背景
インジウム(In)の核磁気モーメントは、硫黄(S)核子の配置や六角形四面体構造との相互作用によって大きく影響を受けることが示唆されています。
酸素(O)核子よりも硫黄核子がつくる複合構造が、核磁気モーメントに対してより強い寄与をもたらします。
酸素(O)核子よりも硫黄核子がつくる複合構造が、核磁気モーメントに対してより強い寄与をもたらします。
計算モデル
- 六角形四面体構造
各核子は六角形四面体を形成し、組み合わせることで複雑な核内クラスターを構築すると仮定 - 差分計算法
各インジウム同位体の核磁気モーメントμ(In)を、影響を大きく受ける核子ペア(Nb–S, Mn–S, Nb–S–As など)の既知値の差として近似
〈例〉μ(¹¹³In) ≃ μ(⁹³Nb) – μ(³³S) - モデル値の取り扱い
一部同位体(¹¹⁶In, ¹¹⁸In, ¹²⁰In, ¹²²In など)では実測値が未公表のためモデル値を使用
実験値と計算モデル値の比較
同位体 実測値 μ_N 計算値 μ_N 計算式 差分 (μ_N)
113In | 5.5289 | 5.5267 | 6.1705 (⁹³Nb) – 0.6438 (³³S) | 0.0022 |
114In | 2.8170 | 2.8094 | 3.4532 (⁵⁵Mn) – 0.6438 (³³S) | 0.0076 |
115In | 5.5408 | 5.4972 | 6.1410 (⁹⁵Nb) – 0.6438 (³³S) | 0.0436 |
116In | 2.7863 | 2.7863 | 3.4301 (⁵⁷Mn) – 0.6438 (³³S) (モデル値) | 0.0000 |
117In | 5.5190 | 5.5092 | 6.1530 (⁹⁷Nb) – 0.6438 (³³S) | 0.0098 |
119In | 5.5150 | 5.5092 | 6.1530 (⁹⁷Nb) – 0.6438 (³³S) (モデル値) | 0.0058 |
121In | 5.5020 | 5.5092 | 6.1530 (⁹⁷Nb) – 0.6438 (³³S) (モデル値) | –0.0072 |
123In | 5.4910 | 5.5092 | 6.1530 (⁹⁷Nb) – 0.6438 (³³S) (モデル値) | –0.0182 |
124In | 4.0430 | 4.0697 | 6.1530 (⁹⁷Nb) – 0.6438 (³³S) – 1.4395 (⁷⁵As) (モデル値) | –0.0267 |
125In | 5.5020 | 5.5092 | 6.1530 (⁹⁷Nb) – 0.6438 (³³S) (モデル値) | –0.0072 |
126In | 4.0340 | 4.0697 | 6.1530 (⁹⁷Nb) – 0.6438 (³³S) – 1.4395 (⁷⁵As) (モデル値) | –0.0357 |
127In | 5.5220 | 5.5092 | 6.1530 (⁹⁷Nb) – 0.6438 (³³S) (モデル値) | 0.0128 |
※ 118In、120In、122In は実測値未公表のため解析対象外
構成元素ごとの影響傾向
- 奇数質量数(A=113,115,117,119,121,123,125,127)
μ_N ≃ 5.5 前後
主にニオブ(Nb)–硫黄(S)の相互作用が支配的 - 偶数質量数(A=114,116)
μ_N ≃ 2.8 前後
マンガン(Mn)–硫黄(S)の複合構造が強く寄与 - 偶数質量数(A=124,126)
μ_N ≃ 4.0 前後
ニオブ(Nb)–硫黄(S)–ヒ素(As)の三者複合が鍵
結論と今後の展望
このモデル解析から、硫黄構成の影響がインジウム核磁気モーメントに対して決定的に大きいことが確認できました。特に、核子が六角形四面体を組み合わせる構造は、核磁気モーメントのバリエーションを生み出す重要因子です。
今後は以下の点を検討すると展望が開けます:
- 未測定同位体(118In, 120In, 122In)の実測によるモデル検証
- さらなるNMR測定によるクラスター構造の実証
- 核子配置と電子構造、超伝導性材料への応用可能性調査
これらの研究は核物理学のみならず、材料科学や量子マテリアル設計にも新たな知見をもたらすでしょう。