『聖なる医者 聖リカルド・パンプーリ』企画:デルコル神父、文:江藤きみえ、11
◆、モリモンド村のお医者さん(2)
医者だったら、主任司祭、薬剤師、警察署長のような威厳を示すこともできたのに、そんな態度は少しもなく、服装もいたって質素でした。
姉のシスター・ロンジーナは、病人に対するかれの愛にみちた次のエピソードを伝えています。ある朝ひとりのおばあさんがやってきて、一つの包みを医者にうやうやしくさしあげましたが、それは、開いてみるとなんと二つのキャベツだったのです。でも、これは、おばあさんの全財産だったのでした。おばあさんは、どうしても受け取って下さいと願って聞きません。なぜなら、それはおばあさんの切なる感謝のしるしだったからです。どんなに深い感謝をしていたことでしょう。それもそのはず、おばあさんは頭におできが出来、苦しんでいましたから、パンプーリ先生は薬をもってきて家族に頭を洗ってあげるように命じたのでした。でも間もなく家族のだれも、それをしてやっていないことに気付きました。こんな冷淡な家族を知ると、先生はそれから毎日おばあさんを訪れて自分の手で完全になおるまで治療してあげたのです。おばあさんは涙ぐましいほどの感謝を、どうして示そうかと考えたすえ、自分のものとしてはこれしかない二つのキャベツを、どうしても受け取ってほしいとしきりにたのんだのでした。
家のきりもりをしていた姉のリタさんは、パンプーリのために食事の準備をしてあげていましたが、決して食べ物について不満をもらしたことはありませんでした。どんなものでも喜んで、美味しそうに食べるのでした。
もちろん、姉のリタさんは、パンプーリひとりの食卓を準備していたのですが、家に帰ったかれは、ひとりか、ときには数人のこじきをつれてくることがあり、自分といっしょに食卓に坐わらせ、自分の食べ物をかれらに分けてやったのです。
年中の主な祝日ともなると、十二人もの客を家に招くのでした。招く人は、村のいちばん貧しい人たちの中から選びました。自ら給仕をし、みんなが十分に食べないうちは、自分は坐わらないで、給仕を続けました。
かれは、医者になる前、トルリーノ村の親戚の家に住んでいて、大学生の時もたびたびそこに帰っていましたが、医者になると定期的にそこへ帰って、叔父に穀物や果物、ぶどう酒と、にわとりなどを恵んでくれるように願っていました。叔父の妻は、喜んで何でも豊富に与えるように夫にすすめました。「パンプーリ先生、どうせこれはみんな貧しい人の手に渡るのでしょう」といってほほえみ、食物以外にも毛布や服、下着、靴までも、みんな貧しい人に分け与えていました。
しかし家事を受けもっているリタさんは、「あまり嬉しくありません」と親戚の人にこぼしていました、「こんな調子じゃ、もうやっていけないわ、だって弟は何でも人にやってしまうんですもの」と。でも弟のパンプーリはほほえみながら、答えていうのでした、「わたしは、困っている人にはいやだなんていえないよ」と。だからもう姉は、それ以上文句はいえなかったのです。
◆、モリモンド村のお医者さん(2)
医者だったら、主任司祭、薬剤師、警察署長のような威厳を示すこともできたのに、そんな態度は少しもなく、服装もいたって質素でした。
姉のシスター・ロンジーナは、病人に対するかれの愛にみちた次のエピソードを伝えています。ある朝ひとりのおばあさんがやってきて、一つの包みを医者にうやうやしくさしあげましたが、それは、開いてみるとなんと二つのキャベツだったのです。でも、これは、おばあさんの全財産だったのでした。おばあさんは、どうしても受け取って下さいと願って聞きません。なぜなら、それはおばあさんの切なる感謝のしるしだったからです。どんなに深い感謝をしていたことでしょう。それもそのはず、おばあさんは頭におできが出来、苦しんでいましたから、パンプーリ先生は薬をもってきて家族に頭を洗ってあげるように命じたのでした。でも間もなく家族のだれも、それをしてやっていないことに気付きました。こんな冷淡な家族を知ると、先生はそれから毎日おばあさんを訪れて自分の手で完全になおるまで治療してあげたのです。おばあさんは涙ぐましいほどの感謝を、どうして示そうかと考えたすえ、自分のものとしてはこれしかない二つのキャベツを、どうしても受け取ってほしいとしきりにたのんだのでした。
家のきりもりをしていた姉のリタさんは、パンプーリのために食事の準備をしてあげていましたが、決して食べ物について不満をもらしたことはありませんでした。どんなものでも喜んで、美味しそうに食べるのでした。
もちろん、姉のリタさんは、パンプーリひとりの食卓を準備していたのですが、家に帰ったかれは、ひとりか、ときには数人のこじきをつれてくることがあり、自分といっしょに食卓に坐わらせ、自分の食べ物をかれらに分けてやったのです。
年中の主な祝日ともなると、十二人もの客を家に招くのでした。招く人は、村のいちばん貧しい人たちの中から選びました。自ら給仕をし、みんなが十分に食べないうちは、自分は坐わらないで、給仕を続けました。
かれは、医者になる前、トルリーノ村の親戚の家に住んでいて、大学生の時もたびたびそこに帰っていましたが、医者になると定期的にそこへ帰って、叔父に穀物や果物、ぶどう酒と、にわとりなどを恵んでくれるように願っていました。叔父の妻は、喜んで何でも豊富に与えるように夫にすすめました。「パンプーリ先生、どうせこれはみんな貧しい人の手に渡るのでしょう」といってほほえみ、食物以外にも毛布や服、下着、靴までも、みんな貧しい人に分け与えていました。
しかし家事を受けもっているリタさんは、「あまり嬉しくありません」と親戚の人にこぼしていました、「こんな調子じゃ、もうやっていけないわ、だって弟は何でも人にやってしまうんですもの」と。でも弟のパンプーリはほほえみながら、答えていうのでした、「わたしは、困っている人にはいやだなんていえないよ」と。だからもう姉は、それ以上文句はいえなかったのです。