Mi Aire

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誘惑のスペイン・3~「白い村の誘惑」

2007-02-06 00:26:48 | 誘惑のスペイン(EMPRE掲載分)
スペインには、とりわけ山間部にはたくさんの小さな村が点在する。
カタルーニャ地方の珠玉のロマネスクの村や、内陸のカスティージャ地方の中世で時間が止まってしまったかのような村、北部の緑あふれる地域にある茶色い壁の落ち着いた色彩の村など、スペインにはいろいろな表情の村があるが、日本人がまずスペインらしいイメージとしてもっているのはアンダルシア地方の白い村だろう。
白い村・・・それは山の斜面などに、白い壁と茶色のスペイン瓦の家々が貼りつくように隙間もなく軒をつらねている集落。壁が白いのは刺すような太陽光を反射させるために石灰を塗るからで、夏の暑さが厳しい南スペインの家の特徴なのだ。

アンダルシア地方には本当にたくさんの白い村がある。ローカルなバスにのれば路線ごとに白い村めぐりができるほどだ。私が訪ねたことがあるのは、その中でも本当にわずかな村にすぎない。ミハスやフリヒリアナなどのように日本人や欧米人に人気のツアー客が立ち寄るような有名な村から、名も知られていない秘境のような小さな村まで大きさも様子も人口も歴史も様々。それでも九十九折の道を走る先に忽然と現れる白い村のドラマチックな景観には初めての人なら必ず息をのんで目を見張ることだろう。以前は本当に訪れる人も少なかったようだけれど、最近はその景色の美しさから人気がでて、ツアー旅行者も立ち寄るようになったカサーレスなどは、山のてっぺんにある教会を中心としてフラメンコ衣装のスカートの裾を広げたような佇まいの白い家々が本当に印象的だ。

けれども白い村の本当の魅力は、たくさんの人たちが訪れる村よりはむしろ、余り人に知られていない小さな村にある。迷路のように入り組んだ石畳の小道。両側の壁はすべて真っ白に塗られている。意匠をこらした鉄の窓枠や、窓に飾られたゼラニウムの花の鉢や、古い石造りの水飲み場。家々の木の扉は閉ざされていることもあれば、開いて中がみえることもあり、その奥には涼しげなパティオがあったりして楽しい。村の中心は広場になっていて、村役場とか教会が立っていたりする。雨が少なく晴天の多いアンダルシアならではの抜けるような青い空に白壁が映える。陽炎がたつような夏の日差しの中で白壁は目が眩むようにまぶしくて目を細める中、猫も犬もゆったりと日陰で昼寝したりしている。ここで流れている時間は、あくせくした都会とはまったく別の時間なのだ。

私が訪ねたことのある白い村の中で印象に残るのは、マラガ東部山側のアシャルキア地方のコマレスとセビージャ北西部のシエラノルテ地方のグァダルカナルだ。ともにアラビア語起源の名を持ち、九十九折の道の奥深くアンダルシアの山々に抱かれた小さな白い村だ。アシャルキア地方の中でもこの辺りは、干しブドウとマラガ特産の甘い赤ワインの産地。
シエラノルテ地方はオリーブの森に覆われ、その実やオイルの産地となっている。
コマレスには村はずれに一段と高いミラドール(展望台)があって、ここからの眺めが素晴らしい。近隣の村も視界にのぞめ、晴れた日には遠く地中海をみることができるそうだ。白い家と茶色い屋根。全体的な統一感が周囲の緑と調和して美しい、心に残る光景だ。
グァダルカナルには友人がいるので古い家をそのまま使ったフォンダ(宿泊のみのホテル)に一晩泊まったことがある。街灯などはほとんどないから、夜の帳が下りると月明かりのもとで、ひんやりとしたほのかな光に白い家々の壁がうかびあがって幻想的な雰囲気が漂う。しんと静まり返る村は、晴れた夜には満天の星に抱かれて眠りにつくのだろう。

まだ見ぬ未知の白い村を訪ね、その小道を歩く楽しさをまた味わいたい。白い村の魅力はその景観にとどまらず、そこを流れる時間のゆったりとした豊かさの中にあるのだ。




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