「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.246 ★ 監督が中国に移住して撮影した「劇場版 再会長江」 息をのむ映像の美しさ

2024年04月08日 | 日記

AERA dot. (延江浩:TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家)

2024年4月7日

 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽や映画、演劇とともに社会を語る連載「RADIO PAPA」。今回は映画「劇場版 再会長江」について。

4月12日(金)全国順次公開 ©2024『劇場版 再会長江』/ワノユメ

*  *  *
 アジア最大の大河長江沿いに中国大陸を東から西へ6300キロ。「劇場版 再会長江」は上海、南京、武漢、重慶、雲南、チベット高原まで源流の最初の一滴を求めて旅をする。

 源流に近づくにつれ、映像のめくるめく美しさに息をのんだ。雲南省瀘沽(ろこ)湖(こ)は鏡のような湖面。標高2800メートルで空と近い。そこにたった一艘の手漕ぎ舟が浮かんでいる。見下ろしているはずなのに澄んだ青色が天地を逆転させ、悠々と空を飛ぶ舟を見上げる錯覚に陥った。そこは少数民族モソ人の暮らす「女の国」。母系社会で家庭でも職場でも女性が決定権を持つ。彼女たちの微笑みと母なる大地がシンクロし、観る者の心を豊かに包み込む。

 さらに西にはシャングリラ。小説『失われた地平線』に出てくる理想郷として知っていたが、住む人々を見るのは初めてだった。80円で羊と一緒に写真を撮らせる少女がかつていた。1組か2組の客を10時間かけてじっと待っていた。それが今は大きなホテルの経営者に。床暖房を備え、両親と祖母を養っている。少女だったツームーが旅人に抱きつく。「懐かしい!」。涙もろさは変わらない。

4月12日(金)全国順次公開 ©2024『劇場版 再会長江』/ワノユメ

旅人こそ、この映画を監督した竹内亮。彼はNHKの番組でツームーを上海に連れ出した。100階建ての高層ビルに地下鉄。初めて外の世界に目を向けた彼女は故郷に戻るなり手紙を竹内に送った。「民宿を開き、10年後にあなたに再会したい」。彼女は夢を実現させていた。

 沢木耕太郎永遠の青春小説『深夜特急』の愛読者だった竹内は番組のオンエア後、もっと中国を知りたいと南京に移住して「長江沿いの民」になり、再び撮影に臨む。

4月12日(金)全国順次公開 ©2024『劇場版 再会長江』/ワノユメ

「あれから日本でも中国人が身近になりました。職場でも、学校でもコンビニでも。でも彼らがどういうバックグラウンドを持っているのか多くの人が知らない。いつの間にか隣にいる中国の人を傷つけていることもある。中国=強権国家とか、空気が汚いとかのイメージもある。でも全ては人と人との出会いから始まるんじゃないか。そう思うんです。このドキュメンタリーで中国の『日常』を知ってもらいたかった」

 源流の一滴を求めての旅は再会の旅でもあった。懐かしさとハプニング。いつの間にかそこが中国だという概念さえ忘れ、人としての源流、温かく、豊かで奥深い触れ合いの日々に身も心もゆだねる自分がいた。

 竹内は冒頭の瀘沽湖での撮影秘話を教えてくれた。「2021年から22年のコロナ禍で観光客もゼロだった。でっかい湖にたった一艘の舟。そんなカットはもう撮れません」

4月12日(金)全国順次公開 ©2024『劇場版 再会長江』/ワノユメ

「劇場版 再会長江」は日本に引き続き、中国本土1万1千館でも配給される。

(文・延江 浩)

AERAオンライン限定記事

延江 延江浩(のぶえ・ひろし)

1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

*左横の「ブックマーク」から他のブログへ移動


最新の画像もっと見る

コメントを投稿