーへのプレゼントに同封したファンレターの下書き]

途中モリッシーはよく喋ってくれた。東京では新宿のディスクユニオンと渋谷のタワーレコードに行ったこと。東京以外に大阪、広島…など知ってるよということ。あと面白かったのは「皆さん私のことを歌手だと思ってるようだけど、私は皆さんの精神科医なんです」と言ったこと。これには言い得て妙だと思った。あなたは私たちの病んでるところをあまりに的確に捉えて、それを歌にしている。そして私たちはそれに慰められ勇気づけられている。
The Loop ではモリッシーは薄い水色のマラカスを二つ持って歌っていた。激しいマラカス捌きとテンポいい曲調に照明でピンクに染まった会場は沸き立っていて私も楽しく踊っていた。曲の最後にモリッシーがバックドロップをじっと見つめた後にマラカスを一つ、二つとそれに向かって投げつけて終わったのには驚いた。この時のこの一曲はこれで完成したのだろう。画竜点睛といった感じだった。マラカスを降ってる姿からそこまで、映画を観ているようだった。
キーボードにスポットライトが当たり、いよいよEveryday Is Like Sunday が始まった。この曲は毎回キーボードの長い前奏で始まる。今回も新しいメンバー、カミラさんの演奏によって幕を開けた。カミラさんはひと月前くらいに足を骨折したとInstagramに載せていた。それがツアーのキャンセル続きの理由らしいが良くはわからない。美しい叙情的なピアノの音が3分ほど続いてから聴き慣れたメロディーが聴こえてきた
Trudge slowly over wet sand …
この始まりでまた涙。ああ、人生なんて濡れた砂の上を重い足取りでゆっくり歩くようなものだよなあ… ふだんのつまらない仕事やなんだかんだ生きてると片付けなきゃならない雑事なんか、私はこの歌を聴きながら乗り越えているんだ。
Everyday Is Like Sunday
Everyday Is Silent and Gray
毎日が日曜日、毎日が静かで灰色
どうしてモリッシーは私の気持ちを知ってるの?
という気持ちでいっぱいになって手を伸ばし続ける。シンガロングする。モリッシーがこちらにもやってきて手を差し伸べてくれる。もう少しで手が届きそうで届かない。あと30cmくらい? モリッシーの姿と華やかなライトが涙で滲んでキラキラして見えた。
Jack The Ripperの赤いスモークはYouTubeで見てたのより迫力があって驚いた。そのスモークの向こうからシルエットと化してしまったモリッシーの声が私を霧の世界へ連れ去ろうとしている。そして私もそれを望んでしまう。その高笑いと共に闇の中へわけ行ってしまいたい…
Sweet and Tender Hooligans の激しいギターがなり始めると会場がわあっ…という声で沸き立ち、観客の揺れがピークに達した。みんなモリッシーのフーリガンになっていた。私もぎゅうぎゅうの中フーリガン、フーリガン! と叫びながら踊っていた。モリッシーじゃないとこんなふうに私はならないよ!
最後に着ていたT.RexのTシャツを首元からビリビリと裂き体を拭ってから客席へ投げてモリッシーはステージから立ち去った。

モリッシーが去った後もその場を離れがたく、ステージの前にしばらく佇み、ドラムセットを撮るなどしていた。モリッシーが去ってしまったことが受け入れ難かった。
建物から出たところでツイッターのフォロワーさんたちとお会いし、場所を移動してファン談義に花を咲かせた。
みなさん物販から並んでかなりの時間立ってたはずなのにパワフルだった。私ももちろん、皆さんも50代60代という年齢で大なり小なり体の不調を抱えてる方も多いだろう。でもあの日は本当にモリッシーに会いたい一心で皆さん元気が出たんだと思う。私もだ。私は終わってから酷い風邪になってしまった。
私はふだん地方でひっそりとモリッシーを聴いているのでこんなに一度に大勢のモリッシーファンに会ったのは初めてだった。いろんな方がいたが共通して思ったのが「この人はきっと人の痛みがわかる方なんだろうな」ということだった。話しただけでなく、その時のしぐさやちょっとした振る舞いなどで、何となく感じることが多かった。モリッシーの歌には弱い人や傷ついた人が多く登場する。その苦しみや悲しみを彼は赤裸々に描き、訴える。その迫力のある声で切々と歌う。そんな彼の曲を長年聴いていると自然と人の痛みに敏感になるのではないだろうか。私も温かいひと時を過ごせてとても良い思い出になった。

翌日は昨日のコンサートの余韻を引きずったまま、東京をぶらぶらし、モリッシーがコンサート前日に行ったという新宿ディスクユニオンを何件か回った。ディスクユニオンは各ジャンルが雑居ビル数件に分かれたお店で、規模は小さくないのだが一つ一つの階は小さく、8畳くらいしかなかった。あの空間でモリッシーとあったら近すぎて嬉しすぎ、卒倒しそうだ。
旅は終わりを告げようとしていた。羽田に着き、モリッシーももう東京を後にしただろうか、と思って淋しさを感じていた。帰りの飛行機の中で、眼下に広がるキラキラした東京の夜景を眺めながら今回は演奏されなかった The More You Ignore Me, The Closer I Getを聴いていたら自然と涙が溢れてきた。I am now, a central part, of your mind landscape, Whether you care, or do not
ああモリッシー、この歌のとおりだ。あなたの勝ちだ。あなたは確かに私の心の真ん中にいる。そしてあなたはずっとここに居続けるだろう。

・・・・・・・・・・・
Setlist (2023年11月28日 東京 豊洲PIT)
1 We Hate It When Our Friends Become Successful
2 Suedehead
3 Alma Matter
4 Our Frank
5 Stop Me (The Smiths)
6 Sure Enough, The Telephone Rings
7 I Wish You Lonely
8 How Soon Is Now ? (The Smiths)
9 Girlfriend in a Coma (The Smiths)
10 Irish Blood, English Heart
11 Let Me Kiss You
12 Half Person (The Smiths)
13 Speedway
14 The Loop
15 Please Please Please Let Me Get What I Want (The Smiths)
16 Everyday Is Like Sunday
17 Jack The Ripper
18 Sweet and Tender Hooligan (The Smiths)



"Without Music the World Dies" Morrissey

2023-06-17 18:00:00 | 音楽
You don't need to lead a formatted life
型どおりの人生を送る必要はない

And you don't need to find
yet another wife
さらに他の妻を見つける必要はない

Head-trips may very well
spill your mind
気ままな連想は君の心から大いに溢れだすだろう

Oh, but without music the world dies
おお、しかし音楽なしでは世界は死んでしまう

Without music the world dies
音楽なしでは世界は死んでしまう

Without music the world dies
音楽なしでは世界は死んでしまう

Without music the whole world dies
音楽なしでは全世界は死んでしまう

You don't need to respect your government
政府をリスペクトする必要はない

They can't even govern themselves
彼らは彼ら自身を統治することさえできない

And you don't need swanky
first-cabin hide
洒落た一等席の獣皮は必要ない

Ah, but without music the world dies
ああ、だけど音楽なしでは世界は死んでしまう

Without music the world dies
音楽なしでは世界は死んでしまう

Without music the world dies
音楽なしでは世界は死んでしまう

Without music the whole world dies
音楽なしでは全世界は死んでしまう

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

"Without Music the World Dies" は2023年6月時点ではモリッシーの最新のアルバムで、その表題となった曲だ。
ただ残念なことにこのアルバム は今現在CDやレコード、更にストリーミング化されていない。モリッシーがコンサートで歌っている動画をYouTubeで聴けるだけだ(YouTubeに動画をアップしてくれるファンの方には感謝しかない)。
レコード会社との交渉が滞っているかららしい。前作のアルバム "Bonfire of Teenagers" も同じく未発表のままで私たちはCDもレコードも手に入れることが出来ない。
もちろんライナーノーツもない。この歌詞はウェブサイトで見つけたもので、YouTubeで聴きながら読み比べて歌詞がほぼ合ってると思われるので訳することにした。新しい曲でモリッシーが何を言わんとしているのか知りたい! というファン心理のすることである。

この2つのアルバムを早くモノとして手に入れたい。遠すぎるコンサート会場に行けないファンにとって、今の状況ではこの2つのアルバムは…残念ながら無きに等しい。早くレコードやCDが正規に販売されて自宅のプレイヤーで大きな音で聴きたい。Spotifyで好きな時に聴きたい。
だって"Without music the world dies" だから。
"Bonfire -" の権利を持ってる Capitol Records も何で出さないのか…どんな事情があるか知らないが…ファンはもちろん、早く世に出したいと一番思ってるのはモリッシーだろう。辛い。

毎朝毎晩、音楽を聴いている。モリッシー、スミスはもちろん、他、50年代から現在に至るまでのロックが多い。
毎日毎日、決まりきった生活の中で時間に追われ、忙しさに文字通り心を亡くしてしまいそうだ。そのために音楽にしがみついているのかもしれない。
音楽を聴いてると日常に埋もれてしまいそうな心に生命が吹き込まれ、感情が動き出す。
ギターに乗って流れ出す誰かの情熱、ドラムが叩き出す誰かの鼓動、血の通った人間の腹から喉から絞り出される歌声、言葉が、私を誘い、鼓舞し、慰め、どこか遠くへ連れ去っていく。

スミスから始まってモリッシーの歌は青年期の内向的な物語から、次第に社会や世界の問題を通して普遍的な人間の苦悩を生々しく描き、年々成長しているようだ。
その表現は年齢と共に進化している。
その幅広く、奥深い世界は聴く人の心を捉えて離さない。そんな歌詞を載せた彼の豊かな表現(声、パフォーマンス)は何度聴いても驚かされる。

バンドの演奏も聴きごたえがあり、歌詞に頓着する私もモリッシーの変幻自在な声と楽器の響きあう音、凝った構成の演奏にただ聴き惚れる事も多い。彼のステージは情熱的で、ユーモラスで、シリアスで、オペラのように華麗で、ロックらしいロックでもある。こんな多彩な作品を作るために日々バンドメンバーやプロデューサーと切磋琢磨しているんだろうなと思う。
そうして出来上がった一つ一つの曲がその時その時の私の心に寄り添い、突き刺さってくる。モリッシーの歌が傍らにいてくれると思えば、いずれ来る老いにさえ向き合う気持ちになれる。だからずっとモリッシーの歌を聴いていたい。
早くこの2つのアルバムを世に出してください。神様。

追記:モリッシーの公式サイトであるMorrissey Centralは6月8日、"Without Music The World Dies" との見出し(この文章のトップ画像)で、東京を含む東アジア周辺のツアーを企画していると告知した。日程はまだ公表されてないが、今年中にあるなら2016年の来日から7年ぶり。
本当に来てくれる? モリッシー、あなたの歌に飢えていた。まさしく音楽なしでは世界は滅びそうだった。その日を待ちきれない。


・敬愛する亡き母の幼少期の家を訪れた時のモリッシー。2023年5月12日。Morrissey Central より。



"Trouble Loves Me" Morrissey

2023-03-15 16:42:40 | 音楽
Trouble loves me
トラブルは私を愛する
trouble needs me
トラブルは私を必要としている
two things
more than you do
or would attempt to
あなたがする、しようとするよりも2つのこと
So, console me
そう、私をなぐさめて
otherwise, hold me
さもなくば抱きしめて
Just when it seems like
everything's evened out
and the balance
seems serene
ちょうど何もかも安定して憂いのない時に
Trouble loves me
トラブルは私を愛する
walks beside me
to chide me
私を叱るために横を歩く
not to guide me
案内するためじゃない
it's still much more
than you'll do
君がするよりさらに多く
So, console me
そう、なぐさめてよ
otherwise, hold me
さもなくば、抱きしめて
just when it seems like
everything's evened out
and the balance seems serene
ちょうど何もかも安定して憂いのない時に
See the fool I'll be
still running 'round
まだ走り回る馬鹿を見てよ
on the flesh rampage
still running 'round
肉弾戦の中 まだ奔走している

Ready with ready - wit
早く機転をきかせて
still running 'round
まだ奔走してる
on the flesh rampage
肉弾戦の中で
-at your age!
その年齢で!
go to Soho, oh
ソーホーへ行く、ああ
go to waste in
the wrong arms
間違った腕の中 無駄にするために
still running 'round
まだ奔走してる
Trouble loves me
トラブルは私を愛する
seeks and finds me
私を求めて見つける
to charlatanize me
私をペテンにかける
which is only
どちらかだけ
as it should be
あるべきように
Oh, please, fulfil※(原文ママ) me
ああ、どうか、満足させて
otherwise, kill me
さもなくば、殺してよ
show me a barrel※
樽を見せて
and watch me scrape it
それを擦るのを見てて
faced with the music
音楽に立ち向かったんだ
as always I'll face it
いつも現実に立ち向かうように
in the half-light
薄明かりの中で
so English … frowning
そう イギリス人…しかめっ面の
then at midnight I
深夜に私は
can't get you out of my head
君のことを頭から追い出せない
a disenchanted taste
幻滅の味
still running 'round
まだ走り回っている
a disenchanted taste
幻滅の味
still running 'round
まだ走り回っている

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
《注》
1997年リリースのアルバム "MALADJUSTED" のCD付属の歌詞カードを書き起こして訳した。
※「fulfil (原文ママ)」前後の文脈から「fulfill」だと思われる。
※「show me a barrel
and watch me scrape it
」は、
"scrape the barrel (意:残ったものをやむを得ず使う/残された最後の手段を用いる)" という慣用句の、元々の意味である「(食べ物などが入っている)樽の底を擦って残りを掻き集めるほど困り、追い詰められている」ことをそのまま表現していると思われる。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

いつも何かトラブルが降りかかってくると、必ず脳内で "Trouble Loves me ~" と流れる。そうするとクスッと笑えてしまい、少し冷静になれる。そんなお付き合いをしている曲。

日々、タスクと雑用に追われるように生活しているのに、そこに容赦なく現れるトラブル、イレギュラー。 それに足を取られながらも走り回らなきゃならない。 生きるために。
なんにもない中でも樽の底を擦ってでも生きなきゃいけない。 時々…すごく…疲れる。
なぐさめて貰いたいのに、間違った腕の中にいたりして。 そんな時、深夜の薄明かりの中で思い出す。 昔のこと、誰かの面影が頭から離れない。
肉弾戦で、なりふり構わず走り回っている馬鹿を見てよ。 トラブルなんて一緒に笑い飛ばしたいから。

この曲が収録されている"Maladjusted"がリリースされた頃、モリッシーは The Smiths の元ドラマー Mike Joyce と裁判で争っていた。 他の元スミスメンバーとも法廷で顔を付き合わせることになった。 そんなところでの再会はあまり楽しいものではないだろう。 疲れていたのか、出来上がったアルバムジャケット(下の画像参照)の自分の姿が本人には冴えなく見えたらしく、後に2009年に新装版を出してジャケットをサングラスをかけた写真に変えている(上記ヘッダー画像)。 そして裁判はモリッシーにとって残念な結果に終わった。

この裁判の他にも、あることないこと書き立てるマスコミやレコード会社との揉め事などモリッシーのトラブルは様々。私生活だって私たちと同じように何かしらあるだろう。でもそんなトラブルを詩に昇華するところはさすが。
トラブルを抱えながらも
"faced with the music
as always I'll face it"
音楽に立ち向かったんだ
いつも現実に立ち向かうように
…という音楽への真摯な姿勢もグッと胸にくる。

そしてそんな思いを詩に乗せてステージで思い切り歌えるのがなんとも羨ましい。 今年2023年のツアーでもこの歌を気持ちよさそうに歌ってたし。私もまた明日も職場や家で小さな声で口ずさむことだろう。 トラブルにあった時に歌える歌、なかなか無い。
Morrissey "Trouble Loves Me"
アルバム "MALADJUSTED"(1997年リリース) 収録曲。




I Am Not A Dog On A Chain

2023-01-15 11:33:27 | 音楽
I am not a dog on a chain
俺は鎖に繋がれた犬じゃない
I use my own brain
自分のアタマを使ってる
I can turn the conversation off
俺は会話を白けさせることが出来る
I'm too clever to be robbed
俺はしてやられるには賢すぎる
I am not a dog on a chain
俺は鎖に繋がれた犬じゃない
thanks all the same
ありがとう、どうでも良いんだ
all my patience and all of my time
俺の忍耐すべてと俺の時間すべて
are securely mine
しっかり自分のものだ
I hear the call, I hear a cry
呼び出しを聞く、要求を聞く、
I raise my voice, I have no choice
俺は声を上げる、俺は選べない
I raise my hand, I hammer twice
俺は手を挙げる、2倍こき下ろしてやる
there is no point in being nice
良くしようとしても無駄だ
I am not a dog on a chain
俺は鎖に繋がれた犬じゃない
I use my own brain
俺は自分の脳みそを使う
I do not read'news'papers
俺は新聞を読まない
they are trouble-makers
あれはトラブルメーカーだ
listen out for what you're not being told
言われてないことに聞き耳を立てろ
and gently shield the soul
魂を優しく守れ
in an easy and a careless way
簡単で 注意深いやり方で
they'll try to sculpture all your views
やつらはお前の見た目すべてを彫刻しようとするだろう
So open up your nervous mouth
そう、お前のナーバスな口を開けろ
confidence contes
streaming out
秘密の話は流れ出ている
volume, pitch and rising cries
ボリューム、ピッチそして叫び声が上がること
opening your blinkered eyes
偏狭な目を見開くこと
otherwise you'll never know
さもなければ決して知ることはないだろう
who you are or all that you could do
自分が何者なのか自分に何が出来るか
but that's if you want to
しかしもし望むとすれば
I am not a dog on a chain
俺は鎖に繋がれた犬じゃない
you've got to be insane
非常識でなければならない
one is company and two's a crowd
ひとつは会社に ふたつめはみんなに
you'll find as I have found
俺が見つけたようにお前も見つけるだろう
Maybe I'll be skinned alive
by Canada Goose
たぶん俺はカナダグース(服飾メーカー)に生きたまま皮を剥がれるだろう
because of my views
俺の見識のために
because of the truth
俺の真実のために
because of my fleece
俺のフリースのために
because of my niece
俺の姪のために
like drinking ink
インクを飲んだような
the words explode
言葉が炸裂する
fatter than fists
こぶしよりも太い
prouder than blow
打撃よりも誇らしげな
fatter than fists
こぶしよりも太い
prouder than blows
打撃よりも誇らしげな
the dead are dead
死者は死んでる
ice-cold and hard
氷のように冷たくて固い
to where they can't
be over-charged
過大に請求されないようにするために
they have no breath
やつらは息ができない
they have no eyes
やつらは目を持っていない
at least they won't
be dying twice
少なくともやつらは二度死にかけることはない

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

注) この歌詞はCDのライナーノーツを引用して書いたのだが、GoogleとSpotifyに載ってる歌詞ではところどころ違っていて、さらにCDで歌ってる歌詞と違っていたりするので非常に悩まされた。結局ライナーノーツのものをそのまま和訳した。


イントロからギターの軽い調子で始まるが、歌の内容は反骨精神溢れる曲だ。

私は仕事に行く前にこの曲を聴いている。この曲は私にとって自我を守る為に大切なものだから。
仕事をしていると、理不尽なことでも飲み込まなきゃいけなかったり、きつい言葉にも笑顔でスルーしなければならない時がある。
誰かが誰かに対して言葉の暴力をふるっていてもなすすべもなく、後で声をかけるくらいしか出来なかったり。

そんなことが続くと自分というものを見失いそうになる。今まで生きてきて築き上げてきた良心や良識、見解などに蓋をして働かないといけないのはすごく悔しい。自分が自分でない気がして。

今の職場の上司や仲間は割と付き合いやすいが、それでも何も無いわけじゃない。

そんな中でも自分のできる範囲で自分の魂や、良心や、見識を守って社会や周囲の人と付き合って行きたいと思う。
社会の理不尽さには私なりの拳を上げたい。面従腹背な精神でいたい。
そんな気持ちを後ろから支えてくれる歌。大切な歌だ。




All The Lazy Dykes

2022-05-26 17:00:00 | 音楽
All the lazy dykes (※1)
もの憂げなダイクスみんな
Cross-armed at the Palms (※2)
パームスで腕をからめている
then legs astride their bikes
バイクにまたがって
indigo burns on their arms (※3)
腕には藍色のやけど
One sweet day
- an emotional whirl
ある気持ちの良い一日─エモーショナルな眩暈
you will be good to yourself
あなたは自分自身に優しくなれるだろうし
and you'll come and join the girls
そこに来て彼女たちとつながれるだろう
All the lazy dykes
もの憂げなダイクスみんな
They pity how you live
彼らはあなたの生き方を憐れむ
"just somebody's wife"
「ただの誰かの妻」
you give, and you give and
あなたは与えて、そして与えて、そして
you give and you give …
あなたは与えてそして与えて…
One sweet day ― an emotional whirl
ある気持ち良い一日─エモーショナルな眩暈
you will be good to yourself
あなたは自分自身に優しくなれるだろう
And you'll come and join the girls
そしてあなたはやって来て その女の子たちと繋がるだろう

Touch me, squeeze me
私に触れて、きつく抱きしめて
hold me too tightly
私をしっかりと捕まえて とてもきつく
and when you look at me -
そしてその時私をしっかりと見て ─
you actually see me -
私を現に見て ─
and I've never felt so alive
私はこんなに生きてると感じたことはなかった
in the whole of my life
私の人生全ての中で
in the whole of my life
私の人生すべての中で
Free yourself
あなた自身を自由にして
be yourself
あなた自身になって
come to the Palms
パームスへ来て
and see yourself
そしてあなた自身を見て
and at last your life begins
そしてやっとあなたの人生が始まる
at last your life begins
やっとあなたの人生が始まる
at last your life begins
やっとあなたの人生が始まる



上の写真はYouTubeより抜粋 : Morrissey - 12All The Lazy Dykes (Meltdown3) /lapislazuli42
[You Are The Quarry Tour. 26 June 2004. Meltdown2004, Royal Festival Hall, London ]




上2枚の写真はウエストハリウッドの"The Palms bar"の かつての外観と店内(後述のWEHOvilleの記事より)


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〈注釈〉
※1 Dykes とはレズビアンを指す。中でも男性的なタイプの人々のことで、元々はヘテロセクシャルの人たちが蔑称として使いはじめたが、当事者たちが自称するようになった。しかし蔑称的ニュアンスは残っているので当事者以外からそう呼ばれるのはNGのよう。

※2 The Palms というのはなんだろうと思ったが
The Palms Bar というかつてウエストハリウッドにあった伝説的レズビアンバー(2013年閉店)のことのようだ。
初めは普通のバーだったが、そのうちに女性同士が出会いを求めて行く場所として知られるようになった。
まだごく若い頃のジョディ・フォスターが訪れ、未成年だからと追い返されたという伝説もある。
(以上は ウエストハリウッドの新聞 WEHOville の2013年の記事 "Palms Bar Set Closing Date; Lesbian 'Safe Haven' Remember Fondly" より抜粋・要約)
The Palms bar 閉店についてはL.A.timesにも"Historic lesbian bar The Palms set to close in West Hollywood"という記事もある。
※3 "Indigo burns on their arms"
のフレーズ。藍色のやけどって何だろうと思いますが英語圏の人々も過去のMorrissey soloで藍色のやけど? どういう意味? タトゥーは藍色じゃないよね? とか話題になっていたのでモリッシーしか分からないことかもしれない。
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"オールザレージィダーイクス─" という歌い始めから、彼女たちのもの憂げな眼差しを自分の上に感じる。
"ジャストサムバディズワイフ"
だれかに与えてばかりで自分の人生を生きているの? と問われている。
もちろん与えてばかりではない。受け取ったものもあるが、やはりかわりに諦めてしまった人生のチャンスという墓が、サムバディワイフの私の心の中にある。

彼女たちのもの憂げな視線が刺さる。
パームスに行ったら何かに気づけたかもしれない。見つけられたかもしれない。
自分自身になれたかもしれない。
パームスで彼女たちと出会い、語り合ってみたかった。


ウエストハリウッドにあったThe Palms barには ジム・モリソンやジャニス・ジョプリンなど有名人も多数訪れていたらしい。破天荒な彼らが行くくらいだから自由な雰囲気のバーだったのだろうか。未成年で追い返されたジョディ・フォスターも大人になってから行ったのかしら。などと、賑わっていた頃のパームスのことを想像している。

Begins
At last your life
Begins

後ろ髪引かれるようなモリッシーの声。
ビィギン、アッラストユゥアーラァイフ、
ビギン…
"begins" という言葉がいつまでも耳に残る曲である。

☆All The Lazy Dykes : Morrissey アルバム "You Are The Quarry"(2004年リリース)収録曲