「新規に亜空間をひとつ作れ」
私はカゲに命じた。
「標的たちが籠城しているアジトごと・・・」
この世のものではないヤクザ組織は、
要塞のようなアジトに立て籠もっているはずだった。
「すべて丸ごと移送しよう」
移送とは、亜空間に移し入れるということだ。
亜空間・・・
私のつくったカゲたちは、
この世でもない、あの世でもない、
まったくオリジナルな空間を作ることができる。
私はたまに気が向いたときなどに、
標的を私のオリジナル空間に移して、狩る。
そこは、私が極めて有利に戦える「場」なのだ。
私「標的全員をアジトごと移送」
カゲ「・・・・・・」
私「まず隕石群を降らせろ」
カゲ「・・・・・・」
私「地下から火柱を無数に噴出」
カゲ「・・・・・・」
私「正面から砲撃開始」
カゲ「・・・・・・」
私「空爆開始」
カゲ「・・・・・・」
私「三方向から機甲師団を」
カゲ「・・・・・・」
数え切れないほどの私のカゲたちの中には、
軍隊もある。
戦闘機、爆撃機、戦車部隊、砲撃部隊、艦隊、
歩兵、工兵、特殊部隊、いろいろと揃っている。
私「先制攻撃の間・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「向こうの防御の特徴を見極めろ」
カゲ「・・・・・・」
攻撃が簡単に決まることは、普通はない。
敵の防御をいかに崩すかが重要となる。
カゲ「まだ解析途中ですが・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「標的の防御は五重で・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「オートカウンター式の城塞型と・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「性質変換防御、休眠型防御、それに・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「ロックオン誤算誘導型・・・」
これらはどれも過去の戦いにおいて経験があり、
敵防御の突破方法について、いろんなノウハウがある。
私「既知のタイプの防御に対しては・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「それぞれ個別に通常対応でいい」
カゲ「・・・・・・」
私「最後のもうひとつは未知のタイプの防御か?」
カゲ「そうです」
私「解析を急げ」
敵の防御のデータを取るために、
さらに攻撃の手を加えることにした。
データが揃うまで攻撃を続けないといけない。
私「南原を用意させろ」
カゲ「・・・・・・」
南原とは、私のカゲの中で、
少し変わった特殊技能を持っている者だ。
南原は敵の無意識領域に干渉することができる。
いわばメンタル兵器のようなものだ。
「南原、標的全員に・・・」
私はその南原に対して話しかけた。
「愛する者の惨殺イメージを刷り込め」
これは・・・あまり美しい攻撃とはいえないが、
戦いとは、往々にして醜いものだ。
「標的からカウンターがもうすぐ届きます」
カゲが報告してきた。
自分から攻撃を仕掛けると、
よほど弱い相手でない限りは、
カウンター攻撃が敵から返ってくる。
カゲ「意識されたマニュアル対応によるもので・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「複数でかつ多種のカウンターです」
これも普通のことだ。
いちいち驚いているようではいけない。
私「こちらの通常結界の一カ所を開けて・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「標的からのカウンターをそこに集中させろ」
カゲ「・・・・・・」
私「そのまま返せるものは三倍返しでまた返せ」
カゲ「・・・・・・」
私「返せないタイプは吸収して消化する」
カゲ「・・・・・・」
私「私の周囲には散らさないようにしろ」
カゲ「・・・・・・」
私の仕事のとばっちりによって、
私の実生活における周囲の人たちに被害が出ることは、
私にとっては恥ずかしいことだ。
なぜなら、
それは私の防御が不完全であることを意味するので。
カゲ「最後の未知の防御タイプが判明・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「おそらくはマニュアル式の全無効化で・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「ダメージを吸収させる専用の穴に・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「ゴミを捨てるように廃棄して・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「ダメージを無効にするようです」
私「!」
カゲ「しかも、その吸収穴は・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「集団全員で共用できるようです」
私「ほう!」
興味深い防御方法だ。私はうなった。
またひとつ防御の種類を敵から学んだ。
戦歴が多ければ多いほど学ぶものが増える。
敵は敵ではあるが、見方を変えれば敵ではない。
学ぶべき教師でもあるからだ。
私「そのダメージ吸収専用の穴をふさぎ・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「標的全員と穴との連絡ラインを分断しろ」
カゲ「・・・・・・」
私「そして無効化されたこちらの攻撃を・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「全復帰させるように」
やがて私の脳内で、多くの悲鳴や絶叫が響いた。
痛みや苦しみや悲しみに満ちたものだった。
私は次の一手を打つことにした。
要塞のようなアジトの中にいる敵組織の、
頭領や幹部を最終的に仕留めるために、
内部に突入する必要がある。
私「そろそろ中に突入するか」
カゲ「・・・・・・」
私「逮捕状の出ている標的を残らず殺す」
カゲ「逮捕では?」
私「所轄には死体を引き渡せばいい」
カゲ「・・・・・・」
私「そのまま封印でも、蘇らせて懲罰でも・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「好きにしてくれと所轄に通達・・・」
カゲ「変わりませんね」
私「え?」
カゲは私のやり方を熟知している。
いやというくらい一緒に仕事をしてきた。
私「一度ちょっと引退したからといって・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「変わる理由は特にないよ」
カゲの微笑む気配を感じながら、
私は突入して標的を仕留める者の人選を決めた。
私「五本指を五人とも呼び戻せ」
カゲ「・・・・・・」
五本指とは、私のカゲたちの中で、
とりわけ数多くの実戦を重ねてきた連中で、
元々は五人のメンバーからなるグループなのだが、
目的に応じて個別に使うことも多い。
その五本指は五人とも、
私に招集されるこの時まで、別々に派遣されていた。
中東、アメリカ、ロシア、中国、EU圏・・・
それぞれの派遣先で、
私に何を命じられて何をしていたかは、秘密だ。