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熟年オジサンの映画・観劇・読書の感想です。タイトルは『イヴの総て』のミュージカル化『アプローズ』の中の挿入歌です。

夏の夜の夢

2007-06-10 | 演劇
シェイクスピアの喜劇の中でも、とりわけ祝祭的ムードに溢れた作品だが、ジョン・ケアードの意外にオーソドックスな演出でも、大いに楽しむことが出来た。
『夏の夜の夢』と言えば、ピーター・ブルック演出の「何も無い空間」と、夜の場面でさえも白色光の下で演じられた、伝説的で衝撃的なロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)の舞台(日本公演は1973年)に言及せずにはいられない。
今回も幾つかの共通項を見出すことが出来て、シェイクスピア劇は過去の様々な舞台の膨大な記憶を継承しながら、同時代性を更新させて前進しているとの思いを新たにした。
ジョン・ケアード演出の特色は、アテネの職人たちが演じる劇中劇の「爆笑悲劇・ピラマスとシスビー」の、内容ではなくて演じるということの楽しさを全面に出したことである。
またパックも、身体能力の優れた軽業師とまではいかなくても、軽快な動きを最大限に発揮している。パック役のチョウ・ソンハは、軽い乗りのお調子者の若者という感じで、期待に応える活躍ぶりであった。

真っ白な2階建てのアテネの公爵シーシアス(村井国夫)と、その婚約者ヒポリタ(麻実れい)の公邸からお盆が回わって、アテネ郊外の妖精の王(村井国夫)と女王(麻実れい)が支配する夜の森へと転換する舞台と衣装の早替わりも鮮やかである。
衣装の色分けが、王は黒から黒へ、女王が白から白へというのが意表を衝いている。人間界と妖精界との対立、昼と夜との対立ではなく、両者が微妙に融和した交じり合った世界観なのが面白い。
3本の螺旋階段状のオブジェが鬱蒼とした森を表わし、よく見れば日用品の廃棄物が、さりげなくオブジェのシルエットの中に紛れ込んでいるのも面白い。以前、ジョン・ケアードがRSCで演出した際の、廃棄物で溢れた森とは一体どんなものだったのだろう。また、今回は無かったが、ツギハギの羽を背負った妖精というのも見てみたかった。

終幕でのパックの有名な口上は、背中の可愛い羽と尖った耳を外しながら述べられ、装置が回って劇場の舞台裏が現われる。

「ここでご覧になったのは うたた寝の一場のまぼろし。
 たわいない物語は 根も葉もないつかの間の夢」
(松岡和子・翻訳)

私たち観客は、今は素に戻った役者たちと一緒に、「芝居」という名の「まぼろし(夢)」を共有していたのだ。
『レ・ミゼラブル』というメガ・ヒット・ミュージカルの演出で有名になったジョン・ケアードだが、元々はRSCの演出家である。
舞台の左右のピットに4名ずつの演奏者を配して、メンデスゾーンの『真夏の夜の夢』の♪結婚行進曲♪も華やかに使われている。
シェイクスピアの楽しさを伝えるのに奇を衒わず、正攻法で見せた演出だが、3時間10分の長丁場(休憩1回)も全く気にはならなかった。

「今宵は皆さま これにてお休みなさいまし ご贔屓のおしるしに お手を拝借」(福田恒存・翻訳)
34年前みたいに役者達が客席に下りてきて握手をする「お手を拝借」は無かったが、観客の暖かな拍手はいつまでも続いていた。
(2007-6-9、新国立劇場中劇場にて、butler)


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