誘惑のスペイン・11～「スペインのクリスマス」

クリスマスといえばサンタ・クロース。
スペインではパパ・ノエルと呼ばれているそうだ。
真っ赤な服に真っ赤な帽子、白い髭にはちきれそうなおなか。トナカイの引くソリに乗って大空を駆けて子ども達に贈り物を持ってくる。少なくとも私たち日本人にはそんなイメージが定着している。（この赤い衣装というのは、本当は、とある米国企業が作成したイメージが世界に広がったとのこと。）

けれどもスペインではプレゼントを持ってくるのはこのパパ・ノエルではない。
幼子イエスが生まれた時、ベレン（ベツレヘム）の空に輝いた星でその誕生を知り、はるか砂漠の向こうから「東方の三賢人（Reyes Magos）」と呼ばれる3人の王様（レイジェス）が幼子イエスのために贈り物をもってくる。
パパ・ノエルは24日の夜から25日の明け方にかけて活躍するが、レイジェス・マーゴスは、25日にベレンの星を見つけてから出発するので、贈り物を持ってくるのは明けて1月6日ということになる。子ども達は、靴下を吊すのではなく靴を磨き、窓の下やベランダなどにラクダの餌や水と一緒に靴を並べる。
レイジェスたちはラクダに乗って砂漠を越えてはるばるとやってくるからだ。
朝になると良い子の靴の側には贈り物が置かれ、悪い子には靴に木炭が入っているという。
（今は炭に似せたチョコレートも売られているとか…。）
子ども達はクリスマスの前になると、レイジェスに手紙を書き、贈り物のリクエストをするのだそうだ。

国営放送のニュースでも、子ども達のために「レイジェスは今どのへんを通過しているか」だの「レイジェスがどこの街に着いた」だのという情報をまことしやかにアナウンサーが読み上げる。
そしてレイジェスは本当に街にやって来て目抜き通りをパレードして子ども達にキャンディなどを配るのだ。
3人の名前は年長で白髪のメルチョール（ヨーロッパ人）、金髪のガスパール（アジア人）、黒髪に黒い肌のバルタサール（アフリカ人）。彼らは世界中の民族を表しているのだとか。子ども達にはそれぞれごひいきの王様がいるらしい。レイジェスは大きな都市だけでなく、小さな村にもちゃんと来てくれる。（…と小さな村に住んでいた友人が教えてくれた。）

クリスマスに欠かせないベレン人形を飾るのもスペインの風習。
大きさも様々だが馬小屋に幼子イエスと母マリア、父ヨセフ、そして東方の三賢人にロバが基本のセット。イエスの誕生シーンを再現したお人形だ。
12月半ばくらいから三賢人がベツレヘムに到着する1月6日まで飾られる。
12月になると街にはクリスマスの物を売る市が立ち、このベレン人形も売られるのだそうだ。

24日は家族が集まり、手料理で家庭のクリスマスを過ごす。七面鳥や鯛の料理が食卓に並び、アーモンドペーストで作られるトゥロンというお菓子が欠かせないとのこと。
28日はエイプリルフールのようにウソをついても良い日だとか。この日のニュースには要注意だ。
そして31日大晦日には恋人同士や友達同士、華やかな年越しとなり、新年を迎える鐘を聴きながら、12粒の葡萄を食べる。このドセ・ウバス（12粒の葡萄）がうまく食べられれば、良い新年を迎えることが出来るのだ。そしてカバ（シャンパン）の栓を勢いよく飛ばして新年を祝う。マドリードではプエルタ・デル・ソル広場に集まった人たちは新年を迎える瞬間、誰にでもベシート（頬をつけるスペイン式ご挨拶）をしてよいそうだ。

1月6日は主顕節のお祝いで、ついに3人の王様が到着。「ロスコン・デ・レイジェス」と呼ばれる丸い形をしたケーキを食べる。この時、ケーキの中から人形や豆など、あらかじめ忍び込ませた目印が出てきた人は、その日一日王様になることが出来るのだそうだ。

スペイン語でクリスマスを「ナビダー（Navidad）」という。
実は私はまだ、スペインでナビダーを体験したことがないので、ここに書いてあることはすべて「ｓａｂｅｒ＝知識」なのだ。いつか機会があったら、ぜひともスペインのナビダーを「ｃｏｎｏｃｅｒ＝体験としての知識」にしてみたいと思う。