JBpress (譚 璐美:作家)
2024年2月16日
(Dilok Klaisataporn/Shutterstock.com)
要注意、かつて使用していた自治体の「ドメイン」がオークションサイトを通じて流出、悪用されているケースも
時事ドットコム(2024年2月8日付)によると、カナダのトロント大学の研究機関「シチズンラボ」は7日、日本を含む約30カ国で地元メディアを装った中国の偽情報サイトがあり、中国を称賛する情報や米国を非難するフェイクニュースを発信しているとする報告書を公表した。
運営する中国企業は「偽サイトを次々と立ち上げる会社」?
同報告書は40ページに及び、欧州、アジア、中南米など世界中のニュースサイトを精査した結果、少なくとも123の中国の偽情報サイトを特定した。偽情報サイトは現地メディアを装い、それぞれの国の地元メディアの記事やニュースリリースなどを無断転載するほか、中国の国営メディアが配布した宣伝用資料などを紛れ込ませている。また、これら偽情報の発信元が、中国・深圳市に籍を置くPR会社「ハイマイ」であることも突き止めた。
「シチズンラボ」によれば、偽情報サイトが最初に開設されたのは2020年春。日本などをターゲットに9つの偽サイトが確認され、【fujiyama-times.com】もそのひとつ。次いで韓国、ヨーロッパ、中南米へと拡大した。
(Aeypix/Shutterstock.com)
偽情報サイトの国別内訳は、韓国(17)、日本(15)、ロシア(15)、イギリス(11)、フランス(10)、ブラジル(7)、トルコ(6)、イタリア(6)、スペイン(5)、メキシコ(3)、ルーマニア、ポーランド、オランダ、ドイツ、アルゼンチンに各(2)、その他、アメリカ、スウェーデン、ポルトガル、ノルウェー、ルクセンブルグ、アイルランド、フィンランド、エクアドル、デンマーク、チェコ、コロンビア、チリ、スイス、ベルギー、オーストリアに各(1)となっている。
韓国の「中央日報」(2月9日付)によれば、2023年11月に韓国の情報機関である国家情報院もハイマイを「偽サイトを次々と立ち上げる会社」だと指摘。
ハイマイが運営する韓国の偽メディアは18(23年11月現在)あり、その名称やドメインが実際に存在する地域メディアとよく似たものを使用して、韓国デジタルニュース協会の会員企業であるかのように装い、出所不明の親中・反米ニュースを広め、韓国メディアの記事を無断転載していたと発表した。
福井、福岡、銀座、日光、明治村…
「シチズンラボ」の報告書には、具体的なドメイン名が公表されている。日本のメディアを装う15の偽情報サイトとは、次のものである。
【dy-press.com】【fujiyama-times.com】【fukuitoday.com】【fukuoka-ken.com】【ginzadaily.com】【hokkaidotr.com】【kanagawa-ken.com】【meiji-mura.com】【nihondaily.com】【nikkonews.com】【saitama-ken.com】【sendaishimbun.com】【tokushima-ken.com】【tokyobuilder.com】【yamatocore.com】
一見して日本を想起させる「フジヤマ」、「銀座」、「東京」、「大和」などの他、「福井デイリー」、「福岡県」、「北海道」、「神奈川県」、「明治村」、「日本デイリー」、「日光ニュース」、「埼玉県」、「仙台新聞」、「徳島県」など、地方自治体や公共団体と誤解しそうなドメインが並んでいる。
流出する自治体が使っていたドメイン
なぜ、地方自治体や公共団体に似せたドメインが多いのか。
ひとつには、使用済みのドメインが情報資産としての価値を持ち、広く売買されるドメインマーケットが過熱しているためである。
通常、ドメインは失効後、オークションに出品することができ、第三者が落札できる仕組みになっている。とりわけ大企業や金融機関、地方自治体のドメインなど、公共性の高いものは信用力が大きく、失効後も検索エンジンに評価情報が残ることで、アクセス数が期待されるために、オークションでの販売価格が高騰する。価格は安いものでは数百円から数千円、数万円程度だが、天井知らずで、世界で最も高いものでは40億円以上で取引された例もある。
そのため悪用されるリスクが高まる。購入した悪意の第三者が、ドメインを利用して本来のサイトと酷似したデザインのサイトを作成し、個人情報や金融情報を取得するフィッシングのほか、別のサイトにリダイレクトして利用者を誘導するよう操作する危険性もある。
責任あるドメインオークションでは、悪用が発覚した場合、紛争解決のための法的手続を取ったり、被害を最小限に抑える対策を講じているが、予防措置は整備されておらず、デジタル時代の急激な変化に追いついていないのが現状だ。
2月13日、島根県で新たに3つのドメインが流出したことが判明した(NHK報道)。島根県が2023年10月まで、全国植樹祭の告知などに使っていた3つのドメインが失効後、オークションで売買され、第三者の手に渡っていたことが分かったのだ。
3つのドメインは、「島根県新型コロナ対策認証店認証制度」、「スモウルビー・プログラミング甲子園開催事業」、「しまねものづくり人材育成支援Navi」で、これらのサイトにアクセスすると、県とは無関係のサイトが表示されるという。島根県は悪用されることが懸念されるとして、注意喚起を呼びかけている。
この3つのドメインが政治的に悪用されているかどうかは不明だが、冒頭にあげた「シチズンラボ」の報告書では、「デジタル分野での影響力拡大で、中国政府が民間企業を利用する傾向があることが裏付けられた」と指摘していることから、今後ますます警戒が必要になってくるだろう。
「親中的情報が〈偽情報〉というのは偏見だ」
中国の偽情報サイトは今のところ目立った存在ではない。しかし日本語など、現地の言語で発信されていることから、利用者が不用意に拡散する可能性があり、知らず知らずのうちに中国流の価値観に洗脳されてしまう危険性もある。
時事通信によれば、在米中国大使館の報道官はロイター通信に対し、「親中的な情報は『偽情報』、反中的な情報を『真実』と主張するのは偏見の最たるものだ」とコメントしたという。
確かに、親中情報がすべて偽物とは限らない。だが、最大の問題点は、他国の現地メディアの信用力を隠れ蓑にして、秘かに中国の公式見解を紛れ込ませようとする、姑息な手段を使っていることである。
ひょっとして、中国は「オオカミ少年」だと自覚していて、たまに本当のことを言っても信用されないので、他国の信用力を頼っているのだろうか。
譚 璐美 (たん・ろみ)
東京生まれ、慶應義塾大学卒業。現在はアメリカ在住。元慶應義塾大学訪問教授。著書に『ザッツ・ア・グッド・クエッション! 日米中、笑う経済最前線』(日本経済新聞社)、『帝都東京を中国革命で歩く』(白水社)、『革命いまだ成らず―日中百年の群像』、『戦争前夜 魯迅、蒋介石の愛した日本』(ともに新潮社)、『中国共産党を作った13人』、『中国「国恥地図」の謎を解く』 (ともに新潮新書)など多数。
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