サイレント

静かな夜の時間に・・・

始末屋(4)

2006-02-09 03:47:28 | Weblog



私は車で夜の新宿を目指した。
途中、私とカゲはいくつかのやり取りをした。
運転しながらの脳内での会話だ。

私「単独犯か?」
カゲ「そうです」
私「何者だ?」
カゲ「動物です」

カゲがいう動物とは、
この世に生を受けた動物のことではない。
見えない世界での玄妙な動物のことである。

一見、四つ足の動物に見えても、
必ずしも常時四つ足のままとは限らないし、
時には必要に応じて人型にも変化する。
羽が生えて飛ぶものもいるし、
危険を察知すると巧妙に姿を消すこともある。

そして何より、
この物質的な世の中で問題を起こすような動物は、
ほぼ例外なく気性が荒く、血を好む。
そうではない穏やかな動物もたくさんいるのだが。


私「なんでそんな動物なんかが・・・」
カゲ「・・・・・・」
私「所轄の手に負えないんだ?」

私は所轄という言葉をよく使う。
問題のある行動をしたものを取り締まる係の中で、
いわば地域の警察のような存在を指す。

カゲ「合体してるんです」
私「合体?」
カゲ「30体くらいが合体して一匹になってます」
私「・・・・・・」
カゲ「それで強くなってます」
私「ほう」
カゲ「・・・・・・」
私「所轄が狩れない理由はそれか・・・」

動物の中には、時にこういう相手がいる。
数十体が合体しているとさすがに強力になる。
ちなみに、
生粋の人型はあまり合体はしない。
したとしてもケンカになって別れやすいようだ。


私「なんで日本全国のあちこちで活動したんだ?」
カゲ「それは・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「単純にテリトリーを全国に広げたというか・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「全国に広げて憑依対象を増やしたというか・・・」

この世のものではない存在たちは、
ごく日常的に、物質的なこの世界に干渉している。
よくあるのが憑依である。

憑依とは、心へのハッキングのようなものだ。
人間の心に干渉して、狙い通りの行動を起こさせる。
狙った人間に何をさせるかはいろいろだ。
暴言、傷害、レイプ、殺人、さまざまなものがある。

そして、
ハッキングされて操られるようにやってしまった行為は、
基本的には衝動的な行動となる。
その結果その人間は、
あとから冷静に振り返ったときに後悔する。
なんであのとき自分はあんなことをしたのだろう、と。

憑依されやすい人間には、決まった傾向がある。
ハッキングされて暴力をふるってしまう人間は、
もともと暴力的な人間であるし、
憑依によって殺人を犯してしまう人間は、
元来、衝動的に人を殺してしまう可能性があった人だ。

反対に、
自分は絶対に盗みなどはしない、という意志の固い人なら、
どんなに誘惑的な状況でも、
どんなにハッキングが上手い者が憑依を試みても、
盗みを働いたりはしないものだ。

何事にも動じない堅固な心をもつ人間は、
霊的存在から心を陥落させられることは少ない。
とはいえ、
それほどの人物はほとんどいないわけだが。


カゲ「つまり・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「手っ取り早く子供殺しをさせやすそうな・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「そんな対象をほぼ毎日捕らえるために・・・」
私「・・・・・・」
カゲ「広い範囲で動いたようです」

随分と安直な手口だ。
よほど幼い血に飢えていたのだろう。
その、飢えに苛まされていた30体ほどの動物たちが、
寄り集まって合体したことにより、
突如、狂ったように連続憑依に及んだのだろう。

カゲ「犯行時の動画、見ます?」
私「え?」
カゲ「動物の記憶の中に残ってたものですが・・・」
私「そんなの入手したのか!」
カゲ「・・・・・・」
私「見せてみろ」

視覚とは異なる脳内のビジョンで、
私は犯行時の動画記録をついつい見てしまった。
車を運転している最中なので、
普通の視覚では車外の風景を見ているのだが、
それと並行して、脳内の映像を見ることも可能だ。

私はその凄惨な動画を、
ほんの数分の間だけ確認し、そして辟易とした。
その数分間はとても長く感じられた。


私「もういい、もう見たくない」
カゲ「・・・・・・」
私「十分だ」
カゲ「・・・・・・」
私「酌量の余地はない」
カゲ「・・・・・・」
私「ハンターたちを差し向けろ」
カゲ「はい」

ハンターとは、
私のカゲの中で、狩りを専門とする連中のことだ。
私のカゲはひとりではない。
いろんな分野の専門家たちが、驚くほど多く存在する。

それが私の特徴だ。
そしてそれが、
私がこれまで生き残ってこれた理由なのだ。