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徒然ウォッチング

エリアマネージャー日記。Q.O.L.がテーマです。

アンチエイジング ウエルエイジング ウエルビーイング(3)

2007-08-23 | 医療
さて。アンチエイジングってあまりにも広義なので、切り口をちょっと限定してみてみますと、「細胞を若く保つ術」と「身体機能を衰えさせない物理的な術」
に大別されるようです。
(よくある「気の若さ」や「見かけを若く保つ術」はおいといてですね…。)

さてその一つ目、「細胞を若く保つ術」。これには「細胞分裂時の染色体の老化」を阻害する方法と、「アポトーシスのプログラムを変更する方法」があるようです…。

細胞はアポトーシスで意味ある自殺がプログラミングされているというのが知られていますけど、もうひとつ、テロメアと言うキーワードも注目を集めていますね。
染色体の末端に存在し、線状ゲノムDNAの末端部分にあたるのがテロメアです。

細胞分裂の回数は予め決まっている…これは古くから言われていた仮説でしたが、現在は染色体の末端部分に存在するこの「テロメア」が、分裂のたびに短くなり、ある程度の短さになると分裂が停止する…(つまり組織が代謝しなくなる)ということがここ10年ほどで理論的に解明されてきました。(クローン動物はこのテロメアがそもそも短く、プログラムされた細胞分裂回数が著しく少なかったことがわかり、テロメアの存在が広く知られることになりました。)例外的にがん細胞はこのテロメアが分裂のたびに伸長するといわれており、先のアポトーシスと拮抗関係を形成します。(さまざまな細胞のミュータント…変異細胞は常にわたしたちの体の中で生まれ続けていますが、アポトーシスが正常に機能することによって自殺し、体外に老廃物として排出されています。(アポトーシスは正常に老化・壊死して細胞が死滅するネクローシスとは区別されます。)
…しかし、がん細胞でのテロメアは厄介なことにテロメラーゼという逆転写酵素の作用により伸長しますが、この機能をまたまた逆に取ってテロメアを延ばすことはできないかという研究が進んでおり、この考え方が現在のアンチエイジング研究の最先鋒といってよいでしょう。



…写真は右がアポトーシスを起こした瞬間の細胞。自ら崩れ落ちます。
マイアミ大学の画像アーカイブスから。
http://www.bio.miami.edu/

このような「人知の力づく」ともいえる染色体レベルでのアンチエイジング論も興味深いですが、身近に(なかには経口で)採れるホルモン類での治療もあります。

DHED(デヒドロエピアンドステロン硫酸塩)という副腎で作られるホルモンの摂取がアメリカでは盛んです。そもそもは月経障害のお薬として使用されていましたが、最近は新陳代謝や性ホルモン、インシュリンの分泌も助けるといわれはじめ、HGH(ヒト成長ホルモン)とともに長期のブームを形成しています。日本で言うと一時のコエンザイムQ10やαリポ酸くらい人気…といえばわかりやすいでしょうか。DHEDやHGH、エストロゲン、プロゲステロン、甲状腺ホルモンといった各種ホルモンの投与はHRT(ホルモン療法)と言われ、老化に伴う障害…たとえば免疫力の低下、肥満、骨粗鬆症、酵素の生成、更年期障害、記憶力の低下など、様々な生体コントロール機能を補助するとして、臨床でも採用されています。

これら「補う」方法のほかに「除去する」方法というのもあります。キレーションという言葉をお聞きになったことがあるでしょう。体内に蓄積された有害金属や化学物質を取り除く治療です。血液は常に浄化されて体内を循環していますが、たとえば何かの拍子に血液中にはいってしまった水銀やカドミウム、鉛などの処理ノウハウを人間は持っていません。動脈硬化や原因不明の慢性疲労や胃腸障害の治療として行われていましたが、最近は関節リウマチや成人のアトピーなどの改善報告もあり、アンチエイジング治療のひとつとして脚光を浴びてきました。
また当然肝臓や腎臓への負担も減ることなども注目されています。具体的治療は、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を点滴し、異物を尿にして排出するというきわめてシンプルなもの。Ca-EDTAという金属除去そのものを目的としたものと、Mg-EDTAといって動脈を同時に柔軟にする方法があり、年代や体質により使い分けられています。

最後に物理的ケアについて少し。
人が自身で老化を意識するのは「視力の低下」を感じたときが一番だというデータが出ていますが、起きている間は常に意識させられる「視力」の問題。「そろそろ年かな」を感じない生活というのも、精神的アンチエイジングには貢献するでしょう。…そこで、「レーシック」。まずマイクロケラトームという削り器で角膜を削って蓋状になったその膜をめくり、角膜の内部にレーザーをあてて厚みを作ったり減らしたり、形状の調整をしたりします。最後にめくった角膜をぺたっと貼っておわり。両目で20分程度というこの治療は、視力障害が軽度な場合に有効です。障害が複雑だったり、左右の収差が大きかったり、暗いところで瞳孔の開きが通常より大きくなりがちな人には「ウェーブフロントレーシック」というさらに精度の高い技術が用いられます。
遠視への特効スキームとしては、現在はコンダクティブケラトプラスティー(ck)があります。2004年3月にFDAに老眼の治療方法として認可されたばかりの新しい治療です。
角膜周辺にぐるりと取り巻くようにラジオ波を照射してコラーゲンを収縮させます。すると角膜の屈曲が強くなり、近いところがはっきり見えるようになるというものです。

…一部ご紹介しましたが、このようにアンチエイジングのためのさまざまな研究は、多方面で行われています。個人的にはこれを「アンチエイジング療法」と呼ばず、QOL療法とでも称してほしいのですけどね。…「アンチエイジング」という言葉にはクレオパトラや楊貴妃のたとえからか、どうしても一部富裕層を対象としたケア、というイメージがあるからでしょうか。…そのイメージが高級クリニックでの特別な治療という印象になり、そしてこれらのケアは高価なもの、という先入観を人々に植え付け、そして実際も高価な治療費を許容している市場になっています。勿論日本国内ではまだ保険の利かない治療も多いのですが、逆を見ると日本では入手困難なホルモンでも、米国では食材店で購入できるサプリメント程度であるというようなことも多々あります(これはこれで濫用につながるのでまた歓迎できませんが…)。

普通の人が普通にOTCまたは臨床で適切なアドバイスと注意を受け、日々の生活の質を向上させるためのアンチエイジングへのアドバイスを、セルフメンテナンスの一環として気楽に受けられる市場として成長してほしいなぁと思うのです。

…おばあちゃんになったら一般外来の「抗加齢科」なんてところに自転車で颯爽と乗り付けたいと思うワタシなのでしたw。



ウイルスでラッピング!?

2007-08-07 | 医療
なんとウイルスにお薬を包んで、治療したい目的臓器に直接届けるという技術が!

…たまたまアンジェスMGとウイルスの話が続くようですが…
6日の朝日新聞はまたまた私の大好きなジャンルの話題…。
ヘッドラインは
「病気が起きた臓器にだけ薬を届けます。そんな「薬の宅配便」技術を、大阪大の金田安史教授(遺伝子治療学)らが開発した。」…だって!うーん、面白そう。

この間このページで「閉そく性動脈硬化症治療薬」の、アンジェスMGの記事をおろしましたが覚えておいでですか?あの金田教授がまたまたですよ~。ほら、糖尿病とかで壊死した血管を新生させるっていうあの研究の先生よ。
(アンジェスと金田先生は、アトピーの遺伝子治療薬でもタッグを組んでいて、これもすごいのだ。今度書くけど。)

その金田教授が今回は「お薬を特定臓器へ運ぶシステム」を開発したという…。「宿主志向性のあるウイルス」の特性を利用し、これでラッピングしたお薬を、特定の臓器にだけ運ぶというシロモノ。すごーい。

副作用が防げるだけでなく、お薬を連続投与しなければならないとき、肝臓への負担がかなり軽くなりますよね。薬漬けになっちゃった患者さんは当然肝機能が落ちている。田舎の病院にいくと治療が出来ない…というより新しいことを勉強できなくなっちゃったおじいちゃんのお医者さんが、やはりおじいちゃんやおばあちゃんの患者さんにお薬をガパガパ出して、お年寄りたちはみんな肝臓がヘトヘト状態…。これはなんとかせねばねーと常日頃思っているのだけど(勿論私ごときではなんとも出来ないが…)こういうおばかな連鎖がひょっとしたら防げるようになるかもなのだ!

これまでも、「狙った臓器や組織に薬を届けるドラッグ・デリバリー・システム」の仕組みはあったけど、ウイルスの「宿主を探す習性」を使うという点で斬新です。ちなみにイレッサのように狙った組織を狙い撃ちする分子標的薬の概念とはちょっと違います。あっ、電子版でも記事見れます。こちら

この分野って、まだまだ縦横のつながりがサロン的ではあるにしても、閉鎖的でもない不思議なネットワークですよね。産学ベンチャーの雄アンジェス、いい感じです。きょうまたこれから田町のそのMビル(行き先は別の会社だけどw)に行くんですが、身近さも手伝って、最近ちょっとご贔屓です。

「お薬好きだけど薬漬けはんたーい」の私としては、この研究進んで欲しいです♪

アンジェスMG

2007-06-19 | 医療
産学発のベンチャーって、これを実際に運営するのはかなり難しい事みたい。
大学には「商売のための予算を組む機能」がそもそも存在しないし、一方R&Dの会社の実務のかなりの部分は研究開発費の調達。研究者たちは資金集めに費やす時間なんてそうそうありません…。これを相互に補完しようというのが「産学ベンチャー」。医療で一儲けしようとした野口英世なんてかなり特殊な例なのだ。…おっと、まあ、この話はおいといて…

そもそもR&Dとマネジメントは融合しないものなのだ。(と思う…)だから日本の産学ベンチャーはマネジメントを分離したり経営人材を外部から調達したりという完全分業制をとることになるのだけど…。大阪大学発のアンジェスMG(マザーズ4563)もそうしたバイオベンチャーのひとつです。
日曜日、関西から戻る飛行機の中の読売新聞で、「閉そく性動脈硬化症」の遺伝子治療薬の開発に取り組んでいた同社が、それを今年度中に厚生労働省に申請するという記事を見ました。
遺伝子治療薬の承認申請は国内で初めて。同社は米国で既に先天性代謝異常疾患「ムコ多糖症VI型」の治療薬の開発に成功してて、米バイオマリン・ファーマシューティカル(加州)からの販売権を得ているけれど、日本国内では遺伝子治療薬の承認はおろか申請が許可された例も今回が初とあって個人的には興味津々。
…なのだけど、株式市場は意外と冷ややか。もちろんリリース前に比べると上方向き高値圏内ではあるけれど、目立つほどの動きはなさげ。やっぱり「日本で遺伝子治療創薬は時期尚早でしょー」という静観姿勢が株価にも出てしまいます。

マスコミの冷ややかさは記事の取り扱いにも出ていました。新聞は機内の備品でしたから返却し、オフィスに戻って東京の新聞(電子版だけど)を開いても、同じ読売なのに東京には出てこない。まあたしかにバイオベンチャーのニュースリリースは「ここ一番、資金調達したい!」タイミングに発するというのが通例になったりもしているので、「またかよー」みたいな対応をされてしまうこともあるみたいね。

「閉そく性動脈硬化症治療薬」っていうのは、糖尿病とかで壊死した血管を再生するっていう、いわば「最後のカード」的なお薬。QOL最優先を主張するアタシとしては、やっぱり厚労省さん、許可して欲しい!…派なんだけど、はたしてターボはかかるのでしょうか。
こうしている間にも患者さんたちの足の血管の壊死は進んでいるわけだし、副作用があったとしても(現在のところは発表なし)私なら生活の質は自分で選びたい…。…なわけで、早期の承認を望んでます…。

さてアンジェスMGの本社は阪大に程近い彩都バイオインキュベータというインキュベーション施設のなかにあるそうですが、マネジメントは東京なのね。ふうん。
機内でこの記事をみた翌日のこと。締め切り間際のレポートを仕上げて、いつもの田町のクライアントのところへ。
エレベーターホールで、なんとなくディレクトリを眺めてびっくり。なんとアンジェスMG東京支社のプレートが!
クライアントの入っているこのビルには三年前からほとんど毎日のように来ていたけど、アンジェスは大阪の会社という思い込みが強くて、(名前パクリ?なんて思ってた)ぜんぜん気づきませんでした。そっかあ…



なんとなく身近感も手伝って応援のキモチが膨らむ私なのでした。

あっところで、大阪にラボ、東京にマネジメントを置いたのは、これは正解かもしれませんね。絶対互いの都合を理解できないラボとマネジは、顔をあわせると往々にしてまず喧嘩になるのです。アンジェスがということではなくて、それはどこの産学ベンチャーもおなじなのよね。この深い川をどう乗り切るかが成功の可否を握っているのかも。

次なる幹細胞

2006-08-12 | 医療
かねてから注目されていた、京都大再生医科学研究所の山中伸弥教授らのiPS細胞についての研究が米科学誌セル(電子版)に発表されたとか。

従来、ヒトES細胞を再生医学に応用することは倫理上の問題が取りざたされたり、悪性腫瘍への転化が懸念されたりしていたけど、山中教授らの研究による誘導多能性幹細胞(iPS細胞)は、自己の細胞からES細胞に似た多能性と増殖能力を兼ね備え、かつ腫瘍の形成に至らない特殊な幹細胞なんだって!(ゆ・ゆめみたい!)おまけに「その人本人の細胞」なので、当然にして受精卵も未受精卵も使わない。ゆえに生命の大元を傷つけることもない。これはすごぉい。

既にマウス実験では、この細胞(iPS細胞)を皮下に注射すると、ES細胞を注射した場合と同様に、消化管のような構造と、神経組織、軟骨組織が生じたんですって。もう人の体細胞を使った研究に入っているっていうけど、再生と抗加齢医療がますます注目を浴びそうなこの時代ですから、一層期待されちゃいますね。…どこからどこまでが「治療」なのか「メンテナンス」なのか、はたまた「神の手を遮る行為」なのか、その端境は難しいところだけど、「それでどうする」ということよりも、「その気になればソリューションはある(カモシレナイ)」ということに人が繋ぐ期待があるということは、それだけでQOLの向上になるのです。

山中教授の研究はこちら

ところで今は大阪です。例によって旅先ではヒコーキの中でもホテルでも「紙の新聞」が読めるので嬉しいです。じゃ、取ればって?…うーん、東京にいたら読まないのよねぇ…。
写真はホテルを出てレンタカーで難波に向かう道中のヨドバシカメラ。

淀橋という名前は新宿の高層ビル群があったところの昔の地名。昔は淀橋浄水場って言う大きな浄水場があったらしいんだけど、…東京の地名に由来するお店が大阪駅前に進出してるなんて、目の当たりにするとちょっと変な感じでもあります。

PNAS

2006-06-14 | 医療
アウェー先での目覚めはいつも比較的良好。
二時間しか寝てなくても、慣れない目覚ましの音なら結構ちゃんと起きられますからね。
おうちの目覚ましやケータイアラームでは、音に慣れきってるから寝過ごしかねない…あたらしい目覚まし時計買わなくちゃ…そろそろやばいかも…。

とりあえずよろよろと起き出してドアの外の新聞をピック。
ウェブニュースしか読まなくなってしまったので紙の新聞そのものの存在も嬉しいのだけど、「産経新聞」なんて挟まっていると、ますます非日常(サンケイさん、ごめん)でちゃんと目が覚めてきます…。

社会面を見ると、「アルツハイマーのDNAワクチン開発」のニュースが。
やや。これでさらに目は覚めた。
アルツハイマー病は、以前のこれとか、こことか、形質的に他人事とは思えないので、割としつこく取り上げてきたけど、…そう、ダイハードな私が一番将来の恐怖に思っている病気の一つなのです…。

記事によると、東京都神経科学総合研究所の松本陽参事研究員らとスイスの研究チームが開発したワクチンで、副作用も少なく、かなりの効果が期待できるというもの。

先におろした子宮頸がんのワクチンもすごいなと思ったけど、こっちのほうが身につまされるので、ついつい紙面に見入ってしまう。既にかなりのお目覚め状態。

なんでも、βアミロイド(産経新聞では「アミロイドベータ」と表記)を作り出すDNAをあらかじめ細胞に組み込むことで体内に抗体を作らせ、βアミロイドの脳への蓄積を食い止めるというもの。既にサルでの実験で安全性を、マウス実験では確実な有効性を認めたとか…
三年以内に臨床実験開始ということだから、私がおばあちゃんになるころにはワクチン投与できるかも♪

…んっまてよ、でもこれって耳に目に、そんなに新しい話題ではないような気が…。
そう、ちなみにこの研究発表は実は2003年ごろからこつこつと?毎年のように発表されていたのです。が、当時はまだ検体によっては反応しなかったり研究そのものに大きな進捗もなかったということもあるのでしょうか、足踏み状態だったようですね。ほら、こことか、、こことか、過去にも結構頻繁に発表してる。

今回、米科学アカデミー紀要電子版の13日版に掲載されたということで…産経新聞のはご祝儀記事かな?どこだかわからないけど、もしかしたらスイスの研究チームとかいうところが関与したことによって、都立研究所での予算では賄えなかった研究が前進したり捗ったりしたのかもしれません…スイスの研究チーム…うーん、どこだろう…

…で、今東京に戻って探し当てた、そのPNAS(米科学アカデミー紀要電子版)の、
昨日13日の記事

…でも、ユーザー登録して二日以内に10ドル払わないとPNASの記事は全文よめまっしぇん。あしからず…

肺がん遺伝子マーカー

2006-01-11 | 医療
一年と少し前、このブログ上で「自転するカプセル内視鏡」についてオリンパスの技術の一端に触れさせていただいたことがありましたが、今年は光学機器の話題ではありません…なんと今度は肺がんの遺伝子マーカーとその検知デバイス開発の話題です。
お正月明け早々に、ちょっと巷の熱い話題になっているこのニュース…少し徒然ふうの解説を加えさせていただきつつレビュー。

…これはオリンパスと米国キャンジェン社(メリーランド州ベセスダに本社を置く、まだ設立五年少々の韓国系バイオベンチャー)との共同事業で、両社は一昨年から膀胱がんマーカーを、そして昨年四月からはこの肺がんのDNAマーカーを共同開発していました。キャンジェン社提携先である韓国のヒュンダイ病院の患者200人分の病変から特有な遺伝子10種を発見、これを目印(マーク)に、70~80%の精度で肺がんの特異的DNAを検出することに成功したそうです。

研究に成功した…だけでは単にラボレベル。これを具体的に実用化するのが企業の企業たるところなわけですが、これからの作業としては、まずこのDNAが血液中に滲漏した状態での検出を成功させること、次にこれを実地で使用できる検知機そのものを開発すること、この2ステップがあります。最初のステップは今年四月ごろ、次のステップは八月ごろ完成を予定しているといいますから、なんともすさまじいスピードですね。
(ベンチャーとの提携の骨頂は、このスピードにあり、なのかもぉ…。)

少し前まで、日本人のがん死因のトップは胃がんでした。内視鏡などの進歩により早期発見が可能になったり、また腹腔鏡下手術などによるダメージの少ない治療法も確立されてきたこともありますが、現在は代わって肺がんがその不名誉なランキングの一位に躍り出ています。過去現在いずれのがんの最多死因をも突き止めようとするオリンパスの姿勢には、開発者としての姿勢のみならず、商業化と社会貢献へのコンセプトが破綻していないことに唸ってしまいます…。

DNAマーカーという言葉、最近よく聞きますよね。今回オリンパスらが開発しているこの肺がんの特異的DNAマーカーというのをもうちょっと解説しますと、私たちのヒトゲノムのDNAはAGCTの順列が正常に整っている状態が普通なのですが、がんに冒された細胞ではそれぞれその部位(種類?)により、特異的に順列が変化するDNA領域が存在するといわれていて、この配列を見つけ出し、印をつけることを可能にするものを総称してDNAマーカーといいます。

あと、がんの判定には分子診断法といって、特定の生体分子(DNA、RNA、タンパク等)の数や質量の増減を監視、がん細胞の有無や悪性の度合いなどを知る方法もあります。今回の共同開発は前述のようなオリンパスのDNA解析技術と、後者キャンジェン社の分子診断技術をまとめ、精度の高いマーカーとして応用できるところまで高めたところにその成果があったようです。なんと8月には実用化というスピードに感嘆するとともに、日本の光学メーカー、アメリカのバイオベンチャー、そして韓国の病院という国際的コラボレーションに拍手したいキモチ。グローバルって、「そこでできないことはできるところでやる。身軽であること」…であるべきよね。
キャンジェン社での紹介はこちら。
日経新聞のサイトでの記事はこちら

幹細胞関連ベンチャー

2005-11-18 | 医療
幹細胞についてはこのサイトでも何度か話題にして参りましたが、きょうは幹細胞をめぐるR&Dに携わるベンチャーやその分野を取り巻く環境のお話を。

昨年発足したバイオベンチャー、バイオリジェネレーションズ社は、本日、自己のための羊膜細胞バンクを企画商品とし、10年間9万円で冷凍保存すると発表しました。
ここ数年、臍帯血や臍帯・羊膜・胎盤など新生児をとりまく組織から幹細胞 を取り出して保管するという研究やその商品化が進んでいるようです。

臓器の移植またこれに類する治療は、拒絶反応や処置後の悪性腫瘍の発生…でなければ倫理上の問題など、さまざまな問題を孕んでいますし、またそれ以前にそこに踏み切れるまでの道程があまりにも困難を極めていることで、行き詰まりの感なきにしもあらずという雰囲気でしたが、これに代わる幹細胞関連の研究開発が、多方面で奨励、推進されはじめたようです。

独立行政法人科学技術振興機構は昨年、大学発ベンチャー創出推進事業に、この分野を採択しています。
まだ開発途上分野であるにもかかわらず、羊膜細胞由来の幹細胞に大きな期待がかけられているのは、羊膜細胞由来の肝細胞は他の細胞よりも同種移植による拒絶反応が少なく、臓器や再生皮膚などの分野で可能性が大きいこと、また癌抑制遺伝子や神経成長因子、欠損酵素などの遺伝子を羊膜細胞由来幹細胞に導入することにより、様々な治療に対応できる可能性があり、神経変成疾患(アルツハイマーやパーキンソン病など)や脳代謝に関する疾患に対しても対応策が具体的に考えられるということにあります。
(神経変成疾患の多くはヒト遺伝性疾患…(hereditary spastic paraplegia (HSP)これはミトコンドリアの変異性、つまり遺伝性疾患であるといわれています…)

また、既にヒト羊膜組織を培養し、コラーゲンシートや角膜上皮シートを既に商品化している株式会社アムニオテックも、具体的プロジェクトはまだ発進してはいないものの、富山医科薬科大学との産学連携により、この分野の研究開発を積極的に進めていたりと、さまざまなバイオベンチャーが前出の科学技術振興機構の後押しや時代の潮流に乗って次々と民間事業に参入してきています。

…現在健常な人がもしものときのために自己のための臓器を再生する手段の確保と、遺伝子に欠陥を持つ人が他人の正常な遺伝子を取り入れて正常な機能をとりもどすこと、これからの諸肝細胞研究は、このふたつのテーマを基軸に、比較的速いスピードで進んでいくことになると思われます。自己の細胞を生成するための保存そのものには倫理の目は比較的穏やかですが「生まれながらにして欠陥を持つ遺伝子」に正常な遺伝子を導入すること、は臓器のそれとどう差があるのかという点でこれからの課題にさらされそうですが、私個人的には癌抑制遺伝子の投入や正常な神経成長因子の投入、生まれながらにしてその人に欠損している酵素類の補充という意味での幹細胞培養の採択にはQOLの維持という意味で、賛成の立場です。

遺伝子治療と一口に言っても、その時間的経過といいますか、生成段階や目的により受ける印象が変わりますね。一時とはその言葉の印象も少し様変わりしてきた印象さえあります。遺伝子のボタンの掛け違えをちょっと修正することで快適な人生を人が送れるなら、または絶望との距離を取ることが出来るなら、人権という見地からも、多くの患者さんの光明になる研究が行われてほしいと思いますし、また実践上でのまだ見えぬ問題を洗い出すという意味でも、神の手を遮らぬ範囲で、この分野のバイオベンチャーの活性を期待しています。





医療経営大学院

2005-10-30 | 医療
まだ夏物も片付かないというのに紅葉の季節になってしまったみたい。
集中してた締め切りにまたも忙殺されてました。まったく情けない。季節の移ろいもまったくわからなくなってるなんて…。
…でもちょっと季節感なショットもあるよん♪

さて、ベネッセの教育情報サイトによりますと、
「病院や診療所などで医療経営を担う人材を養成する専門職大学院作りに、東京大学や大阪大学が乗り出す。病院の会計やリスクマネジメント、チーム医療などについて、関係団体や民間病院と協力して実例データを集め、ケーススタディーやロールプレイングで実践的に教育するプログラムを作る。経済産業省がこのほど補助事業に選び、プログラムの開発を後押しする。」んですって。

世襲が多い日本の病院…だからこそ必要かもしれなかったのに医学部に医療経営学部がとても少ないのがこの国の現状でもありました。とかく病院経営者はまずお医者様であるべしみたいな不文律が存在する日本の民間病院ですが、とにかくお医者さんになるためのカリキュラムとスケジュールをこなし、研修医時代という厳しい時期を経て(とにかくほかのことを学ぶ時間なんてないはずなのに…)、その上で経営を学ぶなんて、とてもじゃないけどそもそもアクロバチック。医療経営学部なんて、なくて当然といえば当然でございました。

個人的には病院経営者が必ずしも医学博士である必要もないのではと思っていますし、かえって医師免許取得のために費やす時間を、マネジメントのために配分してしまってもよさそうなものではないのかとも思ってます。こんなニュースに触れてみていまさらながらですが、この国の権威主義や慣習からくる無理やいびつさが露呈した印象です。

医療経営学といえば、広島国際大学がなんとかその最右翼として実績を作りつつあります…。ほかには国際医療福祉大学、和光大学、東洋大学など…でも、誤解を恐れずに言えばですが医学部を擁しない大学が医療経営を教えることには現実・現場との乖離と、世間が求めているものとの格差が感じられます。どちらかというと従来のこれらカリキュラムの中身は結果的に「事務長向け、経理担当長向け」のカリキュラムであったことは否めません。

たとえば…現実を見れば、レセプトを担保に短期運転資金の調達をしたり、医療法人として保有する土地などの制限つき資産の運用ストラクチャーを駆使したり、償却資産を再リースなどしたりして新しい機材を導入するなどで資産と負債のバランスを正常にしたりといったことについては経営者でなければ最終判断できないもので、単にお局や長老で院内の台所を知り抜いていたとしても、現実にはアンタッチャブルな領域です。現実の中小病院の経営とはそうしたものも多々含まれるので、所謂学問が現実に活かされる教育がもっと経営者向けにあっていい筈だと考えたりもします。(経理や人材配置に長けていることももちろん大切なマネジメントではありますが、それらはまた別のセンスでしょう。)

前出の広島国際大学の岡部陽二教授は旧住友銀行から明光証券会長という金融畑の方。…しかし、なればこその病院経営理論を展開する稀有な指導者ですが、いまひとつ現実とのマッチングが成功しているとは…客観的には思えません。同教授の能力と知識と高い意志が、勿体無く感じます…。

再度…ベネッセのニュースには
「東京大学の計画は、総合病院の病院長など経営トップとなる人材を育てるため、リーダーシップの養成や財務・会計分野の学習に重点を置く。東大付属病院を中心にJR東京総合病院、NTT東日本関東病院、亀田総合病院などが協力する。 」とあります。

国立大学たる東大、民間人の私からすると官の派生病院にしか見えないJR東京総合病院、NTT東日本関東病院、そして確かに素晴らしいけれど、若干趣味的で資本潤沢な亀田総合病院らの協力から、いったいどんな「経営学」が生まれるのでしょうか、…見てみたいとは思いますがこれらはある種類の一部の病院にしか適応しないセオリーではないのかという不安も感じます…。

…やっぱり数で言えば民間の中規模の病院が圧倒的にこの国の日常の医療を支えているのだし、(特に地方…)個人的に元気になってほしいのはまさしくそうしたところです。だから順番としては「病院経営者は医者であるべし」たる、根拠不明の定義を排除していく意識改革が利用者の側からも優先されるのではないかしら。
最近では外部のコンサルタントとかっていう人たちがどしどし土足で踏み込んできて、乗っ取られちゃうとかっていう事態も現実に起こっているのだし…。(で、結局最終的には潰して土地などのおいしいアセットだけを持って行っちゃうとかね…)

現にあの大前研一さんとこの講座にはこういうのもある…。実際の病院経営者の方が受講されるならいいけど、かれらは勿論そんな暇じゃありません。自称「コンサルタント」さんが、受けておられるケースが結構多いのだと聞きます…。

青年老い易く学成り難し…。時間って、本当に限られてますよねぇ…。器用な人ばかりじゃないんだから、もっと効率よく教育は受けたいものですよね…。