日本と似てても違う。

「82年生まれキム・ジヨン」チョ・ナムジョ著

韓国ドラマに親しんでいる人、韓国の家庭の様子など、ざっくり知ってるならすごく読みやすい。
韓国の男性は女性に親切（ドラマだけじゃないらしい）、なのに社会全体はずっ～～～っと男尊女卑。

家族は夫と子供は同じ苗字で、妻は夫の苗字にならない。
日本は夫婦別姓ができず、ペーパー離婚する人もいるから、良い、悪いは判断しかねるけど。


内容は昭和57年生まれの女性が大学を出て、何十社の不採用の後に正規就職。
寝食を削って仕事。結婚、出産で退職。
子育て中に多重人格が出現するようになり、カウンセラー診察を受けるところから始まる。

妊娠、出産後も職場に残れるような制度が未整備（日本だってつい最近のことさ）、ほとんどの経営者は男で、産休明けの女性を再就職させる気など全くない。
夫は優しいけど、経済的理由でとても忙しい。
ワンオペ育児、夫の家族からの過干渉（お盆の里帰り　暮らし方などなど）

彼女の発病で、主人公の母の生い立ちにさかのぼって分析が始まる。
昭和57年、日本の景気は好調、右肩上りを続けていた（と思う　たぶん）
主人公の母はたぶん私と同年代。

不景気による父親の早期退社、転職、退職金を元手にフランチャイズで開業、倒産、借金。
チキン屋、パン屋、・・・最初こそ行列ができるが、すぐに同業他社が増え、飽きられ、次のフランチャイズへど、
慣れない商売と競争相手の激増で借金ばかりが膨れ上がる。
父親の経済破綻は家族に直撃。

映画「パラサイト」のソン・ガンホがチキン屋の次は台湾カステラ屋で・・・と失業までの転職歴を言う場面や、
ドラマ「トッケビ」で韓国はチキン屋だらけなのに・・と死神イ・ドンウクがチキン屋でバイトするキム・ゴウンに言うセリフは現実なんだ。


ネットより拝　借m(__)m



貧困格差で子どもの学歴にも差がでる。
小説の中では、聡明な母の商才のおかげで経済的には恵まれた。
早期退社した父にに「お粥屋」が当たるからと命令（！）見事軌道にのり家計が潤った時もある。
この家の繁栄のほとんどは、母の不動産投資の成功により、塾通いや大学進学ができた。

韓国で顕著な家長制度、日本は敗戦のおかげで制度が少し和らいだ。
家族の女たちは「男」のための奉仕が当たり前で、女であることは割を食う人生であった。
出産したのが女児とわかると、そのままなかったことにされる風潮は後に「嫁不足」を招く、中国の一人っ子政策と同じ末路。

女であるだけで不利益を被る社会だけど、勉強だけは裏切らないと小さなころから塾通い。
それを支えるのはかつて割を食った母親たち。韓国の男女の学歴差はほとんどないそうだ。

「82年生まれキム・ジヨン」が寝食を忘れて働く姿に胸が痛くなる。
割を食わない人生は、男と同じ土俵にたち勝ち進んでいかないといけないが、
勝ち進めそうでも、結婚してしまった途端、土俵から転げ落ち、二度と土俵に上がれない。


韓国の企業も男女雇用するも、男子社員は家族がいるし、定年まで働いてもらいたいから、
面倒なクライアント、てこずる仕事を女子に回しているとある。

東大を出た女性が電通で過労からの自死を思い起こす。コネで入った子女たちがアフター５を謳歌していた同時間、
努力を重ね、競争に打ち勝って採用された会社に抹殺された。

韓国も財閥出身者は何の苦労もない。
最初からコースが違う。


主人公の子どもがやっと保育園に預けられるようになり、仕事を探すが、
最低賃金の仕事しかない現実、日本もほんの少し前までまったくそうだった。
この小説でも主人公は広告代理店の第一線で働いていたのに、そのキャリアは出産と共に消え去り、
アイスクリーム屋のパートですら迷っている間に他の人にとられてしまい、
前のパートさんから「私も大卒よ」と言われる始末。


　
ただ日本と違うなーと思ったのは、虐げられたままではいない、発揮される女たちのバイタリティ。
不満は言う、行動にでる。

女子高生が校門に度々現れる露出狂を、グループで罠にかけ警察に突き出したり（苦笑）
男子に比べ校則が厳しいと教師に直談判したり、おかしいと思うこと、不満を露わにすることに躊躇しない。

これがあの光化門の抗議集会が繰り返される素養なんだろうなあ。


何度目かのソウルツアーでガイドさんが、最初はIT企業で週に３回、深夜まで会社の飲み会＆カラオケがあり、
体を壊し、ガイドの勉強を始め中国語が習得できず、日本語にしたと言っていたが、
医学部に行ったらよかったと後悔してます。とも言っていた。

東京医科大の男子の加点を思い起こさせる、この本の最後は「今度は男を雇おう」で締めくくられる。

だけど、日本も韓国も少子化による人出不足で、男女も年寄も雇用せざるを得ないような時代がきてると思っていたが、
このコロナで・・・先行きは不明。