労働派遣における「同一労働、同一賃金」について
- 背景
通常,企業にとって派遣を利用するメリットは,募集・採用費コストの抑制,労働・社会保険の手続が不要である等,事務管理コストが節約できる点にあります。また,特に,労働派遣会社が従業員とのコミュニケーション,労働紛争の予防の面で重要な役割を果たしていることからも,多くの外資企業は派遣労働者を使用しています。但し、派遣を利用する際には「同工同酬」(つまり同一労働、同一賃金)を十分に考量しないと、思わぬ労働紛争に巻き込まれる恐れもあります。
- 事例
2014年3月に労働派遣会社に労働契約の終止を言い渡された王氏は、労働派遣会社と雇用先会社の双方を労働仲裁に訴えました。仲裁事由は、常日頃から業務を十分にこなしていたが、正社員にたいして四半期に一度ボーナスの支給されたけれども、王氏にはそれが支給されていなかったので、その補充支給を申し出ました。
- “同一労働、同一賃金”の法律根拠
2008年1月に施行された『中華人民共和国労働契約法』第63条では「被派遣労働者は、雇用企業の労働者と「同一労働、同一賃金」の権利を享受するとされています。雇用企業に同類職位の労働者がいない場合、雇用企業所在地の同種または類似の部署の労働者の労働報酬を参考して確定するとし、更に、2014年に施行された『労働派遣暫定規定』第七条では「労働派遣契約では同一労働、同一賃金原則に則り、労働報酬額及び支払方法を定める」とされています。
- 「同一労働、同一賃金」とは
上記規定から「同一労働、同一賃金」とは「同等な労働報酬分配方法」だと読めます。「同等な労働報酬分配方法」を実現するためには、“同一労働”とは一体何なのかを明確にする必要があります。労働部の中華人民共和国労働法の若干の条文に対する説明の第46条では「企業は同一の業務に従事し、同一の労働量を費やし、且つ同一の労働業績を取得した労働者に対しては同一の労働報酬を支給するべきである」ととされています。但し、労働者の経験、業務態度、専門技能、知識等により労働量や成果の質が異なり、個体差が生じます。各職位の設定及び評価を行う際に、相応する差異を明確にすることは実務上認められています。
- “同一報酬”とは
“同一報酬”は所謂賃金給与を指しています。賃金給与総額の考え方は「賃金総額構成に関する規定(国家統計局令【1990】第1号)」第4条にて「①時間払い賃金、②出来高払い賃金、③賞与、④手当及び補助、⑤時間外労働の割増賃金、⑥特別な状況下において支払う賃金」とされています。
また、“福利待遇”について、どうなのでしょうか。『労働契約法』第62条では「派遣先は(三)時間外勤務手当、業績賞与、職位と相当する福利待遇を提供しなければならない。」とされています。ですので、福利待遇は専ら同一ではなく、職位と相応していることから、賃金体系を作成する際には、十分に考量する必要があります。
因って、前述の事例の王氏の申し出は、以上の法律規定からみると、正当である故、支持されました。“同一労働、同一賃金”を実現するには、以上の法律規定を踏まえて、公平性のある賃金管理制度の作成、労働報酬と従業員が提供する労働量及び業績成果を関連付けることが必要となります。