Mi Aire

創作・詩・旅行記・エッセイの書棚

誘惑のスペイン・7~「セラミカの誘惑・Ⅰ ~スペインの陶器」

2007-02-25 00:46:44 | 誘惑のスペイン(EMPRE掲載分)
セラミカとは陶器やタイルなど、焼き物の総称である。スペインはまた、このセラミカには長い歴史がある。
土着の文化と、古くからこのイベリア半島に押し寄せては引いていった波のようなアラブの文化が影響しあって、独自の焼き物をこの大地にもたらしたのだ。焼き物に限らず、こうしてイベリア半島で出会った二つの文化がひとつになって昇華した陶器はイスパノ・モレスクと呼ばれている。

マドリードにある、国立考古学博物館。ここに「アランブラの翼壺」という大きなハロン(Jarron=水差し型の壺)がある。この大きな壺には美しいイスパノ・モレスクの植物や幾何学紋様が描かれ、両肩から口の付近にかけて大きな耳のような翼がついている。ひんやりとした博物館の展示室の中で、ひっそりとガラスケースに守られながら静かに息づいている見事な壺と出会ったとき、感動で心が震えた。何のために翼が生えているのだろうか。グラナダのアランブラ宮殿でこの壺の写真を見たときから、いつか実物を見たいと思っていたのだ。大きな壺からは、そこに秘められた長い歴史とアラブからきた人たちのロマンが感じられる。

スペインならたいていどこの街に行っても、お土産物屋の店先には陶器の小物や皿が並んでいる。
大らかな手書きの線が曲がっているのもご愛敬。手作り感がぬくもりを感じさせてくれる。
陶器の色遣いや絵のパターンには、それぞれの土地の独特の特徴がある。たとえばグラナダ焼きは一目で分かる緑と青の2色。グラナダを意味するザクロの模様が描かれている物が多い。トレドやタラベラなど、中央部・カスティージャの辺りの陶器はこの2色に黄色が入って、愛らしい動物や鳥の絵の物が多い。
東に飛んで、これもまた陶器の街であるバレンシア近郊のマニセスの辺りには古くからの技法・ラスター彩を用いた陶器がある。ラスター彩は金属のはいった釉薬で絵付けをし、焼き上げて水洗いすると美しい光沢のある金色(銅に近いかも)の模様が浮かび上がる手法。これはイスパノ・モレスクの典型的な技法のひとつで、アラブの文化がここでも時をこえて息づいている。これ以外にもまだまだその地方独特の様々な陶器があり、そのヴァリエーションは彩り豊かなのだ。

以前トレドに行ったときに、陶器を売る土産物屋の店先をひやかしていると、奥からでてきた店の主人に、
「陶器が好きならもっと美しい物がたくさんあるから見ていかないか。」と店の奥に案内された。洞窟のような奥の部屋の灯りをつけてもらうと、そこには、いかにもお土産物というよりは美術品といえるような美しい陶器がたくさん並べられていた。ここには18世紀や19世紀の古い物もあるという。この辺りの特徴である動物のパターンも、土産物用の物とはちがい、動物たちが表情豊かに生き生きと描かれていて、明らかに質の良さが見て取れる。花模様は丹念に描かれ、その線はのびやかで見事だ。
友人はここで動物の絵のティーセットを買った。テーブルに並べると、動物たちがカップやティーポットから踊り出してきそうな感じがする。飾って眺めるのもよいけれど、陶器は使ってこそ、その良さが分かるもの。
食卓を彩るスペインの陶器たちをテーブルに並べると、本当に豊かな気分になれる。

イタリアにあるマジョリカ焼きは実はスペインの陶器がルーツである。
アラブから伝わった手法や技法を駆使し、独自の文化で成熟させていったスペインの陶器を、地中海に浮かぶ島、マジョルカ島を経由してイタリアやヨーロッパの国々に輸出したために、マジョルカと呼ばれるようになり、それがイタリア語風にマジョリカになったようだ。

スペインでも磁器の食器や人形が作られているが、繊細さが持ち味の磁器と違い、陶器のもつ魅力はその土の感触だ。土を手でこねて成形する人々の手のぬくもりが感じられる。ロメロ(ローズマリー)の木で焚かれた窯の炎の中で釉薬は美しい色に変化する。
陶器の姿を目で楽しみ、手のひらで感触を確かめ、使う喜びを味わおう。
スペインの陶器は、生活を豊かに彩ってくれ、心をなごませてくれることだろう。



最新の画像もっと見る

post a comment

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。