Mi Aire

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グレゴリーの思い出

2007-12-23 23:50:31 | エッセイ
若き日、青山にあった雑貨のお店でアルバイトをしていた。
女の子が好きそうな小物やアクセサリーや化粧品や洋服を扱うお店だ。
場所柄外国人のお客様も多く、多彩な方と接する機会があって面白かった。

お店にいつも東洋系のお手伝いさんに付き添われてやってくる小さなフランス人の
男の子。彼の名前はグレゴリー。
大きくなったらハンサムになるんだろうな・・・フレスコ画の天使のような金髪の巻き毛がくるくると渦巻いてとてもかわいかった。
いつもやんちゃでお手伝いさんに手を焼かせているグレゴリー。
小さな子供なのにフランス人らしく、時々大人っぽい仕草をしては驚かせてくれた。

とあるクリスマス・イヴのこと。
お店はプレゼントを買うお客様で賑わい、私達は昼休みをとる余裕もないくらい忙しい。包んでも包んでも並んでいるお客様。もう何人接客をしたのか覚えていない。
切れ目なく並ぶお客様を前に、ひたすらプレゼントを包み、リボンをかけ、レジを
たたいた。

ああ、疲れたな・・・。時計を見るともう4時をまわっている。
休憩もとれないまま、もうこんな時間になってしまった。
お客様が途切れ、ふと一息をついたとき、カウンターの前にグレゴリーが立っていた。
グレゴリーが疲れ果てた私の顔をじっとみつめている。
「どうしたの?」と声をかけると、彼はにっこり笑って何も言わずに握り締めた手を前に出した。
私が手をだすと彼は私の手のひらにそっと小さなお菓子の包みをのせてくれた。
「くれるの?」グレゴリーは軽く頷いてもう一度にっこり笑うと、あっと言う間に走り去っていった。
私の手のひらにはグレゴリーがくれたお菓子の赤い包みがのっている。
包みを開いてそれを口に入れる。
ふわりと甘さが広がり、心を温かいものが満たしていった。
何だかそれだけで疲れを忘れて元気になれるみたいだった。

ありがとうも言わないうちに走り去っていったグレゴリー。
金髪の巻き毛の小さな天使。
そう、本当に彼は天使だった。

あのときの包み紙は小さく折りたたまれて、今でも引き出しの片隅に入っている。
クリスマス・イヴの温かい思い出。
あの頃のグレゴリーにもう一度会いたいな。
金髪の巻き毛をかきあげていた小さな天使に・・・・


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