**馬耳東風**

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イギリスの箴言・・(病気は神が癒し、医者が請求書を書く)

2015-12-22 | 世事諸々
ハーバード大学の医学部を出た医者でも学校を卒業してインターンを終え、ドクターとして独立し、三日も診療にあたると自信喪失に陥るそうです。学校で学習した病気でやってくる患者など稀で,見当もつかない病気を抱えてやってくるものばかりだからだそうです。本当の病気というのは診察室で聴診器を操って解るものなど全くないといってもいいそうです。

このように告白した医者はさらにつずけて、10年経った今でも状況はそう変わってはいないがね、と苦笑したそうです。病気は動物にも植物にもあります。しかし、人間には身体を害するけがや感染症のような肉体に及ぼす障害ばかりではなく、心に及ぼす病や、自己免疫障害(アレルギィ)などというものもあります。病気の主体に目的性がみられないもの,原因不明なものも多々あるということです。

病気に対抗する主役が医療であることに違いはありませんが、切り傷ひとつ治すのも、実は医者に出来るのは止血と感染を防ぐ消毒剤を塗布するだけで、傷を治すのは患者の内面に備わった自己治癒力によるものなのです。あらゆる病気や障害に言えることで、それを知れば、医療にも限界を感じざるをえません。病気はミステリーであると誰かがいいましたが、それは医者自身がまずしみじみと感じることだそうです。

ガンがひとりでに治ることを寛解と言うそうですが、病気の不思議、ミステリーをひとつ紹介します。1980年代の話です。
ニューヨーク在住のワード医師が三年前までインターンをしていたのは、マンハッタンの同じ街区にある大学病院の外科病棟でしたが、インターン終了真近のある日、師事していた教授が執刀するガン開腹手術の助手の一人に加わることになりました。患者は多臓器転移ガンという絶望的な症状で、長時間の手術になりそうでした。当日のワード医師は緊張してこわばった表情だったのでしょう、ふと気がつくと、ベッドの上から麻酔に入る前の患者がじっと自分の方をみているのでした。ワード医師は少し恥じて緊張を緩め、患者に微笑みかけました。患者も笑みを返してくれましたが、すぐに深い眠りに落ちて行きました。

執刀医の教授は初めから憂い顔でしたが、開腹部から中をしばらく眺め、やがて首を微かにふりました。ワード医師も患者の切り開かれた腹部の奥に幾つもの黒い腫瘍をみて思わず胸に十字をきっていました。手術はそれ以上行われることはなく腹部は縫合されました。インターンとして最後の忘れ難い経験でした。そして、その最後の経験のせいか、彼は内科医になり三年経っていました。

内科医は外科医ほどの緊張感は少ない代わり多忙でした。そのお影でインターン時代のことはすっかり忘れていましたが、ある朝の診療時間にやってきた患者の顔をみて一瞬呆然となりました。多臓器転移ガンで開腹され、すぐにまた閉じられた、あの忘れもしない、インターン最後に出会った患者だったのです。もうこの世にいるはずはない、と思い込んでいたのでしたが。

その患者は屈託ない笑顔をみせて懐かし気に手を差し伸べてきました。「先生にはお礼の言葉もありません」開口一番、そう言ったのでした。「その節は幸運にもニューヨーク一の名医に手術をしていただき、そのうえ助手の先生が手術の成功を祈って胸の上で十字を切り神に祈ってくださる姿が見えました、お陰さまでこの通り回復し再発もなく元気にやっております」

ワード医師は答えるすべもなく、ただ無理に作った笑顔で患者の手を握リ返したそうです。医師として一番したい質問はありましたが、飲み込みました。実際、多くの病気はなぜそうなったか原因が解らず、なぜ治ったのかなどいうに及ばず、五里霧中とでもいうべき病気の人は、今でも絶えることはないそうです。ワード医師は霧の中を漂って地に足がつかない自分を感じていたということです。
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