ストレングスコーチの個人的なトレーニング日誌&読書感想文

トレーニングについて感じたこと、また定期的に読んでいる専門誌の記事についてのコメントなども書いていこうと思います。

スタティックストレッチ、爆発的ストレッチ、PNFストレッチの垂直跳びに与える影響。

2007年05月30日 | Weblog
The Effect of Static, Ballistic and Proprioceptive Neuromuscular Facilitation Stretching on Vertical Jump Performance

Bradley, P.S., Olsen, P.D., Portas, M.D., Journal of strength and conditioning research, 2007, 21(1) 223-226




前書き
近年、ウォームアップについて様々な議論がされているが、その中でもストレッチングに関するものは非常に興味深いものが多い。従来、特に日本では運動前にはゆっくりとストレッチをして、関節の可動域を増したりすることでけがを防ぐことができると信じられてきた。しかし、最近ではスタティックストレッチによる弾性力の低下が指摘され、パワフルな動作のウォームアップにはゆっくり行い、ROMを増すことが目的のストレッチングは不向きであるというのが定説になりつつある。しかし、一方でROMに大幅な左右差がある選手や、動作に問題が出るほどのROM不足がけがの原因やパフォーマンスの低下につながる可能性も無視できない。この実験ではどのストレッチをしたら、どの程度のパフォーマンスの低下が起こり、一定時間後にパフォーマンスがどのように変化するかを検討している。


要約(Abstract意訳)

この実験の目的は3種類の異なるストレッチングが垂直跳びに一時的に与える影響について調べたものである。18人の大学生が実験に参加し、4つのグループにわけられ、それぞれが72時間、間をあけて、無作為にそれぞれ4種類のストレッチングを行った。実験ではすべてのグループが5分間のウォームアップを行った後、スタティック、及びカウンタームーブメントジャンプ(垂直跳び)をストレッチ前に行い、それぞれの種類のストレッチを行った後、5分15分30分45分、そして60分後に同様の垂直跳びを行い、測定した。ストレッチングは
コントロール(何も行わない)
スタティックストレッチ
爆発的ストレッチ
PNFストレッチ
を10分間行った。

実験の結果、ストレッチ直後の測定ではスタティックストレッチ(-4.0%)とPNFストレッチ(-5.1%)の後では、爆発的ストレッチ(-2.7%)よりも大幅にジャンプの高さが減少した。しかし、すべてのストレッチにおいて15分後にはもとのスコアまで戻っていた。この実験から、爆発的な動作をともなう運動を行う直前にスタティック、もしくはPNFストレッチを行うべきではないと、考察される。


感想
ここでもやはり、ROMを向上させるようなストレッチングはパフォーマンスに対してネガティブな影響があると言う結果になったが、15分後にはすべて回復していると言うところがおもしろい。結局このような単純なエクササイズを行う場合はウォームアップのみがいいのかもしれない。このように単純な動作のパフォーマンスが15分程度で回復している点をみると、後は精神的な影響を見たいものである。いずれにしても、チームスポーツなどの場合ではウォームアップ開始前にある程度時間をおけるという前提なら、スタティックストレッチをしても問題ないようである。しかし、相変わらず、精神に与える影響はまだわかっておらず、その部分の研究を待つばかりである。

4種類のエアロビクスにおけるカロリー消費とその測定方法の分析

2007年05月15日 | Weblog
Analysis of the Assesment of Caloric Expenditure in Four modes of aerobic dance

Rixon, K. P., Rehor, P.R., Bmben, M. G. Journal of Strength and Conditioning Research, 2006 20(3) 593-596





前書き

ダイエットや健康ブームの昨今、効果的とされる様々なエクササイズやダンスが考案されてきている。特に格闘技をモチーフにしたボクササイズや、実際にボクシングやその他の格闘技を行うことによるダイエットも非常にポピュラーになってきている。最近”ビリーズブートキャンプ”など、DVDを見ながら行うエクササイズも通販の世界では非常に流行している。しかし、実際にはどの程度効果的なのかは参加者の”キツイ”などの主観的な印象のみの判断となっており、これについての研究というのはこれから先消費者がエクササイズの種類を選ぶに当たり、必要なものであると考えられる。


要約(Abstract意訳)

エアロビックダンスはウェイトコントロールの方法として使われてきているが、実際にジョギングなどの一般的な方法と比べてどの程度有効なのかという点ではあまり知られていない。この研究では28人の女性に対し、4種類のエアロビクスとジョギング(2つの速度)におけるカロリー消費を測定、比較するものである。エアロビクスはBody Combat (TaeBo:ビリーズブートキャンプの原型?)、PUMP、STEP、RPMであった。

Body Combat:マーシャルアーツの動作を入れた、エアロビクス
PUMP:ウェイトを使ったエアロビクス
STEP:STEP台を用いたエアロビクス
RPM:ステーショナリーバイクを用いたプログラム

ジョギングは時速8.05km/h、及び8.37km/hで行った。
結果は以下の通りである。

Body Combat: 9.70±2.00kcal/min
PUMP: 8.00±1.60Kcal/min
STEP: 9.60±1.80Kcal/min
RPM 9.90±1.90kcal/min

Jog,8.05km/h 9.16±1.53kcal/min
Jog,8.37km/h 10.30±1.72kcal/min

この結果から、PUMPはほかのエアロビックダンスやジョギングに対して明らかにカロリー消費が低いことがわかった。またその他3つのエアロビックダンスに関してはカロリー消費が明らかに8.37km/hのジョギングより低く、8.05km/hのジョギングより高いことがわかった。
これらの結果からこのエアロビックダンスはACSMのガイドラインに沿ったものであることがわかった。また、ここで使用した心拍数を用いたカロリー消費の測定も様々なエアロビックダンスにおいても有効であったことがわかった。



感想

主観的にキツイと思うエクササイズと実際にカロリー消費の多いエクササイズというのは違う。単純なカロリー消費だけを同一条件でプログラムを比較すると言うことについては、実験結果としては受け止めるべきであるが、それ以外の不確定要素を考慮に入れた上でエクササイズを判断すべきであろう。エアロビックダンスにおいては同じプログラムを行っても、指導者の質や参加者のモチベーションによって、カロリー消費などが大きく変わる可能性もある。これは、コーチングを数値化するのが難しいだけにこれから先エアロビックダンスの研究をするという点で非常に難しい点を残している。また、これ以外に運動中の代謝カロリー以外に、筋肉についてのインパクトも無視することはできない。様々な複合間接運動をプログラムの中で行う場合それをどのように行うか?という点は見過ごされていることが多い、スクワット動作一つをとっても正しい動作で行うことで大きな違いを生むことができる。そのような意味で、これから先プログラム中の筋電図などの測定、そして運動経験者と普段運動をしていない被験者の比較も興味深い。いずれにしてもこれらのエクササイズを効果的に行うためにはモチベーションとエクササイズのクオリティをしっかりコントロールできる指導者が必要で、プログラムそのものよりも指導者の質が問われるのではないか?と考えられる。

ウォームアップ

2007年05月02日 | Weblog
Acute Effects of Different Warm-Up Protocols with and without a weighted vest on jumping performance in athletic woman

Thompsen, A. G., Kackley, T., Palumbo, M. A., Faigenbaum, A. D., National Strength and Conditioning Research, 2007, 21(1) 52-56

前書き

多くのスポーツ現場において、従来からウォームアップを行う際にはストレッチングを多く行ってきた。これはストレッチングがけがを予防するといわれ続けたからである。しかし、近年ストレッチング、特にスタティックストレッチングがパフォーマンスに与えるネガティブな影響が注目されている。筋肉は引っ張ること、すなわち張力を得ることで力を発揮する。従ってストレッチングを行うことによって張力が失われ、パフォーマンスが低下するという点が着目されてきたのである。実際に多くの研究において、ストレッチング後には比較的パワー発揮がしにくいという研究結果も得られている。さらに、この逆に、事前に筋肉により大きな負荷をかけておくことにより、パフォーマンスの向上を図ることができるのではないか?(Post activation potentiation)といった、観点での研究もされている。今回の実験ではこの2つをうまく絡めて、どの方法がもっとも効果的なウォームアップになるのかを考察したものである。



要約(Abstract意訳)

この実験の目的は3種類の違ったウォームアップのプロトコル(低強度の運動+スタティックストレッチ、比較的高強度ダイナミックな運動、比較的高強度でダイナミックな運動を重り入りベストを着て行う)でその後の垂直跳びと、立ち幅跳びのパフォーマンスを比較するものである。被験者は16人の日常的に運動を行っている女性で、それぞれのテストを連続でない日にランダムに行った。ウォームアップとして被験者は10分間のバイクと4部位のスタティックストレッチを行うグループ(SS)、12種類のダイナミックなエクササイズを行うグループ(DY)、そしてダイナミックなエクササイズを重り入りベストを着て行うグループ(DYV)に分けられた。実験の結果、垂直跳びにおいてDYおよびDYVグループはSSグループに比べ明らかに高いパフォーマンスを示した。立ち幅跳びにおいては明らかにDYV>DY>SSという結果に終わった。この結果から考察すると、日常的に運動をしている女性(アスリート)はにおいてはダイナミックなウォームアップがパフォーマンスの向上につながると考えられる。また、特に立ち幅跳びにおいては重り入りベストを用いたダイナミックなエクササイズはパフォーマンス向上に有効なウォームアップであるといえる。



感想(後書き)

近年のトレンドの通り、ここでもやはりスタティックストレッチがパフォーマンス向上に対してネガティブな影響を与えるという結果になった。このあたりで、この原因についてもう少し深く掘り下げることはできないであろうか?多くの研究においては、筋肉レベルでの張力の変化、すなわち弾性力が失われる点に着目している。スタティックストレッチによりROM(可動域)は向上するが、弾性力は失われるというわけである。しかし、本当にこれらローカルな理由だけなのであろうか?たとえばスタティックストレッチを行うことにより過度なリラックス状態になり、副交感神経が優位になり、結果としてパフォーマンスが落ちることは無いだろうか?実は2つの全く違った指導者がリラックスすることについて似たようなことを言っている。一つ目は又聞きであるので正確では無いが、ロシアのグレコローマンのレスリングコーチは練習開始後は足の裏と手のひら以外が地面につくのを許さないそうである。これはやはり、リラックス状態をつくり出してしまうからだそうだ。もう一つは京都大学のアメフト部、水の監督のお言葉で、”シマウマがライオンに襲いかかられたらストレッチしてから逃げるか?すぐに逃げるだろ?”とおっしゃっていました。まさに緊張感をもって、すなわち交感神経を高ぶらせておくことが必要なわけです。これら、神経のパターンを研究の中で調べることができればより効果的に事実が見えてくる気がします。