ストレングスコーチの個人的なトレーニング日誌&読書感想文

トレーニングについて感じたこと、また定期的に読んでいる専門誌の記事についてのコメントなども書いていこうと思います。

パワークリーンと負荷付きのスクワットジャンプにおける4種のパワー測定法とその比較

2007年06月08日 | Weblog
Comparison of Four different methods to measure power output during the hang power clean and the weighted jump squat

Hori, N., Newton, R. U., Andrews, W. A., Kawamori, N., Mcguigan, M. R., Nosaka, K., Journalof strength and conditioning research, 2007, 21(2) 314-320


前書き

多くのスポーツ、たとえそれがマラソンであってもパワーはパフォーマンスを構成する非常に大きな要素である。しかし漠然とパワーといっても、どの程度のパワーが発揮されているのかを知ることは難しい。また、トレーニングでパワーを向上させようとするとき、最大限の効果を得るためにはできるだけ最大限のパワーに近い発揮をして行う必要がある。究極的には、少なくともトレーニングにおいて直接的にパワーにアプローチする種目に関しては、パワー発揮を確認しながら行うことが重要であると考える。実際にはアメリカやオーストラリアのオリンピックセンターにおいて、フォースプレートをトレーニングに用いた方法がとられている。現在、一般的に使うことができる、バーや人間の動きを回転センサーと取り付けたワイヤーで行う方式と、フォースプレートを用いた方式やその組み合わせとの比較がこの実験では行われている。


要約(Abstract意訳)

パワーの出力を測定するということはレジスタンストレーニングにおいて一般化しつつある。そしてその方法は多様である。この研究の主な目的は4種類のパワー測定方法を比較し、その数値の関係を調べることである。30人の男性セミプロ、オーストラリアンフットボール選手が被験者として選ばれ、それぞれがハングパワークリーンと負荷付きのスクワットジャンプを行い、GRF(地面からの反力)と時間の関係、バーベルの位置(高さ)と時間の関係を測定した。Peakと平均のパワーをそれぞれ以下の方法で測定した。

方法1:バーベルの位置/時間の関係(バーベルの重量)
方法2:踏み込み反力/時間の関係
方法3:バーベルの位置/時間の関係(バーベル+被験者の重量)
方法4:方法2と3の合成

実験の結果方法1とそれ以外の方法では、パワー出力の測定値に明らかな違いがあった。また、方法2と方法3,4との間にも明らかな違いが見られた。バーベルに対して出力されたパワーとシステム(バーベル+体重)に対して出力されたパワーには有効な関連性があった。



感想文

実際に現場でパワー測定をするという見地でゆくと、方法1が一般的であろう。正しい方法でパワークリーン、負荷付きのジャンプを行えばその移動距離から平均のパワーを測定することができる。また、位置センサーを取り付けることができれば、瞬間の速度を測定することができるため、ピークやその瞬間のパワーも測定することができる。しかし、パワートレーニングの本当の目的は選手自身の加速、減速能力であり、バーベルのそれではない。この実験ではシステムのパワー測定、そしてバーベルのパワー測定も行っているが、いくつかの方法では、特にバーベルの位置を測定する方法では正しくない、すなわち体に対して起こってほしくないパターンでバーを加速してもその結果として、高いパワーが測定されることがある。それに対してフォースプレートはバーがどのように動いても力を加えた分だけ測定する。そのような意味では、指導という観点でフォースプレートを用いる方がわかりやすいかもしれません。ただ、フォースプレートは非常に高価です(研究用ですから)。したがって、安価なフォースプレートの一般化が望まれます。以前、リサーチでも安価なフォースプレートと実験用の高価なものとを比較した実験もありましたが、一般的な使用には問題ないレベルだったようです。フィットネス機器もAV化が進んでいますが、フリーウェイト用の機器にもこのようなテクノロジーが乗り、広く使えるようになってほしいものです。

スタティックストレッチ、爆発的ストレッチ、PNFストレッチの垂直跳びに与える影響。

2007年05月30日 | Weblog
The Effect of Static, Ballistic and Proprioceptive Neuromuscular Facilitation Stretching on Vertical Jump Performance

Bradley, P.S., Olsen, P.D., Portas, M.D., Journal of strength and conditioning research, 2007, 21(1) 223-226




前書き
近年、ウォームアップについて様々な議論がされているが、その中でもストレッチングに関するものは非常に興味深いものが多い。従来、特に日本では運動前にはゆっくりとストレッチをして、関節の可動域を増したりすることでけがを防ぐことができると信じられてきた。しかし、最近ではスタティックストレッチによる弾性力の低下が指摘され、パワフルな動作のウォームアップにはゆっくり行い、ROMを増すことが目的のストレッチングは不向きであるというのが定説になりつつある。しかし、一方でROMに大幅な左右差がある選手や、動作に問題が出るほどのROM不足がけがの原因やパフォーマンスの低下につながる可能性も無視できない。この実験ではどのストレッチをしたら、どの程度のパフォーマンスの低下が起こり、一定時間後にパフォーマンスがどのように変化するかを検討している。


要約(Abstract意訳)

この実験の目的は3種類の異なるストレッチングが垂直跳びに一時的に与える影響について調べたものである。18人の大学生が実験に参加し、4つのグループにわけられ、それぞれが72時間、間をあけて、無作為にそれぞれ4種類のストレッチングを行った。実験ではすべてのグループが5分間のウォームアップを行った後、スタティック、及びカウンタームーブメントジャンプ(垂直跳び)をストレッチ前に行い、それぞれの種類のストレッチを行った後、5分15分30分45分、そして60分後に同様の垂直跳びを行い、測定した。ストレッチングは
コントロール(何も行わない)
スタティックストレッチ
爆発的ストレッチ
PNFストレッチ
を10分間行った。

実験の結果、ストレッチ直後の測定ではスタティックストレッチ(-4.0%)とPNFストレッチ(-5.1%)の後では、爆発的ストレッチ(-2.7%)よりも大幅にジャンプの高さが減少した。しかし、すべてのストレッチにおいて15分後にはもとのスコアまで戻っていた。この実験から、爆発的な動作をともなう運動を行う直前にスタティック、もしくはPNFストレッチを行うべきではないと、考察される。


感想
ここでもやはり、ROMを向上させるようなストレッチングはパフォーマンスに対してネガティブな影響があると言う結果になったが、15分後にはすべて回復していると言うところがおもしろい。結局このような単純なエクササイズを行う場合はウォームアップのみがいいのかもしれない。このように単純な動作のパフォーマンスが15分程度で回復している点をみると、後は精神的な影響を見たいものである。いずれにしても、チームスポーツなどの場合ではウォームアップ開始前にある程度時間をおけるという前提なら、スタティックストレッチをしても問題ないようである。しかし、相変わらず、精神に与える影響はまだわかっておらず、その部分の研究を待つばかりである。

4種類のエアロビクスにおけるカロリー消費とその測定方法の分析

2007年05月15日 | Weblog
Analysis of the Assesment of Caloric Expenditure in Four modes of aerobic dance

Rixon, K. P., Rehor, P.R., Bmben, M. G. Journal of Strength and Conditioning Research, 2006 20(3) 593-596





前書き

ダイエットや健康ブームの昨今、効果的とされる様々なエクササイズやダンスが考案されてきている。特に格闘技をモチーフにしたボクササイズや、実際にボクシングやその他の格闘技を行うことによるダイエットも非常にポピュラーになってきている。最近”ビリーズブートキャンプ”など、DVDを見ながら行うエクササイズも通販の世界では非常に流行している。しかし、実際にはどの程度効果的なのかは参加者の”キツイ”などの主観的な印象のみの判断となっており、これについての研究というのはこれから先消費者がエクササイズの種類を選ぶに当たり、必要なものであると考えられる。


要約(Abstract意訳)

エアロビックダンスはウェイトコントロールの方法として使われてきているが、実際にジョギングなどの一般的な方法と比べてどの程度有効なのかという点ではあまり知られていない。この研究では28人の女性に対し、4種類のエアロビクスとジョギング(2つの速度)におけるカロリー消費を測定、比較するものである。エアロビクスはBody Combat (TaeBo:ビリーズブートキャンプの原型?)、PUMP、STEP、RPMであった。

Body Combat:マーシャルアーツの動作を入れた、エアロビクス
PUMP:ウェイトを使ったエアロビクス
STEP:STEP台を用いたエアロビクス
RPM:ステーショナリーバイクを用いたプログラム

ジョギングは時速8.05km/h、及び8.37km/hで行った。
結果は以下の通りである。

Body Combat: 9.70±2.00kcal/min
PUMP: 8.00±1.60Kcal/min
STEP: 9.60±1.80Kcal/min
RPM 9.90±1.90kcal/min

Jog,8.05km/h 9.16±1.53kcal/min
Jog,8.37km/h 10.30±1.72kcal/min

この結果から、PUMPはほかのエアロビックダンスやジョギングに対して明らかにカロリー消費が低いことがわかった。またその他3つのエアロビックダンスに関してはカロリー消費が明らかに8.37km/hのジョギングより低く、8.05km/hのジョギングより高いことがわかった。
これらの結果からこのエアロビックダンスはACSMのガイドラインに沿ったものであることがわかった。また、ここで使用した心拍数を用いたカロリー消費の測定も様々なエアロビックダンスにおいても有効であったことがわかった。



感想

主観的にキツイと思うエクササイズと実際にカロリー消費の多いエクササイズというのは違う。単純なカロリー消費だけを同一条件でプログラムを比較すると言うことについては、実験結果としては受け止めるべきであるが、それ以外の不確定要素を考慮に入れた上でエクササイズを判断すべきであろう。エアロビックダンスにおいては同じプログラムを行っても、指導者の質や参加者のモチベーションによって、カロリー消費などが大きく変わる可能性もある。これは、コーチングを数値化するのが難しいだけにこれから先エアロビックダンスの研究をするという点で非常に難しい点を残している。また、これ以外に運動中の代謝カロリー以外に、筋肉についてのインパクトも無視することはできない。様々な複合間接運動をプログラムの中で行う場合それをどのように行うか?という点は見過ごされていることが多い、スクワット動作一つをとっても正しい動作で行うことで大きな違いを生むことができる。そのような意味で、これから先プログラム中の筋電図などの測定、そして運動経験者と普段運動をしていない被験者の比較も興味深い。いずれにしてもこれらのエクササイズを効果的に行うためにはモチベーションとエクササイズのクオリティをしっかりコントロールできる指導者が必要で、プログラムそのものよりも指導者の質が問われるのではないか?と考えられる。

ウォームアップ

2007年05月02日 | Weblog
Acute Effects of Different Warm-Up Protocols with and without a weighted vest on jumping performance in athletic woman

Thompsen, A. G., Kackley, T., Palumbo, M. A., Faigenbaum, A. D., National Strength and Conditioning Research, 2007, 21(1) 52-56

前書き

多くのスポーツ現場において、従来からウォームアップを行う際にはストレッチングを多く行ってきた。これはストレッチングがけがを予防するといわれ続けたからである。しかし、近年ストレッチング、特にスタティックストレッチングがパフォーマンスに与えるネガティブな影響が注目されている。筋肉は引っ張ること、すなわち張力を得ることで力を発揮する。従ってストレッチングを行うことによって張力が失われ、パフォーマンスが低下するという点が着目されてきたのである。実際に多くの研究において、ストレッチング後には比較的パワー発揮がしにくいという研究結果も得られている。さらに、この逆に、事前に筋肉により大きな負荷をかけておくことにより、パフォーマンスの向上を図ることができるのではないか?(Post activation potentiation)といった、観点での研究もされている。今回の実験ではこの2つをうまく絡めて、どの方法がもっとも効果的なウォームアップになるのかを考察したものである。



要約(Abstract意訳)

この実験の目的は3種類の違ったウォームアップのプロトコル(低強度の運動+スタティックストレッチ、比較的高強度ダイナミックな運動、比較的高強度でダイナミックな運動を重り入りベストを着て行う)でその後の垂直跳びと、立ち幅跳びのパフォーマンスを比較するものである。被験者は16人の日常的に運動を行っている女性で、それぞれのテストを連続でない日にランダムに行った。ウォームアップとして被験者は10分間のバイクと4部位のスタティックストレッチを行うグループ(SS)、12種類のダイナミックなエクササイズを行うグループ(DY)、そしてダイナミックなエクササイズを重り入りベストを着て行うグループ(DYV)に分けられた。実験の結果、垂直跳びにおいてDYおよびDYVグループはSSグループに比べ明らかに高いパフォーマンスを示した。立ち幅跳びにおいては明らかにDYV>DY>SSという結果に終わった。この結果から考察すると、日常的に運動をしている女性(アスリート)はにおいてはダイナミックなウォームアップがパフォーマンスの向上につながると考えられる。また、特に立ち幅跳びにおいては重り入りベストを用いたダイナミックなエクササイズはパフォーマンス向上に有効なウォームアップであるといえる。



感想(後書き)

近年のトレンドの通り、ここでもやはりスタティックストレッチがパフォーマンス向上に対してネガティブな影響を与えるという結果になった。このあたりで、この原因についてもう少し深く掘り下げることはできないであろうか?多くの研究においては、筋肉レベルでの張力の変化、すなわち弾性力が失われる点に着目している。スタティックストレッチによりROM(可動域)は向上するが、弾性力は失われるというわけである。しかし、本当にこれらローカルな理由だけなのであろうか?たとえばスタティックストレッチを行うことにより過度なリラックス状態になり、副交感神経が優位になり、結果としてパフォーマンスが落ちることは無いだろうか?実は2つの全く違った指導者がリラックスすることについて似たようなことを言っている。一つ目は又聞きであるので正確では無いが、ロシアのグレコローマンのレスリングコーチは練習開始後は足の裏と手のひら以外が地面につくのを許さないそうである。これはやはり、リラックス状態をつくり出してしまうからだそうだ。もう一つは京都大学のアメフト部、水の監督のお言葉で、”シマウマがライオンに襲いかかられたらストレッチしてから逃げるか?すぐに逃げるだろ?”とおっしゃっていました。まさに緊張感をもって、すなわち交感神経を高ぶらせておくことが必要なわけです。これら、神経のパターンを研究の中で調べることができればより効果的に事実が見えてくる気がします。

水泳におけるアシストおよびレジストスプリントトレーニング

2007年04月12日 | Weblog
Assisted and Resisted Sprint Training in Swimming Gerold, S., Calmels, P., Murin, D., Milhau, N., and Chatard, J. C., Journal or Strength and Conditioning Research, 2006, 20(3) 547-554

水泳におけるアシストおよびレジストスプリントトレーニング


前書き

水泳におけるレジスタンストレーニングは長い間非常にアプローチが難しいとされていました。それは水中という環境が非常に特異的で、地上でのトレーニングの効果が直接的に出にくいからである。確かにスタートやターンの際のキックの強さなどは地上でのトレーニングによって直接的に向上しやすい部分ではあるが、トータルで泳ぎという面を見ると非常に難しい部分であるといえる。


要約

(Abstract意訳)この研究は水泳におけるレジストスプリント(Ost)、アシストスプリント(Osp)の100mクロール競技への影響についてです。被験者はレジスト、アシスト、コントロール(C)の3者に分けられ、トレーニングは3週間行われ、それぞれ週に6回の練習のうち3回をこのトレーニングに費やした。負荷にはチューブが用いられた。トレーニング前と後での100mクロール競技でのパフォーマンスを比較したところ、Ostグループでは100mのスピード、肘関節屈筋群の筋力、そしてストロークの速さが向上した。またストロークの長さは変化がなかった。Ospグループは泳ぎの速度に変化はなかったが、ストロークの速さが向上し、ストロークの長さが減少した。Cグループにおいては有意な変化は見られなかった。この結果から考察すると、Ost,Ospともに従来のトレーニング法よりも効果が高いことが示された。しかしながら筋力や泳ぎの速度、ストロークの技術についてOstのトレーニング法の方がより効果的な結果を残した。


感想

3週間という短い期間でこれだけ有意な差がでるとなると、水泳におけるレジスタンストレーニングの効果は非常に高いといえるであろう。ここで筋力の評価において肘関節の屈筋群と伸筋群が評価されているがこれは興味深い。私は水泳に関しては非常に無知であるが、動作を見ていると、肩関節における動作の影響が大きいように見える。それとも、肘関節におけるトルクの影響が大きいのだろうか?これに関してはさらに文献などを読んでみる必要があると考える。実際に水泳において筋力の必要性は上半身の方が高いのかもしれない。いずれにしても実際に負荷をかけた泳ぎが有効であったわけであるので、実際にどのようなボリュームで行うべきなのかなど、さらなる研究が望まれる。

挙上速度と1RMの関係

2007年04月03日 | Weblog
Effect of Movement Velocity on the relationship between training Load and the number of repetitions of bench press Journal of strength and conditioning research 2006, 20(3) 523-527 Sakamoto, A., Sinclair, P. J.

前書き
ベンチプレスをはじめとするスタンダードなバイラテラルエクササイズ。これらの全力で出来る最大の回数、すなわちRM(Repetition Maximum)と使用した重量からその人の1回ギリギリ行える重量(1RM)を計算できると言われています。特にベンチプレスなどの不確定要素が少ないものに関しては一般的にこの関係が広く受け入れられています。しかし、本当に重さと回数以外の要素はないのでしょうか?この研究ではこれら、重さ、回数の要素に時間(速さ)の要素を加えてその比較を行っています。


要約(Abstract意訳)
この研究ではベンチプレスにおける負荷の重量と回数の関係を速度に変化を加えて比較したものである。11人の日常的にウェイトトレーニングをしている被験者が実験に参加した。この実験では遅い速度、中程度の速度、爆発的な速度の3種類での実験を行った。実験の結果、より速い速度で動かしたほうが、1RMに対しての同じパーセンテージの重量において、より多くの回数を挙上することが出来た。おそらく伸張反射のメカニズムを使うことが出来る速い動作は動作の速度の不利(通常より速い)を上回るメリットを伸張反射から出来たのではないかと考えられる。

備考(実験結果から)挙上回数と%1RM,速度の関係グラフ

感想この研究はコロンブスの卵、もしくはパンドラの箱的な実験であると思う。すなわち、非常に身近なものでありながら見落としてきた事実であるか、もしくは複雑なファクターなので目をつぶってきた部分であるかである。そう思う理由として、以下のことがあげられる。まず第一にグラフを見ても分かると思うが、関係が曲線になっていることである。特にベンチプレスにおいては回数と重量は1次関数的な関係として扱われてきた。しかし筋肉に対するエネルギーシステムから考えても10秒、そして35秒前後を境に関係が変化することが考えられる。これまで、高回数における関係が比較的1次的だったことには、挙上間の休み(動作が止まる)ことが言えると思う。この部分が2つ目のポイントである。すなわちテンポを設定することにより同じ条件で挙上を繰り返すことになったわけである。このテンポ設定も非常に興味深い。スローの設定と、Fastの設定では同じ回数でもかかっている時間が倍以上違うわけである。したがって、単純に回数のみでのコントロールでなく、テンポでもオーバーロードがかけられるということがここでいえたのではないでしょうか?また、エキセントリックに集中して挙上のテンポをコントロールするようにすれば、スローなエキセントリック動作により、伸張反射に必要なエキセントリックな強さが得られるのではないか?と考えます。これはすなわちピリオダイゼーションにおいて、比較的重い重量を扱うフェイズの裏フェイズに行えば、効果的にプログラムを作成できるかもしれません。いずれにしてもこのRMと速度の研究は他の種目でも行えればさらに有効性が高まると考えられます。

ダイナミックおよびスタティックストレッチを用いたウォームアップの比較

2007年03月26日 | Weblog
前書き
よくスポーツクラブにいくとストレッチは障害を予防し、運動の準備を助けますなんて、いうビデオが流れていますが、これは本当なのでしょうか?


Dynamic vs. Static-Stretching warm up: The Effect of Power and Agility Performance
McMillan, D. J., Moore, J.H., Halter, B.S., Taylor, D.C., Journal of Strength and Conditioning Research, 2006 20(3), 492-499

ダイナミックおよびスタティックストレッチを用いたウォームアップの比較;パワーとアジリティパフォーマンスへの影響

要約(原文意訳)
この研究はダイナミックおよびスタティックストレッチを用いたウォームアップの比較をパワーとアジリティパフォーマンスへの影響について考察したものである。ウェストポイントの陸軍士官学校において、ダイナミックを行いウォームアップするグループ、スタティックストレッチを含めたウォームアップをするグループ、そしてどちらも行わないグループに分けて実験を行った。ウォームアップはそれぞれ10分で構成され、1から2分の休憩後、Tテスト、メディシンボールスロー、5ステップジャンプを行った。実験の結果ダイナミックストレッチを行ったグループはそのほかのグループよりも明らかによいスコアをすべてのテストにおいて示した。Tテスト、メディシンボールスローにおいてスタティックストレッチを行ったグループと何も行わなかったグループは違いが無かった。また、5ステップジャンプにおいては、スタティックストレッチをしたグループのほうがストレッチをしなかったグループよりも良いスコアを示したが、ダイナミックストレッチを行ったグループには及ばなかった。
この結果から言えることはダイナミックストレッチを用いたウォームアップはパフォーマンスを比較的に向上させることが出来る。またスタティックストレッチを単独で行ったウォームアップを用いている場合はそれについて変更を検討したほうがよい。

感想文

最近よく言われているスタティックストレッチの問題点についてである。スタティックストレッチを単独で行うとパフォーマンスが低下する(ベースラインより)という研究もあるが、この研究ではそのようには書かれていない。単一の筋肉レベルでの張力はおそらくストレッチングにより大きな影響を受けると考えられるが、体全体のコーディネーション、特にユニラテラルな動作を考えたときにはスタティックストレッチの問題点をその効果が埋めているのであると考えられる。したがって、スタティックストレッチに関しては、特にエクササイズに大きな問題があるROM制限(必ずしも理想値でなくてもよい)があるとき、それをウォームアップより前に対策しておき、そこからダイナミックなウォームアップに展開してゆくべきであると思う。これらストレッチングの研究はタイムにかかわるもの、そして筋レベルでの弾性力、ROMについての研究が多いが、ホルモンレベルもしくは神経レベル(交感神経、副交感神経に対する影響など)への影響が明らかになればより興味深い物となるのではないかと思う。

Stretching: Acute and Chronic?

2007年03月19日 | Weblog
今回はリサーチアーティクルなので、要約は意訳で行きます。

Stretching: Acute and Chronic? The Potential Consequences

Stone, M., O'Bryant, H. S., Ayers, C., Sands, W. A., NSCA Journal v28n6 pp66-74


要約(意訳)

ストレッチングは様々なスポーツにおいて多くのアスリートによって行われてきた。一時的なストレッチング、すなわちウォームアップの一部として行われるストレッチングは稼動域を増すために行われるが、同時にピーク筋力、筋力の立ち上がり(RFD)、そして、パワー発揮を妨げる。これに対し、長期にわたるストレッチングはいくつかパフォーマンスを向上するという研究結果も出ている。しかし、そのメカニズムはクリアーではない。短期的なストレッチングは怪我の予防にはほとんど影響がないといわれるが、長期的なストレッチングは怪我の予防に寄与する可能性がある。

感想

このトピックは最近多く議論されているトピックである。この文献で述べていて面白いのはROMの向上と、筋肉およびソフトティッシューの弾性について述べていることである。ご存知のように体の機能は筋肉の収縮によって得られる筋力を用いている。この張力が弱まれば筋出力が弱まるのは非常に理解できる。また、伸張反射によるパワー発揮もまた、弾性力に寄与している。機能的なROMが向上しても弾性力が落ちたら、パワーや伸張反射のタイミングが変化し怪我の原因になることは十分に考えられる。しかし、ストレッチングにより、血流が向上し、ウォームアップ効果があるという研究もされている。したがって、我々は、ROMが最適化(必ずしも向上とは限らない)し、弾性を保ちつつ、血流の向上するウォームアップを考えなければならない。その点で、アクティブな筋収縮をともなうダイナミックストレッチングに関する文献をより研究してみたら面白いと思う。

Motor learning - applications for Agility Part 1

2007年03月12日 | Weblog


Jeffreys, Ian NSCA journal v28n5 pp72-76

要約

モーターラーニング的な見地からアジリティトレーニングへアプローチするということは、長期的なアジリティ強化のために有用なことである。

アジリティは体系化されたトレーニングにより向上することが出来る。また、直線的トップスピードとアジリティとの相関性はほとんどない。アジリティがトレーニングにより向上するならば他のスポーツスキルと同様に扱われるべきである。
アジリティ動作は分解すると特徴的ないくつかの動作パターンに行き着く。それぞれのパターンは固有の基本的機能を有し、固有の技術が必要である。その一例が、サイドシャッフル、バックペダル、カット、そしてドロップステップである。
これら固有の動作はさらにターゲットとなるメカニズムに分解される。このメカニズムを理解分析することは非常に有効なコーチングツールとなる。

アジリティとは連続したスキルであると言うことが出来る。アジリティをターゲットとなるメカニズムに分解すると、新しい機能的定義を動作に与えることが出来る。

アジリティに於けるターゲットとする機能は大きく分けて

Transition: トランジション
Actualization: フィニッシュ

に分けることが出来る。

Initiation動作とは動作を始めるもしくは方向転換をしようとすることである。
Transition動作とは選手が次の判断すべき情報に対してすぐに判断、反応できる状態をいう。たとえば、バックペダル、サイドシャッフル、チョップステップなどがこれにあたる。
Actualization動作とは一連の動作を完了する動作である。一般的にスポーツスキル(キャッチやタックルなど)や目標地点への直線的なスプリントを含むものである。

アジリティトレーニングを行うにあたり、コーチはこれらの動作をよく知り、選手たちが練習で行っている動作がこれらの目標に沿っているかを評価する必要がある。

アジリティートレーニングを行うにあたり、ターゲットを極めて段階づけてトレーニングしてゆく必要がある。
Step1基本(ターゲット)動作の理解と習得
選手は分類された基本動作パターンを理解しマスターする事が求められる。この際に外部からの刺激(判断などを必要とするもの)を与えずにクローズスキルとして練習する。ドリルの種目はターゲットとなる基本動作の習得に必要なものである必要がある(複合的な要素にしない)

Step2基本動作のコンビネーションの理解と習得
Step1で得た基本動作を身に付けたら、次はそれらをどのようにしてスポーツスキルとして組み合わせるかを指導する。

Step3キーとなる刺激(情報)とそれに対する反応
Step1,2で学んだスキルとその組み合わせを処理べき情報に対しての反応として行うドリルへと移行する。これはすなわちオープンスキルとなる。

アジリティドリル(セッション)の構成
セッション内での順番などをランダムに変化させる。
ドリルそのものにもバラエティーを持たせる。

ブロックわけされた練習は短期的には効果的だが、スキルの維持にはつながりにくい。ランダムに練習を配置すると、スポーツ選手は一回一回動作パターンを呼び出し、プログラムしなおす必要がある。これにより、効果的に技術を維持することが出来る。最初のうちはブロックわけされた練習を行って、技術を習得し、そして、ランダムな練習へと移行してゆくと良い。

これらのドリルは一方向的なく、バラエティにとんだ方向性を持たせて行うべきである。また、オープンスキルとしてその技術を磨く必要がある。


感想

多くのスポーツ動作はごく少数の基本動作パターンに分類される。そして、これらをクローズスキルとして(ほぼ)完璧に行い、それらを効果的に組み合わせることを考えることなしに(感覚的に)行えればアスリートは彼らの持っている能力をより効果的に発揮できると考えられる。そのためにも非常にシンプルな基本動作を繰り返し練習し、考えなくても間隔としてそれらが完璧に近い状態で行えるように出来ることは我々SCコーチの大きな仕事のひとつであろう。そして、それらを旨く組み合わせることを教えることもまた、重要である。アスリート、またはスキルコーチはそのスポーツのエキスパートである。したがって彼らと話をしながら彼らのしたい行動(必ずしも動作ではなく)を相談し、吟味し、そして統合的にその目的行動に対して最も効果的な動作を提案するのも我々の仕事だと思う。この文献においても細分化されたスキルを効果的に教えるべきとあるが、まさにそのとおりである。我々が教える、鍛えるべきなのは彼らアスリートのスキルの屋台骨となる部分である。どのようなデザインのスキルを構築するにもある法則にのっとった土台作りが必要である。それを強く感じました。
動作の3段階は非常に重要でこれは、本当に意識して行うべきであると思う。特にトランジションからフィニッシュという流れはどのようなスキル練習でも必ず意識して行ってゆくべきであると感じます。

下肢における機能的筋力の(イン)バランス

2007年01月25日 | Weblog
Determination of Functional Strength Imbalance of the Lower Extremities

Robert U. Newton, Mimee Gerber, Sophia Nimphius, Kae K. Shim, Brandon K. Doran, Mike RObertson, David R. Pearson, Bruce W. Craig, Keijo Hakkinen, and William Kraemer. Journal of Strength and Conditioning Research, 2006, 20(4), 971-977



要約

この研究は左右、もしくは利き足とそうでない足の間で有意な筋力差があるか?そして、様々なユニラテラル(1本足で行う)、バイラテラル(2本足で同時に行う)なクローズチェーンエクササイズのテストと、今まで行われてきた実験室的なアイソキネティックマシンによるテストとの相関性を調べるものである。
けがのリスクを減らし、スポーツにおけるパフォーマンスを高めるためには主導筋と拮抗筋の筋力バランスだけでなく、左右の筋力差を知ることは重要な要素である。以前から主導筋と拮抗筋のバランスの研究は多くされてきたが、研究からけがをしているアスリートの多くは左右の筋力差が顕著であるという結果が出ている。したがって、左右の筋力差についての研究を行うことは今まであまり行われてきていなかったが非常に有用であると考えられる。しかし、論理的なバランスとけがの関係はまだ完全に解明されているわけではない。また、関谷などが行った研究などから5ホップテストなどのフィールドテストが筋力との相関があるとも言われている。
これらの背景にのっとって、この研究では
バックスクワット時の左右の足における出力差(最大、平均)、2本足および1本足の垂直とびにおける出力差(最大、平均)を測定し、左右の差、利き足とそうでないほうの足における差、それぞれの統計を取った。
また、5ホップテスト、バックスクワット、垂直とび、とアイソキネティックマシンにおける主導筋及び拮抗筋の左右差、そして、主動筋/拮抗筋の筋力費の左右差を測定し、それぞれの相関性を測定した。

バックスクワット、垂直とびの実験ほとんどにおいて、利き足と、そうでないほうの足に有意な筋力差があった。また、アイソキネティックマシンの脚伸展力、脚屈曲力にも利き足と、そうでないほうの有意な筋力差があった。しかし、脚伸展力、屈曲力の比率に関しては左右、利き足で有意差はなかった。60度/秒の脚屈曲力とスクワットの筋力、240度/秒の脚屈曲力と垂直とびに有意な関係が見られた。

感想

この実験は高いレベルの女子ソフトボール選手に対して行われたものであるが、非常に興味深い内容であった。以前から色々な研究で筋力の左右差によるけがの可能性について議論されてきているが、今回も利き側とそうでないほうでほとんどの実験項目で有意な差が生まれた。それに対して、以前言われた、屈曲群と、伸筋群の比率については優位な差が見られなかった部分も興味深かった。おそらく、ファンクショナルな筋力の差は単純な単関節の筋力の関係だけでは測れないからであると思われる。また、バックスクワット、両足垂直とびなどのバイラテラルな種目においての左右差が見られる点も、興味深い。結局利き足に加重がよってしまう現象は現場でも良くみられる。そして、それが関節の問題の原因になりやすいこともまた、事実であると考える。
このリサーチをみて思ったのは、やはりパフォーマンス、けが低減両方の見地から、左右の機能的な能力差(絶対的な数値より)をスクリーニングの材料として、バランスの良い機能向上を選手に指導する必要があるし、あまりにも差が激しい場合にはけがが起こる前からトレーナーによるリハビリテーションを行う必要性を強く感じました。