
パリのタクシー運転手のシャルルは、人生最大の危機を迎えていた。金なし、休みなし、免停寸前、このままでは最愛の家族にも会わせる顔がない。そんな彼のもとに偶然、あるマダムをパリの反対側まで送るという依頼が舞い込む。92歳のマダムの名はマドレーヌ。終活施設に向かう彼女はシャルルにお願いをする、「ねぇ、寄り道してくれない?」。人生を過ごしたパリの街には秘密がいっぱい。寄り道をする度、並外れたマドレーヌの過去が明かされていく。そして単純だったはずのドライブは、いつしか2人の人生を大きく動かす驚愕の旅へと変貌していく!
今回は「パリタクシー」を題材に経営学的に読み解いてみようと思う。
シャルルにとっては、長距離の客を運ぶことはいい話らしい。時間はかかるが、いい稼ぎになる。売り上げは決まっているので早く目的地に着いて、次の客を運びたい。渋滞には巻き込まれたくないし、割り込まれるようなら相手を怒鳴っている。運ぶだけだから会話も最小限。あまりいい態度とは言えない。言い換えると、小さな投資と小さな回収である。
一方のマドレーヌは、話上手でおちゃめな面をもつ老女である。医者から一人暮らしは無理といわれ、公園に面したきれいな一戸建てから終活の施設へ移動する。途中のパリの街は若き日の思い出が濃縮した場所でもある。1940年代のアメリカ軍のナチス開放や、男女不平等の社会状況が彼女を翻弄していた。彼女にとってこの短い旅は「今生の別れ」の趣きである。
シャルルは、パリの街を走る中で、マドレーヌの思い出の話を聞くにつけ、驚き、泣き、そしてともに笑い、次第にただの客から愛おしい大切な人と思うようになる。夕食を古風なレストランで取り、促されるままに自らの境遇も話し出す。餞別の気持ちでシャルルは夕食の代金を支払う。そして夜遅く施設に到着し、慌ただしい中でタクシー代を受け取ることなく再会の約束だけをする。
経営学的にドライに眺めると、小さな回収がさらに小さくなってしまった。ただ、金銭的にはそうだが、心の豊かさを加えるならば、期待以上の回収を得たのかもしれない。映画ではその矛盾を現代的に解決する結末となるが、ここでは語らないことにしよう。
投資と回収は、それぞれ金銭という物差しで見ることを前提とするが、その物差しは単純ではない。金額の大小で非線形性を示し、さらに、文化や社会規範によって感度が大きく異なる。
難しいところであると同時に、興味の尽きないところでもある。
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