EMIKO NAKAMURA official blog-Emi 's ballpark-

ラテンアメリカの野球、生活、音楽、スペイン語、旅のことetc.
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MLB観戦紀行 “メジャーの風に吹かれて”

2005-05-01 | 以前の野球コラム
なんだか懐かしいような芝生の匂い・・・。
スタジアムに一歩足を踏み入れた瞬間、ドキドキ胸が鳴る。そこには、違う時間が流れているのだから。
昨夏、初めて観たメジャーリーグ。
その時感じたボールパークの空気に誘われて、また来てしまった。

ゲームの2時間前。
みんな自分の時間を楽しんでいる。
練習している浅選手のボールがバットに当たる音。
「ピーナピナピナ・・・」と独特の声を響かせる、ピーナッツ売りのおじさん。
クラブを手にわいわい騒いでいる子供たち。
こんな喧騒の中、ゆっくりと流れている時間が私は大好き。
プレーボール前から、音や色や香りや風や・・・
ボールパークの総てが「Welcome!」と迎えてくれているかのようだ。

高いフェンスがないスタジアムは、楽しさを何十倍にも膨らませてくれる。
ボールを手渡してもらった女の子。
フェンスに肘を掛け、選手と長話していたお父さん。
サインに応える選手の前には、子供も大人も列を作って待っていた。
憧れの選手をすぐ近くに感じた子供たちの瞳は輝いている。そして童心に戻った大人たちも。

ふと気付けばプレーボールの時間。
もう少しこの空気を感じていたいな、と思ったのも束の間。
「星条旗よ永遠なれ」を歌い終わるのが待ちきれないのは、子供たちでけではなかった。


さっきまでの、ざわめきが嘘のように、シーンと静まり返ったスタジアム。
星条旗を見上げ、胸に手を当てると鼓動が速くなっていく。
いよいよ、始まる。
いちばん緊張する瞬間かもしれない。
アメリカ国歌が終わるか終わらないかのうちに、球場は拍手と大歓声に包まれる。
プレーボールが待ちきれないのだ。

ボールパークには、みんな自分が楽しむためにやってくる。
お揃いのユニフォーム姿で声援を送る四人家族。
オールスターの投票用紙を手に議論している、知り合ったばかりの大人と少年。
子供とのファウルボール争奪戦に勝ったお父さんは、ガッツポーズを繰り返していた。
七回には「私を野球に連れてって」を大合唱する。
選手を含めた、そこにいるみんなと一緒に、いつも間にか私も“少年”になっていた。

トランペットや太鼓のないスタジアムでは、つまらないプレーにブーイングが起き、好プレーには敵味方関係なく、拍手が起きる。
得点が絡まなくても球場が揺れたとき、とっても幸せな気持ちになるから不思議。

「メジャー?マウンドに立ってみないと分からない、ことばでは言い表せない雰囲気があるんですよ」
野茂投手が言った、そんな夢空間が、スタンドにも存在していた。


*このコラムは1996年に「ぴあ」に掲載されたものです