サイレント

静かな夜の時間に・・・

亜空間(4)

2006-09-02 02:02:57 | Weblog



「新規に亜空間をひとつ作れ」
私はカゲに命じた。

「標的たちが籠城しているアジトごと・・・」
この世のものではないヤクザ組織は、
要塞のようなアジトに立て籠もっているはずだった。

「すべて丸ごと移送しよう」
移送とは、亜空間に移し入れるということだ。


亜空間・・・
私のつくったカゲたちは、
この世でもない、あの世でもない、
まったくオリジナルな空間を作ることができる。

私はたまに気が向いたときなどに、
標的を私のオリジナル空間に移して、狩る。
そこは、私が極めて有利に戦える「場」なのだ。


私「標的全員をアジトごと移送」
カゲ「・・・・・・」
私「まず隕石群を降らせろ」
カゲ「・・・・・・」
私「地下から火柱を無数に噴出」
カゲ「・・・・・・」
私「正面から砲撃開始」
カゲ「・・・・・・」
私「空爆開始」
カゲ「・・・・・・」
私「三方向から機甲師団を」
カゲ「・・・・・・」

数え切れないほどの私のカゲたちの中には、
軍隊もある。
戦闘機、爆撃機、戦車部隊、砲撃部隊、艦隊、
歩兵、工兵、特殊部隊、いろいろと揃っている。


私「先制攻撃の間・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「向こうの防御の特徴を見極めろ」
カゲ「・・・・・・」

攻撃が簡単に決まることは、普通はない。
敵の防御をいかに崩すかが重要となる。

カゲ「まだ解析途中ですが・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「標的の防御は五重で・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「オートカウンター式の城塞型と・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「性質変換防御、休眠型防御、それに・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「ロックオン誤算誘導型・・・」

これらはどれも過去の戦いにおいて経験があり、
敵防御の突破方法について、いろんなノウハウがある。

私「既知のタイプの防御に対しては・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「それぞれ個別に通常対応でいい」
カゲ「・・・・・・」
私「最後のもうひとつは未知のタイプの防御か?」
カゲ「そうです」
私「解析を急げ」


敵の防御のデータを取るために、
さらに攻撃の手を加えることにした。
データが揃うまで攻撃を続けないといけない。

私「南原を用意させろ」
カゲ「・・・・・・」

南原とは、私のカゲの中で、
少し変わった特殊技能を持っている者だ。
南原は敵の無意識領域に干渉することができる。
いわばメンタル兵器のようなものだ。

「南原、標的全員に・・・」
私はその南原に対して話しかけた。

「愛する者の惨殺イメージを刷り込め」
これは・・・あまり美しい攻撃とはいえないが、
戦いとは、往々にして醜いものだ。


「標的からカウンターがもうすぐ届きます」
カゲが報告してきた。

自分から攻撃を仕掛けると、
よほど弱い相手でない限りは、
カウンター攻撃が敵から返ってくる。

カゲ「意識されたマニュアル対応によるもので・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「複数でかつ多種のカウンターです」

これも普通のことだ。
いちいち驚いているようではいけない。

私「こちらの通常結界の一カ所を開けて・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「標的からのカウンターをそこに集中させろ」
カゲ「・・・・・・」
私「そのまま返せるものは三倍返しでまた返せ」
カゲ「・・・・・・」
私「返せないタイプは吸収して消化する」
カゲ「・・・・・・」
私「私の周囲には散らさないようにしろ」
カゲ「・・・・・・」

私の仕事のとばっちりによって、
私の実生活における周囲の人たちに被害が出ることは、
私にとっては恥ずかしいことだ。
なぜなら、
それは私の防御が不完全であることを意味するので。


カゲ「最後の未知の防御タイプが判明・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「おそらくはマニュアル式の全無効化で・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「ダメージを吸収させる専用の穴に・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「ゴミを捨てるように廃棄して・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「ダメージを無効にするようです」
私「!」
カゲ「しかも、その吸収穴は・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「集団全員で共用できるようです」
私「ほう!」

興味深い防御方法だ。私はうなった。
またひとつ防御の種類を敵から学んだ。
戦歴が多ければ多いほど学ぶものが増える。

敵は敵ではあるが、見方を変えれば敵ではない。
学ぶべき教師でもあるからだ。


私「そのダメージ吸収専用の穴をふさぎ・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「標的全員と穴との連絡ラインを分断しろ」
カゲ「・・・・・・」
私「そして無効化されたこちらの攻撃を・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「全復帰させるように」

やがて私の脳内で、多くの悲鳴や絶叫が響いた。
痛みや苦しみや悲しみに満ちたものだった。


私は次の一手を打つことにした。
要塞のようなアジトの中にいる敵組織の、
頭領や幹部を最終的に仕留めるために、
内部に突入する必要がある。

私「そろそろ中に突入するか」
カゲ「・・・・・・」
私「逮捕状の出ている標的を残らず殺す」
カゲ「逮捕では?」
私「所轄には死体を引き渡せばいい」
カゲ「・・・・・・」
私「そのまま封印でも、蘇らせて懲罰でも・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「好きにしてくれと所轄に通達・・・」
カゲ「変わりませんね」
私「え?」

カゲは私のやり方を熟知している。
いやというくらい一緒に仕事をしてきた。

私「一度ちょっと引退したからといって・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「変わる理由は特にないよ」


カゲの微笑む気配を感じながら、
私は突入して標的を仕留める者の人選を決めた。

私「五本指を五人とも呼び戻せ」
カゲ「・・・・・・」

五本指とは、私のカゲたちの中で、
とりわけ数多くの実戦を重ねてきた連中で、
元々は五人のメンバーからなるグループなのだが、
目的に応じて個別に使うことも多い。

その五本指は五人とも、
私に招集されるこの時まで、別々に派遣されていた。
中東、アメリカ、ロシア、中国、EU圏・・・
それぞれの派遣先で、
私に何を命じられて何をしていたかは、秘密だ。