奈良県労働委員会は31日、大手耐火材メーカー「ニチアス」(旧日本アスベスト、本社・東京都港区)が、アスベスト(石綿)被害救済を求める元従業員や遺族らでつくる労働組合との団体交渉を拒否したのは不当労働行為にあたると認定し、団交に応じるよう命令した。解雇などの効力を争って退職者組合が団体交渉権を得た例はあるが、退職から約25~50年以上経過した組合に団体交渉権を認めた命令は極めて異例。発症までの潜伏期間が20~60年のアスベスト関連疾患の被害者にとって画期的な判断となる。
組合は、石綿を製造していたニチアス王寺工場(奈良県王寺町)の元従業員らが06年9月に結成した「ニチアス・関連企業退職者労働組合」(庄田誠治執行委員長、組合員10人)。申立書などによると、組合はニチアスに対し、健康被害への補償や従業員と周辺住民の被害実態解明、健康対策などを要求。団交を2度申し入れたが、拒否されたとして07年4月に県労委に不当労働行為救済を申し立てた。
命令書は、元従業員について、大量の石綿粉じんを吸入し、症状悪化に不安を抱いていると認定。「雇用関係がある時に生じた事項による紛争が現在も未解決のまま存在しており、雇用関係が完全に清算されているとはいえない。石綿被害については被害に関する要求が退職時から相当経過した後に求められるのもやむを得ない」と判断した。
また、下請け企業の元従業員について、「雇用する労働者」に含まれると判断。元従業員の遺族の補償については、団体交渉の対象になりうるとした。
今回の命令後、15日以内に再審査を申し立てた場合、中労委で再審査をする。または、行政命令を不服とする取り消し訴訟を奈良地裁に起こすことができる。
組合は石綿産業の元従業員らが初めてつくった労働組合。企業側との交渉を続けている他の被害者にも大きな影響を与えそうだ。【泉谷由梨子】
◇内容吟味し検討
ニチアス本社は「命令書の内容をよく吟味し、今後の対応を検討する」とのコメントを出した。
◇解説 救済阻む個別交渉
元従業員らが団体交渉での解決を求めた背景には、ニチアス側が、独自の制度に基づく補償金について、額の実績や算出方法などを非公表とし、個別交渉にしか応じないことがある。このため元従業員らは、団体交渉を通じて実態を明らかにし、誠実な補償・救済制度を確立させることを目指している。
ニチアス元従業員の石綿による死者(じん肺含む)は224人(今年3月現在)で、被害規模は国内最悪だ。しかし、石綿を知り尽くしたかつての石綿製造の最大手企業と一個人では、対等な話し合いは到底望めない。
個別交渉について、ニチアス側は「元従業員側の要望があるため」としている。しかし、周辺住民との救済金交渉で、交渉の存在自体を口外しないことを条件に救済金を支払うとした「口止め」工作も明らかになっている。
ニチアスには、被害者のため、納得できる補償と被害実態の情報公開が求められている。【泉谷由梨子】
【関連ニュース】
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アスベスト:健康調査 「胸膜肥厚斑」が多発 ニチアスから500メートル超地点も
7月31日11時14分配信 毎日新聞
組合は、石綿を製造していたニチアス王寺工場(奈良県王寺町)の元従業員らが06年9月に結成した「ニチアス・関連企業退職者労働組合」(庄田誠治執行委員長、組合員10人)。申立書などによると、組合はニチアスに対し、健康被害への補償や従業員と周辺住民の被害実態解明、健康対策などを要求。団交を2度申し入れたが、拒否されたとして07年4月に県労委に不当労働行為救済を申し立てた。
命令書は、元従業員について、大量の石綿粉じんを吸入し、症状悪化に不安を抱いていると認定。「雇用関係がある時に生じた事項による紛争が現在も未解決のまま存在しており、雇用関係が完全に清算されているとはいえない。石綿被害については被害に関する要求が退職時から相当経過した後に求められるのもやむを得ない」と判断した。
また、下請け企業の元従業員について、「雇用する労働者」に含まれると判断。元従業員の遺族の補償については、団体交渉の対象になりうるとした。
今回の命令後、15日以内に再審査を申し立てた場合、中労委で再審査をする。または、行政命令を不服とする取り消し訴訟を奈良地裁に起こすことができる。
組合は石綿産業の元従業員らが初めてつくった労働組合。企業側との交渉を続けている他の被害者にも大きな影響を与えそうだ。【泉谷由梨子】
◇内容吟味し検討
ニチアス本社は「命令書の内容をよく吟味し、今後の対応を検討する」とのコメントを出した。
◇解説 救済阻む個別交渉
元従業員らが団体交渉での解決を求めた背景には、ニチアス側が、独自の制度に基づく補償金について、額の実績や算出方法などを非公表とし、個別交渉にしか応じないことがある。このため元従業員らは、団体交渉を通じて実態を明らかにし、誠実な補償・救済制度を確立させることを目指している。
ニチアス元従業員の石綿による死者(じん肺含む)は224人(今年3月現在)で、被害規模は国内最悪だ。しかし、石綿を知り尽くしたかつての石綿製造の最大手企業と一個人では、対等な話し合いは到底望めない。
個別交渉について、ニチアス側は「元従業員側の要望があるため」としている。しかし、周辺住民との救済金交渉で、交渉の存在自体を口外しないことを条件に救済金を支払うとした「口止め」工作も明らかになっている。
ニチアスには、被害者のため、納得できる補償と被害実態の情報公開が求められている。【泉谷由梨子】
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7月31日11時14分配信 毎日新聞