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誘惑のスペイン・5~「パティオの誘惑」

2007-02-12 01:00:04 | 誘惑のスペイン(EMPRE掲載分)
パティオとは中庭のこと。閉ざされた扉の奥に隠された、光降り注ぐ楽園のような秘密の空間。普通の庭とちがって四方を壁で囲まれているので、人々のプライバシーは守られ、安心して思い思いにくつろぐことができる素敵な空間だ。

日本にも古くから庭園ではない、光庭や坪庭といった発想があった。建物の中にあって、それはさながら砂漠の中のオアシスのように、目を休ませ、心を和ませてくれる安らぎの空間。最近はそれが見直されて家の中に取り入れる人も多いと聞く。しかし、スペインのパティオは、日本のそれとはちがったバラエティ豊かな使い方や目的がある。民家の内部にある小さな庭や、回廊で囲まれた大きなもの、洗濯物を干すだけの実用的なもの、子供もの遊び場や、何軒かの家族で共有しているものなど、その表情は様々。

もともとパティオはアラブ人がスペインに伝えたもの。そのためにアラブの文化の影響が最も色濃く残されたアンダルシア地方のパティオは彩り豊かだ。
大聖堂や美術館の中など、誰でも入れるパティオもたくさんあるけれど、民家のパティオも魅力的。普通それらは行きずりの旅人には見ることはできない。でも外の扉が開いているときには、家の中にある鉄でできた様々な模様の素敵な飾り扉越しに、明るくひらけた個性的なパティオをのぞくことができて楽しい。
コルドバの有名な「花の小道」の奥にあり絵葉書にもなっているパティオでは壁中に植木鉢が飾られ、色とりどりのゼラニウムなどの花がおおらかに咲き乱れている。
ここでは毎年5月にパティオ祭りが催されるそうだ。その中のパティオ・コンクールでは、自薦でエントリーしたそれぞれ自慢のパティオを、審査員や一般の人たちが見学してまわって賞を決める。いろいろな部門があるので、1位になるのはひとつのパティオではない。このコンクールで1位に輝くパティオの持ち主のひとりになるということは大変名誉なことらしい。いつかこのコンクールを見にコルドバを訪れてみたいと思う。



以前にアンダルシアの海辺の街・マラガの語学学校にほんの少しの間通ったことがある。
この学校の校舎は民家を改装したもので、建物の真ん中には光あふれる魅惑的なパティオがあった。白い大理石の柱と床の回廊に囲まれ、たくさんの花の鉢やベンチ、水盤があり、回廊の腰壁にはひんやりとしたアスレホ(絵タイル)が貼られている。滅多に雨は降らないから、私のクラスの会話の授業はいつもここのパティオ。教室に座っているよりも開放的で、みんなの会話もはずんだものだ。学校のフィエスタの時には、ここでサングリアを飲みながら仲間と語り合ったり踊ったり・・・。休憩時間にも待ち合わせにもこのパティオは欠かせない大事な空間だった。

地上の楽園といわれるグラナダのアランブラ宮殿も内部にパティオを幾つも隠している。
アラブの最後の王様の砦だったこの宮殿は、そのパティオの原点ともいえる魅力を余す所なく見せてくれる。気の遠くなるような手作業で貼られた美しい幾何学模様のアスレホや大理石の柱に囲まれていたり、12頭の獅子に支えられた水盤(これは時計だとか)が置かれていたり。至る所にある小さな噴水や水盤から心地よい水の音が聴こえてくるのも愉しくて心地よい。乾燥した土地の人々の憧れがたくさんつまった空間で私たちは悠久の人々の夢を垣間見る。それは民家のパティオとはまたちがった贅沢な体験だ。

パティオは閉ざされた内なる空間でありながら、天に向かってひらかれた無限の宇宙を感じさせてくれる特別な空間。
そんなパティオのある家に住んでみたい!というのが私の密かな夢なのだ。



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