『シュステル枢機卿 - 模範的な司牧者』カスティリオニ神父・デルコル神父共著
◆16、純金のカリス
大司教館を訪れるのは、聖職者だけではありません。いろんな人々がやって来ました。ある日、大司教館の芸術委員として選ばれたひとりの宝石商人が、お供をつれてやって来ました。「大司教さま、感謝のしるしとして、貧しい教会のために、銀のカリス(ミサ用のさかづき)を三つ持ってまいりましたが、受けとってくださいますか」
宝石商人は、大司教さまの喜びを考え、胸をときめかしながら、カリスの包みをといて、箱からとり出し、テーブルの上に並べました。午後の陽ざしが窓からしのび撃んで、カリスをキラキラと輝かせます。かれは、もう得意の絶頂でした。お供のものも、じっと見ています。
「あの……すみませんが、たりません」とカルディナルはいいました。
まったく予想していなかった言葉でした。
「大司教さま、どうぞご遠慮なくおっしゃってくださいませ、いくらでもさし上げますから」と宝石商人。
「いいえ、そうではありません。純金のカリスが一つほしいのです」
この方の望みなら、何を惜みましょう。「承知しました。すぐ持って来ます」とかれは一つ返事です。
シュステル大司教はほほえんで、いいました、
「いやいや、誤解しないでください。わたしが欲しいのは、あなたの心ですよ。これこそ、わたしの一番望む純金のカリスです」
宝石商人は、もう感激のあまりに涙をおさえることができません。かれは、この上もないよろこびにみたされたのでした。
◆16、純金のカリス
大司教館を訪れるのは、聖職者だけではありません。いろんな人々がやって来ました。ある日、大司教館の芸術委員として選ばれたひとりの宝石商人が、お供をつれてやって来ました。「大司教さま、感謝のしるしとして、貧しい教会のために、銀のカリス(ミサ用のさかづき)を三つ持ってまいりましたが、受けとってくださいますか」
宝石商人は、大司教さまの喜びを考え、胸をときめかしながら、カリスの包みをといて、箱からとり出し、テーブルの上に並べました。午後の陽ざしが窓からしのび撃んで、カリスをキラキラと輝かせます。かれは、もう得意の絶頂でした。お供のものも、じっと見ています。
「あの……すみませんが、たりません」とカルディナルはいいました。
まったく予想していなかった言葉でした。
「大司教さま、どうぞご遠慮なくおっしゃってくださいませ、いくらでもさし上げますから」と宝石商人。
「いいえ、そうではありません。純金のカリスが一つほしいのです」
この方の望みなら、何を惜みましょう。「承知しました。すぐ持って来ます」とかれは一つ返事です。
シュステル大司教はほほえんで、いいました、
「いやいや、誤解しないでください。わたしが欲しいのは、あなたの心ですよ。これこそ、わたしの一番望む純金のカリスです」
宝石商人は、もう感激のあまりに涙をおさえることができません。かれは、この上もないよろこびにみたされたのでした。