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熟年オジサンの映画・観劇・読書の感想です。タイトルは『イヴの総て』のミュージカル化『アプローズ』の中の挿入歌です。

損料屋喜八郎始末控

2003-08-18 | 読書
「あかね空」で直木賞を受賞した山本一力のデビュー作が文庫化された。
損料屋(今で言うレンタル屋)の喜八郎が主人公の4話からなる連作長編である。
喜八郎はもともと同心職の侍であり、ある事情で今は損料屋に身をやつしている。実は、これは世を忍ぶ仮の姿で、元上司の奉行所与力・秋山からの命を受けて活動する情報収集グループのリーダーでもある。
時代背景は、八代吉宗時代の【享保の改革】の殖産興業政策を継承した老中・田沼意次が失脚、バブルが崩壊して、江戸中が一転して金詰りになり、世はまさに今日の経済状態によく似た不況となり・・・。

【棄捐令(きえんれい)】という、幕府直属家臣である旗本・御家人救済のための財政策が導入されたことに起因する陰謀・策略を、喜八郎グループが事前に阻止するために水面下で奮闘する。クライマックスの雨の深川の祭りの場面は、映像的な描写で臨場感に溢れ、ハラハラさせられる。山本一力の筆力を納得できる場面のひとつ。深川の料理屋江戸屋の女将・秀弥の心意気も控え目なのが嬉しい。
旗本・御家人が、御公儀から俸給として受け取った【切米】を売却して現金化する仲介人が【札差】。何年も先の【切米】を担保に借金する武家がほとんどで、【札差】は金融業としての性格が大である。借金の交渉は【蔵宿師】と呼ばれる代理人があたる。棄捐令発令後の、彼らの力関係の変化が各話の背景となっていて興味深い。
聞きなれない用語を羅列したので、取っ付きにくそうに感じるかもしれないが、ご心配は無用。一種の【仕事人シリーズ】や【コン・ゲームもの】の乗りで気軽に楽しめるエンターテイメント時代小説である。
(2003-8-18 読了 butler)




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