【阿多羅しい古事記/熊棲む地なり】

皇居の奥の、一般には知らされていない真実のあれこれ・・・/荒木田神家に祀られし姫神尊の祭祀継承者

付記4c: ダイヤモンド、見たいでしょう?

2024年03月01日 | 歴史

 

皇居では、大抵、来客用の休憩室に通された。
ちょっと高級なホテルの一室といった風で、二十畳くらいある寝室の右側の壁に作り付けの衣装箪笥があって
その奥のドアを開けると、化粧室、またさらに奥のドアを開けると、不必要にただっ広い浴室があった。
そこへ今日も、五歳の私が女官に案内されて来たわけだ。絨毯は私の靴が埋まりそうなくらい、ふっかふっかだった。
 
 
しかし、その日、女官はいつものように正面の化粧室へのドアではなく、何故か、もう一つの左側のドアを開けた。
「来ては駄目よ。そこで待っていてね」 
そう言われたので、私は大人しく衣装箪笥の前に立っていた。
私が通された部屋は主寝室のようだったから、その隣りもやはり奥まった寝室なのだろう、と想像されたが
女官が素早くドアを閉めたので、奥の様子はよく見えなかった。
 
 
再びドアが開いた時、女の両手の上に、眩いばかりのダイヤモンドのティアラが載っていた。
それは子供用の小さい物だったが、宝石が隙間無く埋め込まれて、女がこちらへ歩み寄って来る間にも、無数の光が乱舞した。
「綺麗でしょう」 うっとりした眼差しで、女は言った。
だが、私のほうは、内心、泡を喰った。
「本当ですね。・・・」 ようやく喉を絞るように応えると
「そうでしょう」 女はただ一人、自己の世界に陶酔したかのようだった。
 
 
それから、続けて、私が腰を抜かすようなことを言った。
「もっと、大きいのがあるのよ。見たいでしょう?」
言うが早いか、ひらりとスカートを翻して先程のドアへ返り、すぐ様、再び登場すると
両手で捧げ持って来たのは、先ほどの物より倍以上大きい大人用のティアラだった。
「ほお、らっ」
女はその冠を自分の胸の前から前方へ真っ直ぐ差し出して、踊るように爪先でくるりと一回転しながら、それを頭上高く掲げて・・・自分の頭に載せた。女は西欧のプリンセスみたいだった。
 
 
「でも、ねえ・・・ それは誰の冠?」
「皇后さまのよ。誰にも言っては駄目よ」
私はもちろん頷いたが、女は信用しなかった。
「あなたも、これを被りなさい。」 
小さい方のティアラを指差して、私に共犯者になるよう強要した。
「厭だ」と言って背中を向けると、無理強いに、私の頭にティアラを押し付けて
「これでいいわ」と、儀式の終わりを告げた。